大型化変異 写真と文: 林 雅彦
組織培養や葉さしではしばしば大型化変異が出現する。よく知られている例は万象「白妙」の大型化変異である「翡翠龍」や玉扇「玄武」の大型化変異「玄武帝」、スプリング交配「日光」の大型化変異「王日光」などがある。「日光」はもともと非常に大型の品種であるが、繁殖しているうちに小型になり、本来のサイズになる個体はほとんどなくなっていたが、「王日光」でサイズは回復した。
大型化変異は出現率で言うとおおむね10%程度と見られ、斑入り変異の出現率(約1%)よりかなり高い。名前の通り、大型化するのが基本的特徴だが、中小苗の時はわからず、大苗になって初めて普通の株より大きいことに気づく場合が多い。
また大型化するだけでなく、葉先が丸いダルマ型になり、幅広葉になる。園芸的に非常に良い変化だが、一方で葉の紋様が不鮮明になったり、窓の突起や結節が少なく(薄く)なるという場合も多い。「翡翠龍」の場合、中苗までは線模様がくすみ、「玄武帝」では地模様の白地が薄く緑地になるために、黒線模様が際立たない。
さらに小苗の内から出現する特徴として花が大型化し、花被(花びら)も肉厚になる。これを手掛かりにすれば中小苗でも変異株を見分けることができる。この特徴からしばしば4倍体変異ともいわれるが、本当に4倍体化しているかどうかは確認されていない。
なお大型化した株からの無性繁殖苗はすべて大型化する。稔性(結実性)は通常型よりやや低いが、コンプト「裏般若」などの裏窓化変異のように花が奇形で稔性が非常に低いということはない。実生苗に遺伝するかどうかは未確認。
写真1 王ジュピター
径13cm 葉幅3cm 「ジュピター」の大型丸葉変異。
模様や線の白さ、太さ、雲の出方などは「ジュピター」と全く同じ。
葉先の丸さで小苗の内から区別できる。花は非常に分厚く大きい。
「ジュピター」と同じく、結実性は非常に良い。
写真2 「大型星影さやか」
径16.5cm 葉幅4.5cm 「星影さやか」は旧 ”星影のワルツB”
「星影さやか」はもともと非常に大型だが、本種はさらに大型化してダルマ葉になったもの。
窓の透明感や網目模様は「星影さやか」と全く同じ。葉幅4.5cmはレツサ系最大クラス。
写真3 「ダルマ銀河鉄道」
径15cm 葉幅3.7cm 「銀河鉄道」の幅広ダルマ葉変異。
「銀河鉄道」は葉先が尖って長くなるが、本種はずんぐり形葉。
窓面のパピラ (乳頭状突起) は薄くなる。
写真4 「大型月光仮面」
径12cm 葉幅4cm
「月光仮面」にも大型化するものがある。「月光仮面」も元々大型だが、より幅広で葉先もより丸葉になる。
窓のパピラはほとんどなくなってしまうので、サイズと葉型だけを遺伝的素材とするのがよさそう。
写真5 「大型ドリームウォーク」
径13cm 葉幅2.5cm
葉先が標準型より丸くなるのが特徴。サイズ的には標準型より少し大きい程度だが、白線が非情に太く白くなる。ただし模様はより単純になる。
写真6 「キングマリリン」
径7cm 葉幅3cm (現在は径9.5cm 葉幅3cm)
「クィーンマリリン」の大型化変異と思われる。
幅広葉で葉先は完全に丸い。黒線模様は「クィーンマリリン」よりやや少ない(粗い)。稔性は低そうで2年続けて採種に失敗している。
写真7 「大型森の妖精」
径11.5cm 葉幅2.5cm
「森の妖精」の大型化変異
最初に買った「森の妖精」がこの株で、すごく良くなったのでその後いくつか買ったが,
それらは皆これほど立派にはならなかった。つまり最初に買った株が大型変異株だったという次第。
稔性はかなり低い。
大型化変異はこの他にもいろいろな品種に見られる。多くは無名であるが、「李紫」(ドドソン紫(OB-1)の大型化変異)のように大型化変異と認識されずに販売されているものもある。
なお、ハオルシアで見られる突然変異には一般的な色素変異(斑入り、キサンタなど)やこの記事の大型化変異の他、矮化変異と裏窓化変異がある。矮化変異はピクタ「蛙玉」や同じくピクタ「海皇」、古からある「矮性冬の星座」などがあり、いずれも不稔らしい。
裏窓化変異にはコンプト「裏般若」の他、アトロ「西瓜寿」、ピグマ「氷城」、オブト交配「玉般若」、コンプト「氷皇」などがある。裏窓化品種はいずれも花が奇形で稔性は非常に低いが不稔ではない。また多くの裏窓化品種が「裏般若」の花粉を使って作られている。