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September 2018

先日の記事(最近のハオルシア市況について)に関し、以下の質問が寄せられたので、追加で説明します。

「私は最近少し高め(数万円程度)の玉扇万象を購入したのですが、今後これらを親木に使い、所謂良品を作出しても、あまり高い値段はつけられなくなるのでしょうか。」

 質問者の『値段』というのはセリ会やネットオークションなどにおける取引価格のことだろうと思いますが、取引価格は玉扇・万象に限らず、需要と供給のバランスで決まります。良品であればそれを欲しいと思う人がたくさんいて高い値段が付きますが、最初に高い値段で買う人はおおむねそれを繁殖して商売にしたい人たちです。特に組織培養で殖やす人は2年ほどで数百本の苗が生産可能ですから、そうとう高額でも買うことでしょう。

しかし商売目的で、あるいは半ば商売で買う人はサボテン業者やいわゆるセミプロの人達で、その数は国内でせいぜい300人、日本市場で取引する外国人を入れても500人程度です。さらに最初の高い値段で新しい品種を買う人はそのうちせいぜい50人ほどで、あとは徐々に価格は下がり、商売目的で買う人の需要が一巡するころには価格は最初の値段の2~3割、時には1割程度まで下がります。
そのころには最初に売られた苗から葉挿しや組織培養で殖やされた小苗が流通し始めますから、それも考え合わせると、最初の苗販売から2~3年後には価格は最初の値段の1割以下に落ち着くと推測されます。

小売価格が3千円程度以下になると商売目的ではなく、それを買って観賞したいという実需で買う人が出てきますから、新品種が良品であればそこで需給のバランスがとれ、価格は千~2千円程度で安定するでしょう。もしそれが本当に良品ならこの価格でも全国で数万本売れます。

なお、この価格安定化のプロセスで、最初に売られた苗が繁殖され販売されたときに、それが本当に良品なら、販売された苗を見てそれを欲しいと思う人が増えて、最初の価格がなかなか下落しない、時にはかえって高くなるという場合があります。販売された苗が販売先で広告塔のような役割を果たすためです。しかしこれも一時的な現象で、最終的には「販売目的でなく楽しみたい」、という実需に見合う値段になるまで価格は安定しません。

また数年前までは優良品種の繁殖が進まず、常に供給不足でしたから、価格がなかなか下がりませんでしたが、組織培養が普及して、安価な苗が大量供給されるようになったため、一気に価格が低下して実需に見合う値段になりつつあるというのが今日の情勢です。

したがって、玉扇・万象に限らず、優良な新品種であれば最初は営利目的で買う人により高い値段が付きますが、最終的には実需に見合った価格、ハオルシアならおおむね中小苗で千~2千円、に落ち着くだろうというのが私の見通しです。

そこで問題なのが、玉扇・万象には果たして実需がどれくらいあるのか、ということです。つまり営利目的でなく、「繁殖しなくても良いから買って楽しみたい、観賞したい」、という愛好家がどれくらいいるのかということです。もちろん、営利目的ではなく、「自分で育てて楽しみたい、観賞したい。」という理由で、高額でも惜しまずに金を出す少数の、本物の玉扇・万象愛好家はいます。

しかし残念ながら玉扇・万象を高額で取引してきた大部分の人は業者かセミプロで、営利目的の人たちです。この人たちは金儲けが主目的ですから、組織培養などで優良品種をたくさん繁殖しても、価格維持のために販売を意図的に絞り、あるいはおよそ品種とは言えないような類似個体に次から次へと名前を付けて人気をあおり、自分たちだけでお祭り騒ぎをしてバブル価格を生み出してきた、と言えます。

