日本ハオルシア協会 Official Blog

ブログデザイン改修しました。

October 2020

新種紹介 追補   文 Text:林雅彦  写真 PhotoEsterhuizen

 

Esterhuizen氏からH. essieiの基準産地の追加写真が来たのでご紹介する。

 1
1  H. essiei  type locality  Photo by Esterhuizen

2
2  H. essiei  type locality  Photo by Esterhuizen

3
3  H. essiei  type locality  Photo by Esterhuizen

4
4  H. essiei  type locality  Photo by Esterhuizen


また
H. gerhardiiH. minima(およびMaxima類全体=Tulista)の祖先であろうという推定に関して、花茎の特徴は必ずしも系統を反映しないことについて、Aloe属のA. spicata類とA. albifloraを例に出して説明したが、Aloe、特にその花の構造についてはあまりなじみのない方が多いかもしれない。そこで以下にHaworthia属内の事例を紹介する。

 

H. nigraH. viscosa はともに三角柱型に育つことから同じグループ(section)に入れられていたが、実は全く別グループの植物で、前者はH.tessellataに近く、後者はH. scabraに近縁であることは研究者の一致した見解である。花(花被)の色素が前者のグループでは赤で後者のグループでは蝋黄色であることも一致している。

 

H. nigraH, tessellataグループの原始的な型(H. woolleyi)との共通の祖先 (絶滅?未発見)から進化したと見られ、その原始的な型(H. eonigra n.n. Fishriver)は葉が3列ではなく5列に並ぶ。H. nigraH, tessellatarhizome (地下茎の一種) で繁殖するがH. viscosarhizomeを作らない。

 

Haworthia属には他にもう一つrhizomeを作るグループがある。すなわちLimifoliaグループである。このうちH. gideonii (nom. nud.?) はエスワティニ(旧スワジランド)の北、モザンビークとの国境の町、Komatipoortに産する小型で暗黒色の種で、H. nigraに非常によく似ている。エスワティニの南側にも同様の別種(未記載 H. limifolia v. nigra?) があり、これも同じくH. nigraそっくりである。

 

つまりLimifoliaグループはH. nigraからこれら小型暗黒色のH. limifolia様植物を経て、より明色、大型で扁平なH. limifoliaへと進化したものとみられる。H. nigraLimifoliaグループはrhizomeを作ることの他、花弁の色素もともに赤色で共通している。

 

ところでH. nigraの花茎は細く針金状で、枯れた花茎の残骸が各葉の間から突き出すさまはH. woolleyiH. viscosaとも同じである。一方、Limifoliaグループの花茎はずっと太く頑丈である。ようするに植物体が大きくなったにつれ、花茎も太くなっただけの話である。

 

またTessellataグループの内、最も原始的と思われるH. woolleyiH. schoemanii、あるいはH. venosaの花茎は細くて硬い針金状であるが、H. tessellata v. tuberculata(雷鱗)や内陸部の高次倍数体などの大型個体の花茎は太く頑丈である。

 

一方H. minimaの内、HeidelbergからMossel Bayにかけての海岸地方の小型個体の群落では花茎はH. maxima(冬の星座など)よりはるかに細く、大型のH. tessellataとほぼ同じ太さである。これが西側の内陸部に産地を広げるにつれ、植物体は大型化し、花茎もより太く頑丈になる。そしてH. minimaからH. poellnitzianaを経てH. maximaに移行するとRobustipedunculares 亜属(=Tulista)に典型的な太い花茎になる。

 

このように、花茎の太さ、頑丈さは必ずしも系統を反映しないし、同じ系統内でもその太さは大きく変わる。ただしどのような形質が系統を反映するか(しないか)は絶対的に決まっているわけではなく、系統関係を調べていく過程で相互参照的に明らかになるものである点には注意が必要である。

新種紹介    文Text:林雅彦 M. Hayasi

写真 PhotosMr. G. Marx, Mr. V. de Vries &. Mr. E. Esterhuizen

 

