放散進化と進化の大循環 要旨
A. 放散進化の仕組み
1.世界には生物多様性が特に高い特異的な地域が存在し、生物多様性のHot Spotと呼ばれている。その約半数は熱帯雨林や熱帯季節林など熱帯多雨地方に存在する。これらの地域では生物にとって良好な気候が安定して続くため、競争が激化して自然選択による選択的進化(Selective Evolution)が起こる。
2.ところが地中海性気候周辺の半砂漠にも多くのHot Spotがある。半砂漠では周期的に大干ばつがあり、数年にわたり雨がほとんど降らない期間が続く。大干ばつが起こるとその地域の生物の多くは死に絶え、半砂漠では植生がなくなって砂漠化する。
3.干ばつが終わって降雨が復活すると、生き残った生物、あるいは干ばつの起らなかった周辺地域から飛来した種子などにとって、そこは競争がほとんどない非常に良好な生育環境となり、爆発的な増殖が起こる。
4.爆発的な増殖では厳しい競争条件下では淘汰されて生き残れない突然変異個体も淘汰されずに生き残る。また生き残った突然変異個体同士の交配により更なる変異個体が生み出される。
5.変異個体の種子などの子孫が親集団(群落)から離れた場所で新しい集団(群落)を形成すると、その中には群落全体が変異個体である集団、すなわち新種や変種もできる。
6.この繰り返しにより、新種や変種を含む子孫集団が親集団の周囲に放射状に形成される。これが放散進化の仕組みである。
B. 進化パターンの種類
1.選択進化(Selective Evolution)はCharles Robert Darwinが提唱したものである。
好環境下で生物の繁殖により競争が激しくなって自然選択が起こり、環境によりよく適合したものが生き残ることにより進化が起こるとしている。
熱帯雨林など、気候的に好条件で混んだニッチェ条件下での進化様式である。
2.放散進化(Radiative Evolution)は林雅彦が提唱したものである。
半砂漠で干ばつ後に降雨が回復すると、競争の少ない好適条件下で爆発的増殖が起こる。
競争の少ない好適条件下では、中立的突然変異や不利な突然変異個体も生き残りそれらがさらに相互交配することで集団中に変異が増幅される。それらの突然変異個体が母集団から新しい集団を分離形成すると変異が固定されて新種となる。
気候的に好条件で空いたニッチェ下での進化様式である。
3.耐化進化(Tolerant Evolution)は浅間一男の成長遅滞説を林が再定義したものである。
成長遅滞説では気候の継続的寒冷化など、気候環境が悪化すると成長が遅滞して形態の矮小化、融合化などが生じ、これが獲得形質の遺伝によって固定されて進化が起こるとした。
しかし獲得形質の遺伝など持ち出さなくても、寒冷化など成長の遅滞により発現しなくなる形質は世代交代が進むと分子時計の原理によりその遺伝子は次第に壊れていく。洞窟のめくら昆虫などのように、やがてその形質は遺伝的に集団から失われる。
気候の長期的寒冷化や高山帯など、気候的に厳しいニッチェ下での進化様式である。
C.進化の大循環
1.どの進化パターンが起こるかは地域の気候条件と選択圧条件の組み合わせによる。
・気候条件が良好で競争が激しければ選択的進化が起こる。
・気候条件が良好で競争圧が低ければ放散進化が起こる。
・気候条件が厳しくて競争圧が低ければ耐化進化が起こる。
・気候条件が厳しくて競争も激しいと多くの種が絶滅する。
2.気候条件の変化と競争条件の変化には時間的ずれがあり、進化パターンは非可逆的に遷移するので、次の図のように進化パターンの大循環が生じる。
3.進化の三つのパターンを時間軸で整理すると次のようになる。
形態が急速に変化するのは短い放散進化の期間中であり、選択進化や耐化進化では変化は非常にゆっくりと起こる。これはエルドリッジとグールドの断続平衡説(1972)を説明する。
D.社会ダーウィニズムに対する科学的批判
1.ダーウィンの自然選択説は適者生存、弱肉強食、優勝劣敗といった原理が進化の絶対的原動力だという思想を生み、社会ダーウィニズムや優生学などとなって白人社会の植民地主義や帝国主義的支配、あるいはヒトラーの人種差別を正当化するために使われた。
今日でも身障者施設の相模原やまゆり園の大量殺傷事件のように、一部の人に限らず、社会の底流として社会ダーウィニズムの優勝劣敗・弱者排除思想は色濃く残っている。
2.しかし放散進化理論および進化の大循環説により、社会ダーウィニズムに対する科学的批判が次の表のようにまとめられる。