ネコ苗にご注意 林 雅彦
最近中国から輸入され、非常に安価にかつ大量に販売されている優良品種(?)の苗があります。これらの苗はこれら優良品種の国内繁殖苗が数千円するところを数百円という激安価格で売っているのですが、名前が全く信用できないことの他、根が出にくい、あるいは根が出るまでに非常に時間が掛かるという問題があります。
これらの苗は培養苗ですから中国での販売原価は100円以下、多くは50~60円と見られます。培養苗は品種にかかわらず、培養容器から出した時点で原価は20~30円です(イチゴなど大量繁殖苗では10円以下)。ただし容器の中は湿度100%ですから光を十分当てていても苗の組織は非常に軟弱です。これを普通の温室の環境条件下で1年間ほど養生し、組織を締めた苗にしないと、普通の温室条件下ではうまく育ちません。いじけて枯死したり、腐死してしまいます。
つまり上記中国苗は価格の安さや根が非常に出にくいことから、必要な養生をせずに、あるいはせいぜい1、2か月程度の養生で輸出しているのではないかということです。このような養生不十分な状態で販売される苗をネコ苗(寝子=なかなか目が覚めない)と呼んでいますが、特に夏季は腐死や枯死が多くなるので要注意です。湿度、温度を十分コントロールできる設備を持たない場合は、ネコ苗は涼しくなるまで購入を控えた方が安全です。
今年初めにやはり大量に販売された韓国苗らしい培養苗は、最近のネコ苗より大きめでかなりしっかりした苗でしたから、少なくとも1年程度は養生してあったようです。
また中国産培養苗でも信用を重んじる業者は輸入してから十分管理された施設で養生し、根をしっかり出させた後で少量づつ販売しています。輸入してから販売するまで半年以上は養生するわけですから、価格はネコ苗より高くなりますが、名前の正確性や苗の状態でははるかに安心して購入できます。ただし養生中は大量の在庫を抱えることになるので、十分な資金が必要になります。
一方、ネコ苗の安売り業者は単に儲かりそうだということで新規参入した素人で、資金がないので自分で時間をかけて養生する余裕がありません。そこで輸入したら大量に安売りをして資金を回収し、次の輸入に充てるという自転車操業を繰り返していると見られます。
ネコ苗をそのまま大量に売りさばく転売業者は資金繰りが忙しいので次から次へと同じ商品を大量に販売します。したがって初め高かった苗もあっという間に価格暴落を起します。そうなると初めに高値で買った人は大損をします。
ネコ苗の輸入原価は運賃や関税、手数料などを含めて100円からせいぜい200~300円ですから、養生せずにそのまま販売するなら適正価格は500円程度でしょう。彼らは資金繰りが忙しくて売らざるを得ない状況ですから、買い手が手控えれば半年以内に500円程度以下になると見ています。実際初め数千円以上していた苗でもこの半年で500円以下になっている例がたくさんあります。培養苗は大量に生産されているわけですから、焦って高値で買う必要は全くありません。
またネコ苗業者は信用などまったく気にしていないので、名前(品種名)の混乱やごまかしもひどいものです。有名品種を想定させるような名前で、あるいはそれらしい中国名でまがい物を売るのは日常茶飯事です。
この場合、買って育ててみたら偽物だったとしても文句のつけ様がありません。そのような名前から想定される有名品種であるとは言っていないからです。だから「写真で判断してください」としか言わず、何の商品説明もしないのです。質問してもごまかすのが目的ですからまともな返事が来ることはありません。
ただしそのように名前をごまかして販売する行為は、商標登録の有無にかかわらず、不正競争ですから日本ハオルシア協会として裁判を準備しているところです。
さらにひどいのは、これらネコ苗業者はすでに市場が飽和してほとんど売れないような商品でも、名前を変えてごまかして売ろうとしていることです。例えばレイトニーは非常に仔吹が良いので、ただでもいらないという人が多いのですが、これに「紅水晶」とかいう名前を付けて売っています。説明もないので、「よく似ているが、別ものかもしれない」と思って買う人がいることを狙って、レイトニーではなく「紅水晶」という名で売るわけです。