また、目先の利益しか考えない人が多いので、優良品種を安価に供給して玉扇・万象の愛好家を増やしたり、特徴のある優良品種だけに名前を付けて品種の信用性を高めたり、さらには愛好家の利便のために品種名の統一に協力するなどという努力は一切せず、逆にそれと正反対のことばかりしてきた人たちです。玉扇・万象のマニアの大部分がこのような状態ですから、玉扇・万象の一般愛好家が増えないのはむしろ当然でしょう。

したがって白妙や玄武など、特徴のはっきりしたいくつかの優良品種を除くと、玉扇・万象の実需はほとんどない、というのが実態です。類似個体が多くて特徴の明瞭でない“品種”は値段がいくら下がっても、安いからと言ってそれを買って楽しみたいという一般愛好家がおらず、価格下落に歯止めがかかりません。


多くの園芸植物にはいわゆるマニア向けの品種と、一般大衆向けの品種とがあります。マニア向けの品種は多くの場合、性が弱かったり、癖が強かったり、あるいは成長が遅かったりしますが、うまく作ると素晴らしくきれいな花を咲かせる、といった品種です。一般大衆向けの品種は丈夫で成長が早く、誰が作っても安定してきれいな花を咲かせる、といった品種です。マニア向けの品種はそのような難しい品種をうまく作っている、あるいはその結果見事な花を咲かせている、ということで品評会で入賞することが多く、品評会向け品種とも言われます。

ハオルシアの場合、玉扇・万象、コレクサなどはマニア向け品種です。温室の中でピクサやスプレンデンスをまとめておいてあるところは白や赤の色彩が顕著で目立ちますが、玉扇・万象、コレクサなどのおいてある一角はほとんど緑一色で全く地味です。しかしよく見ればその窓の紋様は千差万別で、個体ごと、葉ごとに異なるなど、非常に面白く、その面白さにはまる人がマニアと呼ばれるわけです。

一方で、マニア向け品種は次第に大衆向け品種に品種改良されていき、丈夫で作りやすく、しかも素晴らしい花を咲かせるよう改良されていきます。玉扇・万象でも丈夫で作りやすく、しかも素晴らしい窓模様の品種が作出され、それが市場に安価に出回るようになれば、その紋様の面白さを理解する人が増え、愛好家も増えるはずです。

マニア市場では価格の高いことがステータスとされ、いかに高額で売買されるかが注目されます。しかし一般市場では価格の高さではなく、その品種が何本売れたかが評価基準です。例えば白妙や玄武が小売価格1本1000円でホームセンターなどで売られれば、おそらく全国で数万本以上売れるでしょう。粉雪やタージマハルなどのより派手な品種がこの価格なら10万本売れるかもしれません。

欧米でも当会の提携先が組織培養でハオルシア優良品種の繁殖を進めており、これらが日本市場よりはるかに大きな欧米市場で売り出されたら百万本単位で売れることでしょう。自分の作った品種がいくらで売れたかではなく、何万本売れたかを自慢するように、愛好家の意識改革をしていく必要があります。

また価格の安定性に関して、商標登録された場合その品種は許可なく輸入できませんから、海外からの安価な組織培養苗が大量に輸入されるのを防ぐことができます。登録商標名での無許可輸入はもちろん、無名や別名で輸入すれば密輸ですから、いずれ税関で輸入阻止(没収)されるようになります。

また商標の使用許諾条件に最低販売価格を指定できますので、国内での値下げ競争も回避できます。
このように価格安定の上では商標登録は非常に有効ですが、一部の業者やセミプロが当会の商標登録を阻止しようと妨害工作をしたり、別名を作って商標の使用を回避しようとしたりするのは、きわめて近視眼的です。

多くの有名品種ではすでに海外産培養苗が卸市場などを通じて、一般園芸店に出回り始めており、安価な海外培養苗との本格的価格競争が目前に迫っているというのに、これら業者やセミプロが商標登録に反対したり妨害したりするのは全く現状を理解しない、愚かな自殺行為というほかありません。
    

