スプレンデンス ‛タージマハル‘ は白系スプレンデンスの最高峰と思われる品種ですが、最近これの培養苗と称する苗が中国などで大量に売られ、大騒動になっているようです。
私がこの事件を知ったのは、ハオルシア愛好家のN氏から、「台湾のX氏からタージマハルの培養苗がたくさんあるけど買わないかというオファーが来ている。本物かどうか見てくれ。」という依頼とともに20~30本の小苗が植わった鉢の写真が送られてきたのが最初でした。
写真を見たところ、およそ3cm程度の小苗で、やや尖った葉型や白点の密度、それに白点に艶がないことなどから、どうもタージマハルではないようでした。N氏の話では台湾のX氏は南アフリカのマーチン・スコット氏からその元苗を入手したということでした。マーチン・スコット氏はマルクス氏の近くに住んでおり、付き合いもあったようなので、マルクス氏からタージマハルを入手していた可能性もあります。
しかし写真の苗は小苗で判断が難しかったので、その写真をマルクス氏に送って彼の意見と、彼がマーチン・スコット氏にタージマハルの苗を譲ったことがあるかを聞きました。マルクス氏の意見も、これらの培養苗はタージマハルではない可能性が高い、ということでした。またマーチン・スコット氏にはマルクス氏が葉挿ししたスプレンデンスの小苗を何本か譲ったが、その中にタージマハルが入っていたかどうかはわからない、ということでした。
そこで私はN氏に、私もマルクス氏も、おそらくこれらの苗はタージマハルではない可能性が高い、という判断だということを伝えました。またもし買うならタージマハルではない可能性が高いから、高値で買わないこと、および、これをタージマハルとして売ると後でそうでないことが分かったときに大問題になるから、別名を付けて売った方がよい、というアドバイスをしました。N氏は私のアドバイスに従ってこれらの培養苗を買い、また名前も‘ホワイトサミット‘としました。
しかし台湾のX氏はその後それらの培養苗をタージマハルだとして中国などで相当な高値(1本8万円ということです)で大量に売ってしまったようです。ところがこの苗を買った人たちはマーチン・スコット氏に「台湾のX氏がマーチン・スコット氏から入手したタージマハルの培養苗だとして売っているが、これは本物か?」という問い合わせをしてきたのです。
自分が譲った苗をX氏がタージマハルという名で売っていることなど知らないマーチン・スコット氏は問い合わせに非常に驚き、SNSのフェイスブックのハオルシアグループに「自分はX氏にタージマハルという名で苗を譲ったことはない」、という警告を出しました。この警告を見た中国の人たちは、X氏に騙されて偽のタージマハルを買わされたということで、買い戻しなどで大騒ぎになっているようです。
その後、マーチン・スコット氏は私にもメールを送って来、顛末を説明しました。そのメールによると、X氏はその培養苗を売り出す前に、マーチン・スコット氏にそれを売ってもよいかという承諾と、親株の写真が欲しいというメールを送っているのです。それに対してマーチン・スコット氏は、「苗はすでにあなたのものだから、そうしたいならそうしてもよい。」という返事と、親株の写真をX氏に送っています。この返事の中では「タージマハル」という名は一切出ていません。
しかしX氏はマーチン・スコット氏から送られてきた親株の写真ではなく、マルクス氏のブログにあったタージマハルの写真を使い(無断使用ならば著作権侵害)、名前もタージマハルとして培養苗を売り出したようです。
X氏は送られてきた親株の写真を見て、これがタージマハルかどうか、マーチン・スコット氏に聞いてみるべきでした。メール1本で簡単に確認できるのにそれをせず、親株の写真もすり替えてタージマハルとして非常な高値で売ってしまったのは詐欺行為と言われても仕方ないでしょう。
ところでマーチン・スコット氏がX氏に送った親株の写真は、マーチン・スコット氏のフェイスブックに出ています(写真1=ホワイトサミット)。一方タージマハルの写真も同 じフェイスブックに出ています(写真2)。
ホワイトサミットはタージマハルほどではないものの、非常に白い優良個体です。草姿はナタリー(写真3)に似ていますがずっと白く、ナターシャ(写真4)より白いです。タージマハルやナターシャほど白点に艶はありませんが、白点がより大きく厚い点で、ナターシャより高く評価できます。またホワイトサミットは大苗でも小苗でも白点が艶消しで、小苗でも白点に強い艶があるタージマハルとはこの点で区別できます。
ホワイトサミットは偽タージマハルとして売られてケチがついてしまいましたが、本来ならば優良新品種として紹介されるべき極上品種です。
今年9月18日付けのブログで紹介した④写真の個体はホワイトサミットではありませんでした。お詫びして訂正します。
また、よく出回っているタージマハルの写真(写真2)は中苗時のもので、大苗の姿は写真5です。
なお先日のカクタスニシ祭りで配られた商標登録名と業界優先名を紹介した一覧表で、タージマハルは「特許庁最終判断で拒絶査定」となっていますが、これは正確ではありません。拒絶査定されたのは確かですが、これを不服として拒絶査定取消審判を申し立ており、現在審判中です。審判の結果が特許庁の最終判断となります。
また審判で拒絶査定が取り消されない場合は高裁(または知財高裁)、さらに最高裁に控訴、上告する予定です。これらの審判、裁判の確定をもって最終決定となります。
最終決定の前にタージマハルという名を使って販売すると、この名が登録できた後に損害賠償を請求される場合がありますのでご注意ください。他にもタージマハルと同じく、拒絶査定を不服として審判中の商標が多数ありますので、拒絶査定=自由に使える、と誤解されませんよう、ご注意ください。
<追記>
その後、私がマーチン・スコット氏にホワイトサミットは間違いなくタージマハルとは別物か尋ねたところ、次のような回答が来ました。
「この植物は2002年に自分がマルクス氏から譲り受けた野生株を育て上げたもので、タージマハルとはまったくの別物である。」
2002年はスプレンデンスの新産地が見つかった直後です。私(林)もその年にこの産地とマルクス氏の栽培場を訪れていますが、マルクス氏はまだスプレンデンスの実生を始めていませんでした。
2002年はスプレンデンスの新産地が見つかった直後です。私(林)もその年にこの産地とマルクス氏の栽培場を訪れていますが、マルクス氏はまだスプレンデンスの実生を始めていませんでした。
タージマハルはマルクス氏の実生ですから、マーチン・スコット氏がマルクス氏からホワイトサミットを譲り受けたのが2002年だとしたら、それがタージマハルである可能性は全くありません。