同じことが「シルバニア」にもあります。ネコ苗業者は「シルバニア」によく似た苗に「銀亀」という名を付けて売っていますが、「シルバニア」はやはり市場が飽和していて、「シルバニア」という名では小苗は相当安くても売れません。しかしこれに「銀亀」という名を付けて売ればやはり「シルバニアによく似ているが、別ものかもしれない」と思って買う人がいることでしょう。
もちろん「銀亀」が「シルバニア」とは別クローンである可能性もありますが、再三指摘するようにラベルなしで識別できなければ別クローンでも同一品種です。そして仮に「銀亀」が「シルバニア」とは別クローンだとしても、「シルバニア」より明瞭に優れているようには見えません。そうなると「銀亀」は「シルバニアもどき」か「偽シルバニア」ということになってしまいます。同様の例は「太陽」などにもあり、今では見向きもされない「偽太陽」が一時「太陽」として出回ったことがあります。
このように、市場では飽和状態でもうほとんど売れないような品種に別名を付け、さも別品種であるかの如く装って売っている例は他にも、紫肌玉露(=紫オブト)、石井ピグマエアと雪姫(=雪の里)、エンジェルドロップ(=天使の涙)などたくさんあります。本当の「雪姫」は金子氏育成の「エンジェル」などの姉妹品種ですが、輸入転売業者が売っている「雪姫」はまったくの別物で、「雪の里」の類似個体です。
さらにどうもビッタタ系(ブラックバーデアナ系)の雑種らしい斑入りも「水晶宝草錦」とかいう名で売られていますが、斑の入り方から見て薬品で斑にしたような感じですから、斑の安定性はかなり疑問です。他にも多数の斑入り中国苗が売られていますが、培養と薬品を組み合わせて作られたような斑入り苗は、しばらくすると斑が消えてしまう可能性がかなり高いという点は留意してください。
これらネコ苗業者の商品名がいかにいい加減であるかの例をいくつかご紹介します。
写真①は最近「ハオルチア スプリング」という名でヤフオクに出品されたものですが、おそらくH.
springbokvlakensis ではなく、その雑種と見られます。「トロピカルナイト」(「日月潭」)も最初「ハオルチア スプリング」という名で売られていました。
写真① 「ハオルチア スプリング」として売られていた苗。2021年7月31日のヤフオク画面より。
写真②はやはりヤフオクに「大型寿」という名で出品されたものですが、あきらかにコンプト交配で、寿(H. retusa)ではありません。
写真②「大型寿」として売られていた苗。2021年7月31日のヤフオク画面より。
写真③は「チカチカチュ」という名で出品されたバデア系の雑種と見られる苗です。何ら特徴のないバデア系雑種で、育種上本来は廃棄処分とすべき苗ですが、このような苗に適当な名前を付けて売りさばこうとする姿勢に、これらネコ苗業者の本性が現れています。
写真③「チカチカチュ」という名で売られていた苗。2021年7月17日のヤフオク画面より。
写真④は同じ業者から「天樹寿」という名でヤフオクに何回か出品された苗です。これは明らかにコンプトですが、名前を付けるような特徴があるとも見えません。写真③の例と同じで、育種上本来は廃棄処分とすべき苗でも名前を付ければ売れるとばかりに適当な名前を付けるのでしょう。
写真④「天樹寿」という名で売られていた苗。2021年3月20日のヤフオク画面より。
何度も指摘しているように、類似他品種からラベルなしで識別できる特徴が1つ以上なければ品種とは言えません。別クロンでも識別できなければ同一品種です。大手サボテン業者でも、特著のない雑種に適当な名前を付けて売りさばく悪名高い業者がいますから要注意です。
これらネコ苗業者はハオルシアにはまったくの素人で、品種名をほとんど知らないので、輸入時のいい加減な中国名をそのままか、あるいは自分で適当な名前を付けて売るわけです。もちろん既存の品種と同じかどうかの確認や調査はしないでしょう。
そして自分で名前を付ける際には消費者が誤認することを狙って、よく似た有名品種の名前をもじった名前で販売していると見られます。これは明らかに不正競争(混同惹起/周知表示冒用/誤認惹起)です。
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