ここ10年以上高騰を続けていたハオルシアの価格ですが、中国などで高額品の組織培養による大量生産が進み、その苗が日本に逆輸入されて今年春から大幅な価格下落が起きています。昨年夏と見られるピーク時と比較するとおおむね半額以下、品種によっては3割程度にまで下落し、今後もこの傾向は続くと見られます。そうなると、価格高騰を期待して流入していた中国などの投機マネーも一斉に引き揚げますので、価格下落にますます拍車がかかるといった状況です。

一方、一時全国で被害が出ていたハオルシア泥棒ですが、昨年11月の関東での事件(被害額約5千万円)を最後に、今年に入ってからは被害の情報が入っていません。危険を冒して盗み出しても売りさばく相手がいないという状況なのでしょう。ただし警戒が緩んだところを狙われることもあり、犯人が日本人ということもありますから警戒は怠らないようにしてください。なお把握している限りでは盗難事件は昨年までに全国で38件、時価推定の被害総額は17億円近くになります。

ところで価格が大幅に下落している品種はおおむね投機マネーによってバブル価格となっていた高額品です。その代表は玉扇と万象ですが、この2種は15年ほど前にも価格が暴落した時がありました。その時にはハオルシアの市場は国内だけで、かつ小規模なマニア市場しか存在していない状況でしたから、1990年代後半から続いていた玉扇・万象ブームが一巡し、市場が飽和状態になると一気に価格が暴落し、狼狽した業者が投げ売りをしても買い手がつかないこともあったようです。

ところがハオルシア人気が中国など近隣諸国に広がり始め、市場が海外で拡大すると、再び玉扇・万象の価格が上昇をはじめ、価格が上昇すると値上がり期待の海外投機マネーが流入し始め、ますます価格が上昇するという展開になり、それが昨年まで続いていたわけです。

この価格上昇につられて、それまでサボテンの牡丹類や花籠など、高額品を中心に扱っていた業者やセミプロなどが一斉にハオルシア、特に玉扇・万象を売買するようになり、趣味家から業者に転向する若手も雨後の筍のように出てきました。しかしこれらの人の多くはハオルシアが好きというより、高額品が好き、金もうけが第一の人達ですから、愛好家(消費者)の利便やハオルシア園芸全体の発展より目先の利益優先で行動するという問題点があります。

前回の暴落と違い、今回の暴落にはその救済となる新たな海外市場は期待できず、さらに組織培養による大量繁殖が背景にあるというわけですから、再び価格が上昇することは期待できません。加えて新たに開業したような若手業者が主眼とするマニア市場は、拡大を始めたハオルシアの一般市場に侵食され、今後市場規模はむしろ縮小していくと見られます。 

つまり、これまでマニア市場でしか流通していなかった優良品種が組織培養により花屋やホームセンターの園芸売り場で廉価で買えるようになることで、それまでサボテン業者やネットで買っていた人たちが、むしろ花屋やホームセンター漁りをするようになるというわけです。もちろん新品種や繁殖しにくいものはこれまで通りマニア市場で売買されるでしょうが、その期間は、それらが大量繁殖されるまでのせいぜい3年くらいとなるでしょう。

さて、玉扇・万象がなぜこのような暴騰と暴落を繰り返すのかというと、その根本的な理由は趣味家人口(=市場)が小さいということに尽きます。玉扇・万象の趣味家人口はハオルシアマニアの人口とほぼ同じで、国内では千人弱程度です。中国ではこの10倍のマニアがいるとしても全部で1万人程度ですから、少し投機マネーが動けば簡単に暴騰や暴落が起こってしまいます。

一方、オブツーサ系やレース系などのマニアも同じく国内でせいぜい千人程度です。しかし玉扇・万象と違い、これらのグループにはマニアではない一般愛好家が30万人から最大100万人程度いると見られます。玉扇・万象にはこのような一般愛好家がほとんどいません。

