昔から玉扇、万象、それにコレクタがハオルシア園芸の最高峰と言われていた。この3種は窓の紋様の変化が大きく、紋様が個体ごとに大きく異なるのはもちろん、葉ごとにも微妙に、時には大きく異なり、新しい葉が出るたびにその変化を楽しむことができる。その点でオモトやイワヒバなどの葉紋園芸全体でも最高峰と言っても過言ではない。
葉の紋様でも花の紋様でも、紋様には大きく分けて3通りある。1つは点模様で、2つ目は線模様、3つ目はその中間ともいえるまだら模様で、点模様の点が大きくなって連結し、まだら模様になるものである。
ハオルシアで言うと、ピクタやスプレンデンスは点模様であり、玉扇、万象、コレクタは線模様である。まだら模様はいわゆるまだら系の植物、リビダやノルテリーなどが代表である。点模様植物の多くは点模様に多少線模様が入り、これが変異を大きくしている。
バンダなどランや他の園芸植物でも点模様の品種群と線模様の品種群とがある植物群では、一般に線模様の品種群の方が評価が高い。これは点模様より線模様の方が変化が大きく、紋様の変化をより楽しめるからである。ハオルシアでも同じでピクタやスプレンデンスは点模様が密になり、真っ白になってしまうとそれ以上改良するのはなかなか難しい。
もっともこの点は玉扇や万象でも同じで、白線が多くなって窓が真っ白になってしまうと、それ以上は改良が進まない。後は葉型や大きさの改良に焦点が移ってしまう。
コレクタでも特網系のように網目模様が密になると、葉ごとの変化は認識できない。線模様の品種でも模様が粗すぎず、細かすぎず、適当な密度でその変化を追えるのが理想である。
海外からの投機目的での資金流入により、高騰した玉扇、万象のバブル価格は培養苗の大量流通により沈静化し、今後もこの状態が続くと思われる。一方、コレクタは優良品種がほとんど市場に出回っていなかったために投機の対象とならず、価格もそれほど大きく変動していない。
園芸的に見た場合、育種の将来性という点ではコレクタ類は玉扇、万象より大きな可能性があると見ているが、その理由は以下の通りである。
(1)近縁種が多く、改良の可能性が高い。
玉扇、万象はサボテンの有星類と同じで、ほとんど近縁種がなく、飛躍的な改良が難しい。
コレクタ類には園芸的中心種であるH. laeta (ジュピターなど大型明色型)やH. bayeri (暗色中小型)の他、ザラ窓透明葉のH. hayashii、美しい翡翠色のH. jadea、暗青緑色のH. indigoa、点線模様のH. truteriorum、など多くの種がある。
また近縁種にはH. comptoniana、H. springbokvlakensisがあり、さらにH. muticaやH. sankatai 他のほとんどのレツサ類との交配でも実生苗に違和感がない。玉扇や万象だとレツサ類やオブト類など、他グループとの交配実生苗の多くは葉がよじれるなど、形が美的でない。
コレクタ類ではどのレツサ類との交配でも園芸的に美しいものが作出されている。したがって今後もコレクタ類を中心とした多くの優良品種が育成される可能性が高い。
(2)窓が大きい。
紋様は窓にあるから、窓の大きいことは観賞上、大きなポイントである。万象では窓径が3cmを超える品種はほとんどないが、コレクタでは大型品種はみな葉幅3cmを超え、中には4cm以上になる見事な巨大葉の品種もある。大型レツサでも葉幅4cm以上というのはあまりないが、透明窓に鮮明な紋様が入って葉幅4cmというのは非常に見ごたえがある。
葉幅4cmには届かないとしても、大型のジュピター実生なら、どれもうまく作れば葉幅3cm以上にはなる。ジュピター実生には巨大葉でありながら鮮明な紋様のものがたくさんあるので、それで葉幅4cm近くまでなればまったく見事である。
なお、玉扇には葉幅5cmを超える巨大型品種もたくさんあるが、窓面積で比べるとやはりコレクタの方が大きい。