“Haworthiopsis”や“Tulista” を含むHaworthia属にはおよそ300種が記載されており、未記載で裸名や仮名のものを含めると約500種が存在する。しかしその多くは都市や集落の近く、あるいは道路沿いなどに生育している種で、牧場の内奥部や山間部などにはさらに多くの種が存在すると推定される。

最近でも西ケープ州のSwellendamRiversdaleなどの南部海岸地方で牧場の内奥部から新種が多数見つかっている。


Photo
1はH. magnificaに近い新種(H. essiei Hayashi sp. nov. (nom. nud.) GM 697 S. Riversdale)で、窓表面に細かな繊毛が生え、ちょうどH. bobiiを大型にしたような美種である。Photo 2はその自生状態で、Photo 3では有毛個体と無毛個体が隣り合って生育している。

ただしこの群落中、顕著な有毛個体はおよそ10%程度で、半数は普通のH. magnifucaと同じくほとんど無毛(Photo 4)、残りは中間型(Photo )ということである。


1 H. essiei GM 697  D=7  BY Marx
     1 H. essiei GM 697  D=7  Photo by Marx 

2 H. essiei  By Marx
                  2  H. essiei Photo by Marx 

3  H. essiei  By Marx
                     3  H. essiei Photo by Marx 

4  H. essiei  By Marx
                       4   H. essiei Photo by Marx 

5  H. essiei By Mrax
                     5  H. essiei Photo by Marx 

この産地の近くにはより密に毛が生え、有毛個体が40%もの高い割合の群落(Photo. 6~8)がごく最近Esterhuizenによって発見されており、これを基準群落としたので種名は彼の名前(Essie)にちなむ。

6  H. essiei  By Esterhuizen
              6  
H. essiei Photo by Esterhuizen 


7  H. essiei  By Esterhuizen
           7 
 H. essiei Photo by Esterhuizen 


8  H. essiei  By Esterhuizen
                  8   H. essiei Photo by Esterhuizen

このような場合、この群落を独立種とするかどうかが問題となるが、H. sanekataiH. groenewaldiiの例が参考となる。両種ともH. muticaの産地の東端に産し、前種では顕著な白雲の出る個体(White Widow, Drew White)が存在し、後者では顕著な白点のある個体が出現する。ただしそのような顕著な個体はそれぞれ10%程度しか出現しない。

そのような個体がなければこれらの群落は単にH. muticaの小型群落として、せいぜい変種とみなされたかもしれない。

H. pygmaeaでも同様で、Dumbie Dykesの群落(ブルーピグマ H. celadonis nom. nud.)を除けばpapilla (乳頭突起)のある個体は1/3以下で、他はほとんど無突起なので、papillaのある個体がなければ単に小型のH. retusa とされていたかもしれない。

このように、他群落にはない特徴をもった個体がその群落中に一定割合以上存在する場合には、遺伝的に他群落とは異なる遺伝子があり、またそのような個体が存在することでその群落を特定できるので、別種とした方が良い、というのが私の意見である。

 

そのような例の一つがH. tuberculate近縁のH. eborina Hayashi sp. nov. (nom. nud.) W. Oudtshoornである。この種は基本的にH. tuberculateだが、群落中にPhoto912のように白く大きな象牙質結節を持つ個体が複数存在する。H. tuberculataあるいは H. scabraには光の当て具合で結節がやや白く見える個体はあるが、結節がこのように顕著に白い個体のある群落は他にない。

9 H. eborina  By de Vries
            9  H. eborina  Photo by de Vries
 
10  H. eborina  By de Vries
          10  
H. eborina  Photo by de Vries

11  H. eborina  By de Vries
          11  
H. eborina  Photo by de Vries

12   H. eborina  By de Vries
          12  
H. eborina  Photo by de Vries

 