一般愛好家がたくさんいれば、価格が下落した時にそれらの人が買い支えますから暴落はしませんが、玉扇・万象は一般愛好家には不人気なので、価格が下落しても買い支える一般愛好家がおらず、マニア間で一巡してしまうと後は買い手不在で暴落してしまいます。

玉扇・万象はその模様の変化が面白くてマニアに人気なわけですが、一般愛好家にはほとんど同じに見え、細かな違いは理解されません。また名前の付けられている品種は非常に多いですが、その多くはラベルがなければ区別がつきません。つまり「品種とは類似他品種と識別可能なもの」という基本原則からすればおよそ品種とは言えない類似個体に名前が付けられて売られているわけですから、一般愛好家からそっぽを向かれるのも当然でしょう。

しかし玉扇・万象が一般愛好家に不人気なより根源的な理由は、それらが「美しくない」と思われているからです。窓模様の変化は確かに面白いのですが、玉扇・万象の窓は不透明で、透過光で鑑賞したり、日照条件による窓の輝きの変化を楽しむことはできません。もちろんどちらを「美しい」と思うかは好みの問題ですが、人数で言えば圧倒的に多くの一般愛好家が透明な窓を鑑賞できるオブツーサ系やレース系などの方が「美しい」と思っていることは否定できません。


さてマニアに人気なのは玉扇・万象ばかりではなく、ピクサ、スプレンデンスなどのレツサ系もありますが、これらは玉扇・万象と異なり、マニアだけでなく、一般愛好家にも非常に人気です。透明な窓はありませんが、窓全体が赤や白の斑紋や結節で覆われる派手な品種が多数あることがその理由でしょう。一般愛好家にも人気が高いことから、玉扇・万象の暴落に引きずられて多少は価格下落しても、玉扇・万象のような暴落はしないでしょう。

スプレンデンスは窓に強いつやがある点でピクサより美しいと評価する人が多く、全ハオルシア中、最も美しいと評価する人もいます。特に白系品種にはタージマハルなど、真っ白な品種が多数あり、昨年は海外で150万円で落札された個体があり、他にもう1個体が100万円超で落札されています。ピーク時の玉扇・万象なみの価格ですが、これも中国の投機マネーの影響と見られ、現在ならおそらくその半額以下になるでしょう。ただし一般愛好家にも非常な人気ですから、一定以上は価格下落しないと見られます。

① 昨年約150万円で落札された株
① 昨年150万円で落札された個体

②  ①の兄弟か実生と見られる株
②  ①の兄弟か実生と見られる個体

③  同じく①の兄弟か実生らしい。
③  ①の兄弟か実生と見られる個体

④ 'White Summit'台湾でタージマハルとして繁殖された?
④ 'White Summit' 台湾でタージマハルとして繁殖された個体

これら高額で取引された白系スプレンデンスのいくつかを紹介すると、①は昨年150万円で落札された個体、②、③はその兄弟か実生と見られる個体、④は台湾でタージマハルとして組織培養されものと見られる個体です。台湾でタージマハルとして繁殖された個体は、由来や経路を調べてみるとタージマハルとは別個体の④である可能性が高く、ホワイトサミット(White Summit)と命名されました。タージマハルほどではないですが相当白い個体です。白系スプレンデンスはほかにも素晴らしい個体が育成されていますが、それらは次号ハオルシア研究で紹介します。

中国でのハオルシア人気はおおむね日本の流行の10~15年あとを追いかけていますので、玉扇・万象から始まり、ピクサ、スプレンデンス、さらにはオブツーサ系、レース系へと進むと見られる人気の推移からすると、中国での次の流行はスプレンデンスになると見られます。事実①のスプレンデンスを150万円で落札したのは中国人だということです。

日本でもスプレンデンスの流行は始まったばかりで、優良品種の培養苗などが市場に出回るようになってから本格化すると見られます。その場合、培養の小苗などは相当安く販売される可能性がありますが、例えば写真①、②、③の小苗が卸市場を通じて1本2千円で花屋などの店頭に並べば、おそらく各1万本は売れるでしょうから、3品種で6千万円の市場が見込まれるということになります。