(3)窓の透明感が高い。
コレクタはレツサ系のみならず、全ハオルシア中、最も窓の透明感の強い種の一つである。もっともオブト類や一部のレース系のような、透過窓ではないために、その透明性はあまり認識されないが、夕日など、斜めから差し込む光の中で見ると窓の透明性がよく認識できる。
園芸的に見てハオルシアの最大の特徴は大きな透明窓のあることで、レツサ系でも紋様はなくても透明感の強い窓を持つH. badia、H. atrofuscaなどが人気な理由である。H. comptonianaでも水晶コンプトなど、透明感の強い品種の人気は非常に高い。
玉扇、万象が国内でおよそ300人~最大1000人のハオルシアマニアには人気でも、全国におよそ30万人から100万人はいると見られる一般多肉植物愛好家にはほとんど見向きもされないのは、窓に透明感がないからである。オーロラ系は多少透明窓であるが、それでもコレクタ類の窓の透明感とは比べ物にならない。
したがってコレクタ類はその窓の透明感ゆえに、膨大な人口の一般多肉植物愛好家にも大きな人気を得る可能性が高い。
私(林)はコレクタ、特にジュノー系(ジュピター実生)の育種に長年取り組んできたが、その多くは番号で整理されている。整理の仕方は万象の山本氏とほぼ同じで、実生して一定の大きさになった時に親や出所の記号(アルファベット)と番号を順につけ、特に良いものは品種名を付ける。中には整理番号なしで品種名が付けられものもある。次の表 (1) が林コレクタの整理番号と品種名で、表(2)は無番号の名品、表(3)以降はそれらをグループ別にまとめたものである。一つの品種がいくつかの表に重複して出ている場合もある。
以下、この中からいくつか写真を紹介する。
表(1)は主にJP番号(ジュピター実生)の品種である。JP-1からJP-9まではジュピター実生を代表する名品で、いずれも太い鮮明白線で粗い網目模様の品種である。アロワナ、ピラルク、天満宮の3品種は特に大型大窓で、かつ窓の透明感が非常に高い。
アロワナ(写真1)は幅広ダルマ葉でありながら、スコット模様という、非常に変わった組み合わせの個体で、窓の中(組織の中心部)に白雲が出て(中雲)透明感がより強調される。写真は中苗時のもので、成長すると株径19cm、葉幅4.3cm(巨人兵より大きい)に達する。
ピラルク(写真2)と天満宮(写真3)は黄色がかった葉色が特徴で、窓は非常に透明。ピラルクはダルマ葉で径15cm、葉幅3cm。天満宮も同じく径15cm、葉幅3cmあるが、葉がやや細長いので、それほど葉幅があるようには見えない。
写真3 天満宮 D=15 LW=3
JP- 4稲荷山からからJP-9九鬼山まではJP-1~JP-3より濃緑色肌の品種群である。
稲荷山(写真4)はもともと非常に大型だが、径13cmを超えてからさらに葉が大きくなる。
写真4 稲荷山 D=15 LW=3.
五番街(写真5)はJP-4からJP-9までの中では最も透明感の強い窓を持ち、直線的で端正な模様となる。中苗の写真しか撮ってないが、完成するとずっと線は太く明瞭になる。
写真5 五番街
六角堂(写真6)は丸みを帯びた窓に太い白線が入り、全体として非常に端正な株姿となる。
写真6 六角堂 D=17 LW=2.7
夢舞台(写真7)は六角堂に似るが、アロワナのように中雲が出るので、透明感が強い。
写真7 夢舞台 D=14.5 LW=3.3
八幡宮(写真8)はコレクタ全体でも、最も端正な株姿で、丸みを帯びた葉型は非常に安定している。模様もやや粗い網目模様が非常に端正に入る。たぶん1株も流通していない。
写真8 八幡宮 D=14 LW=3.3
九鬼山(写真9)は八幡宮に似る。葉型は八幡宮ほど安定しないが、窓はより透明感がある。
JP-2からJP-9の各品種はいずれも径15cm程度、葉幅3㎝前後となる。
写真9 九鬼山 D=14.5 LW=2.7
表1の他の品種は次回以降に紹介する。