H. eborinaの近く(と言っても10km以上離れているが)には同じくH. tuberuclataの仲間だが、結節が見事なガラス状になった植物(H. gerhardii Hayashi sp. nov. (nom. nud.) GM 661 Photo1314)がマルクス氏により最近発見されている。

13  H. gerhardii  By Marx
            13  H. gerhardii  Photo by Marx

14   H. gerhardii  By Marx
            14  
H. gerhardii  Photo by Marx

現地写真(
Photo15~17)などは一見してH. minimaと見間違えるほどである。Maximaグループの祖先、すなわちH. minimaの祖先はH. tuberculateに違いないと私は考えていたが、H. eborinaH. gerhardiiの発見はまさに両者間のmissing linkを埋めるものであろう。

15    H. gerhardii  By Marx
              15  
H. gerhardii  Photo by Marx

16   H. gerhardii  By Marx
            16  
H. gerhardii  Photo by Marx

 
17   H. gerhardii  By Marx
              17  
H. gerhardii  Photo by Marx

 

H. minimaが属するRobustipedunculares亜属(=Tulista)の花茎は太く頑丈であり、それに対してScabraの仲間は細い針金状の花茎を持っていることが特徴とされている。しかし花茎や花序の特徴は必ずしも系統を反映しない。

 

たとえばAloeA. spicataなどの仲間は密生した小さな百合状花が太い直立花茎に直接付き(sessile)、花筒から長い雄蕊と雌蕊を突出させて全体としてブラシのような花序となる。雄蕊と雌蕊の花筒に対する割合は他のグループと比較して有意に長く、それがブラシのような花序外観を作っている。このように長い雄蕊、雌蕊は他のアロエでは見られず、それがこのグループの特徴となっているが、唯一の例外がA. albifloraである。

A. albifloraは百合状の花弁からやはり非常に長い雄蕊、雌蕊を突出させるが、花筒長に対する長さの割合はA. spicataなどの仲間と全く同じである。花筒や花序は全く異なっているが、より基本的な生殖器官のこのような構造的類似性はこれらのアロエが近縁関係にあることを強く示唆している。A. albifloraA. spicata類の遠い祖先であることは間違いないであろう。

 

Scabra類とMaxima類(subg. RobustipeduncularesTulista)とは花茎の太さや花弁の形状は異なるが、花弁の色素が蝋黄色(waxy yellow)である点と、花筒が他のグループと比べ非常に短い(小花)点が共通している。特に花の色素はH. attenuta類(subg. Hexangularis = Haworthiopsis。ただしScabra類を除く)などの赤い色素と大きく異なる点で、生化学的相違であるからより基本的相違と考えられる。

そしてH. eborinaH. gerhardiiのようなScabra類とMaxima類を結びつける種の存在が明らかになり、Maxima類がScabra類から進化したことが証明されれば、広義のHaworthia属全体が単系統群であることも明らかになるであろう。

 

Haworthia属をHaworthia, Haworthiopsis, Tulista3属に分離した場合、それぞれに祖先が存在しなければならないが、分離論者はいったいどんな祖先を想定しているのであろうか。彼らはDNAの解析結果以外に遺伝的親近性(交配実験等)、形態的共通性、生化学的類似性などの論拠を全く示していない。

彼らのDNA解析には多くの問題点があるが、一つだけ指摘すると、塩基配列から類縁関係を推定する分岐分析は、進化が2岐分岐で起こることを前提しており、雑種起源のグループや種、あるいは多分岐があるとうまく計算できない。

AstrolobaPoellnitziaにはその原始的な形態の種やグループがなく、これらが雑種起源であることはほぼ確実であるが、その点ではGasteriaも同様に原始的形態の種(草ガステリア)がなく、雑種起源であることが強く疑われる。

Haworthiaやその近縁属の分類や進化は机上の計算だけで処理できるほど単純ではない。

 

(なお、GasteriaHaworthia radulaH. longianaAloe reynordsiiA. striataBaviaanskloof周辺で偶然交雑して生じた雑種から形成されたのではないかと推測している。

↑このページのトップヘ