次にオブツーサ系ですが、一時かなり高騰していた紫オブトの価格も安定してきて、大株で3~5千円程度、中小苗なら1~2千円程度とほぼ妥当と思われる価格になっています。ブラックオブトはまだ高いですが、繁殖が進めば紫オブト並みになるでしょう。

一般市場には「薄紫」がかなり出回っていますが、これは分類上は紫オブト(H. vista) ではなく、特大型のH. ikraだと見られます。そのため非常に仔吹がよく、まめに仔を取ってやらないと形が崩れてしまいます。しかし単頭で作れば直径は8cm近くなり、完全無毛丸頭なので、園芸上は紫オブトの一つとして扱っています。

「薄紫」は相当な弱光下で育てても徒長せず、扁平に形良く育てられます。紫オブトは光の強さが6千ルクス以上ないと徒長してしまいますが、薄紫は4千ルクスでもほとんど徒長しません。通常の明るい室内は4千ルクス程度ですから、室内で育てる場合、紫オブトは徒長してしまいますが、薄紫は徒長させずに育てられるということになります。

オブツーサ系で最人気なのはその斑入り、オブト錦です。最近はマリン(宝草錦x紫オブト)や京の花火(京の華錦x紫オブト)などに紫オブトを戻し交配したと思われる斑入りが多数作られ、それぞれに名前を付けて売り出されています。初期に作出されたものに「残雪オブト錦」とか「花水晶」とかの名前を付けることは、他に類似品種がないわけですから問題ありませんが、最近のように類似の斑入りが多数作出されるようになると、個別個体にそれぞれ別名を付けてもラベルなしには識別不能ですから、正しい品種とは言えず、すべて単にオブト錦となります。

同じような現象はすでに玉扇、万象、コレクサなどで起こっており、これらの斑入りは特別なものを除きすべて単に玉扇錦、万象錦、コレクサ錦として取引されており、それで何の混乱も起こっていません。例えば実生の玉扇錦に順に名前を付けたとしても、そのほとんどはラベルなしでは識別不能ですから、それらは品種ではなく、名前を付けるとかえって混乱を招くことになります。

マリンや京の花火は簡単に再作出でき、かつ繁殖も容易ですから、多数の親株をそろえられ、それらに紫オブトを戻し交配すれば相当な確率でオブト錦ができます。したがって今後も多数の新しいオブト錦が作出されるでしょうが、それらは特別なもの以外すべて単にオブト錦として扱われるべきです。名前を付ければ売れるからとばかりに、類似個体に次から次へと名前を付けて売り出す業者やセミプロの素人だまし商法には注意してください。

そのような次第で、多くの育種家がマリンや京の花火を使って多数のオブト錦を作出しており、さらにその多くはマリンや京の花火と同様に繁殖容易と見られますから早晩多数のオブト錦が市場に出回るようになるでしょう。そうなれば価格も相当低下するはずです。繁殖力の強さからして、10年もたてばこれらオブト錦は今の宝草錦や京の華錦のような存在になるかもしれません。

最後に紫オブト以外のオブト系やレース系はH. davidiiやH. venustaなどを除くと、まだほとんど市場に出回っていませんが、私自身の好みからすると全ハオルシア中、最も美しいと思われる種が多数あります。現在のマニア市場向きではありませんが、繁殖が進んで一般市場に出回るようになればおそらく大人気になると思われます。それらの種についても折を見て順次紹介していく予定です。 


なお、この記事は玉扇・万象の暴落に狼狽したり当惑している収集家のために書いたものです。玉扇・万象の暴落はこれまでの価格が投機マネーによるもので、マニア層にしか市場がないので当然の結果です。しかし一般趣味家人口の多いピクサやスプレンデンス、オブツーサ系などでは玉扇・万象につられて高騰したバブル分の下落はあってもそれほど大きな価格下落はないだろうという見通しです。

玉扇・万象の暴落につられて安くなった今が買い時という見方もありますので、狼狽様子見をして「あの時買っておけば」ということのないよう、ご注意ください。一方、オブト錦は今後大量に育成・繁殖されるようになると見られますから、むしろ時機を見て購入する方がよいです。

また組織培養では原則的に小苗しか生産できませんから、一般趣味家の実需がある品種群では大苗の価格はそれなりに維持されるでしょう。

H. pallens Breuer&Hayashiという種はGrahamstown郊外 北東数キロメートルのところに生えている植物です。Alsterworthia International誌のSpecial Issue 7の7ページ(2004) に正式発表されています。

おおむね全緣(無鋸歯)ですが、鋸歯のある個体もしばしば見られます。やや黄色味を帯びた、尖った葉先の艶のある浅緑色葉で、葉先はスリット様透明部が集合して比較的大きな窓となります。中小苗の内は単頭ですが、大きくなると仔吹して群生します。

この系統はH. teneraの無鋸歯型(H. denuda n.n. Pluto’s Vale)が大型化したもので、H. caerulea (Helspoort)からH. pallens (Grahamstown)、H. yocans n.n. (Gladhurst)、H. elegans n.n. (Koonap Bridge)、H. hogsia n.n. (Hogsback)、H. speciose n.n. (Thomas River)などがこのグループです。

この仲間は尖った葉先に窓のある浅緑色葉の一群で、オブト系とシンビ系との中間的存在です。窓の大きなきれいな個体はオブト系に近いですが、窓の小さな個体は細葉のシンビ系といった感じです。

なお、仙女香は原種ではH. pallensに最も近いと見られますが、H. pallens そのものの斑入りではなく、斑性から考えるとおそらくミルキークラウド(オブト交配の白ノリ斑)にH. pallens(あるいはH. seturifera)がかかったものではないかと推定されます。

斑性は非常に遺伝性が高いので、交配親の推定には有力なデータです。白斑はオブト系、シンビ系に限らず、非常に少ないですが、その中で仙女香に最も近い斑性の植物はミルキークラウドです。

仙女冠も白ノリ斑ですが、こちらはほぼ完全なノリ斑(周縁斑)で、スジ斑の部分があったとしてもおおむね源平斑(大模様の斑)です。一方、ミルキークラウドはノリ斑と細かなスジ斑が混ざった斑で、この斑性は仙女香と同じです。

ミルキークラウドは奇形花で一般に不稔ですが、まれに正常な花が咲き、これは受精可能ではないかと見られます。おそらくそのような正常花が咲いたときに偶然H. pallensかH. seturifera の花粉がかかり、仙女香ができたのではないかと推定されます。

ミルキークラウドが結実するチャンスは非常に少ないものの、結実すれば少なくとも5~10粒程度の種子ができたのではないかと考えられます(あまり少ないと子房が肥大せず、途中で落果してしまう)。したがって仙女香には実生の兄弟株の存在が考えられます。

私のところには2系統の仙女香があり、一つは一般的な仙女香、もう一つはより大型で仔吹しないタイプです。小さいうちは全く見分けがつきませんが大きくなるとサイズと仔吹性で差が出てきます。どちらも同じ仙女香という名で入手したものです。

そうして見ると、掲示板で質問のあった”仙女香“も同じ実生兄弟の異個体という可能性があります。標準的な仙女香よりやや棒状葉という個体です。あるいはほかにも別タイプの異個体があるかもしれません。もう少しデータやサンプルが集まった時点で改めて整理する必要があるかどうか判断したいと思います。

最後に、仙女冠はH. seturifera の原種そのものの斑入りで、雅楽殿白斑といわれていたものから出現した全斑です。

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