先日の記事(最近のハオルシア市況について)に関し、以下の質問が寄せられたので、追加で説明します。
「私は最近少し高め(数万円程度)の玉扇万象を購入したのですが、今後これらを親木に使い、所謂良品を作出しても、あまり高い値段はつけられなくなるのでしょうか。」
質問者の『値段』というのはセリ会やネットオークションなどにおける取引価格のことだろうと思いますが、取引価格は玉扇・万象に限らず、需要と供給のバランスで決まります。良品であればそれを欲しいと思う人がたくさんいて高い値段が付きますが、最初に高い値段で買う人はおおむねそれを繁殖して商売にしたい人たちです。特に組織培養で殖やす人は2年ほどで数百本の苗が生産可能ですから、そうとう高額でも買うことでしょう。
しかし商売目的で、あるいは半ば商売で買う人はサボテン業者やいわゆるセミプロの人達で、その数は国内でせいぜい300人、日本市場で取引する外国人を入れても500人程度です。さらに最初の高い値段で新しい品種を買う人はそのうちせいぜい50人ほどで、あとは徐々に価格は下がり、商売目的で買う人の需要が一巡するころには価格は最初の値段の2~3割、時には1割程度まで下がります。
そのころには最初に売られた苗から葉挿しや組織培養で殖やされた小苗が流通し始めますから、それも考え合わせると、最初の苗販売から2~3年後には価格は最初の値段の1割以下に落ち着くと推測されます。
小売価格が3千円程度以下になると商売目的ではなく、それを買って観賞したいという実需で買う人が出てきますから、新品種が良品であればそこで需給のバランスがとれ、価格は千~2千円程度で安定するでしょう。もしそれが本当に良品ならこの価格でも全国で数万本売れます。
なお、この価格安定化のプロセスで、最初に売られた苗が繁殖され販売されたときに、それが本当に良品なら、販売された苗を見てそれを欲しいと思う人が増えて、最初の価格がなかなか下落しない、時にはかえって高くなるという場合があります。販売された苗が販売先で広告塔のような役割を果たすためです。しかしこれも一時的な現象で、最終的には「販売目的でなく楽しみたい」、という実需に見合う値段になるまで価格は安定しません。
また数年前までは優良品種の繁殖が進まず、常に供給不足でしたから、価格がなかなか下がりませんでしたが、組織培養が普及して、安価な苗が大量供給されるようになったため、一気に価格が低下して実需に見合う値段になりつつあるというのが今日の情勢です。
したがって、玉扇・万象に限らず、優良な新品種であれば最初は営利目的で買う人により高い値段が付きますが、最終的には実需に見合った価格、ハオルシアならおおむね中小苗で千~2千円、に落ち着くだろうというのが私の見通しです。
そこで問題なのが、玉扇・万象には果たして実需がどれくらいあるのか、ということです。つまり営利目的でなく、「繁殖しなくても良いから買って楽しみたい、観賞したい」、という愛好家がどれくらいいるのかということです。もちろん、営利目的ではなく、「自分で育てて楽しみたい、観賞したい。」という理由で、高額でも惜しまずに金を出す少数の、本物の玉扇・万象愛好家はいます。
しかし残念ながら玉扇・万象を高額で取引してきた大部分の人は業者かセミプロで、営利目的の人たちです。この人たちは金儲けが主目的ですから、組織培養などで優良品種をたくさん繁殖しても、価格維持のために販売を意図的に絞り、あるいはおよそ品種とは言えないような類似個体に次から次へと名前を付けて人気をあおり、自分たちだけでお祭り騒ぎをしてバブル価格を生み出してきた、と言えます。
また、目先の利益しか考えない人が多いので、優良品種を安価に供給して玉扇・万象の愛好家を増やしたり、特徴のある優良品種だけに名前を付けて品種の信用性を高めたり、さらには愛好家の利便のために品種名の統一に協力するなどという努力は一切せず、逆にそれと正反対のことばかりしてきた人たちです。玉扇・万象のマニアの大部分がこのような状態ですから、玉扇・万象の一般愛好家が増えないのはむしろ当然でしょう。
したがって白妙や玄武など、特徴のはっきりしたいくつかの優良品種を除くと、玉扇・万象の実需はほとんどない、というのが実態です。類似個体が多くて特徴の明瞭でない“品種”は値段がいくら下がっても、安いからと言ってそれを買って楽しみたいという一般愛好家がおらず、価格下落に歯止めがかかりません。
多くの園芸植物にはいわゆるマニア向けの品種と、一般大衆向けの品種とがあります。マニア向けの品種は多くの場合、性が弱かったり、癖が強かったり、あるいは成長が遅かったりしますが、うまく作ると素晴らしくきれいな花を咲かせる、といった品種です。一般大衆向けの品種は丈夫で成長が早く、誰が作っても安定してきれいな花を咲かせる、といった品種です。マニア向けの品種はそのような難しい品種をうまく作っている、あるいはその結果見事な花を咲かせている、ということで品評会で入賞することが多く、品評会向け品種とも言われます。
ハオルシアの場合、玉扇・万象、コレクサなどはマニア向け品種です。温室の中でピクサやスプレンデンスをまとめておいてあるところは白や赤の色彩が顕著で目立ちますが、玉扇・万象、コレクサなどのおいてある一角はほとんど緑一色で全く地味です。しかしよく見ればその窓の紋様は千差万別で、個体ごと、葉ごとに異なるなど、非常に面白く、その面白さにはまる人がマニアと呼ばれるわけです。
一方で、マニア向け品種は次第に大衆向け品種に品種改良されていき、丈夫で作りやすく、しかも素晴らしい花を咲かせるよう改良されていきます。玉扇・万象でも丈夫で作りやすく、しかも素晴らしい窓模様の品種が作出され、それが市場に安価に出回るようになれば、その紋様の面白さを理解する人が増え、愛好家も増えるはずです。
マニア市場では価格の高いことがステータスとされ、いかに高額で売買されるかが注目されます。しかし一般市場では価格の高さではなく、その品種が何本売れたかが評価基準です。例えば白妙や玄武が小売価格1本1000円でホームセンターなどで売られれば、おそらく全国で数万本以上売れるでしょう。粉雪やタージマハルなどのより派手な品種がこの価格なら10万本売れるかもしれません。
欧米でも当会の提携先が組織培養でハオルシア優良品種の繁殖を進めており、これらが日本市場よりはるかに大きな欧米市場で売り出されたら百万本単位で売れることでしょう。自分の作った品種がいくらで売れたかではなく、何万本売れたかを自慢するように、愛好家の意識改革をしていく必要があります。
また価格の安定性に関して、商標登録された場合その品種は許可なく輸入できませんから、海外からの安価な組織培養苗が大量に輸入されるのを防ぐことができます。登録商標名での無許可輸入はもちろん、無名や別名で輸入すれば密輸ですから、いずれ税関で輸入阻止(没収)されるようになります。
また商標の使用許諾条件に最低販売価格を指定できますので、国内での値下げ競争も回避できます。
このように価格安定の上では商標登録は非常に有効ですが、一部の業者やセミプロが当会の商標登録を阻止しようと妨害工作をしたり、別名を作って商標の使用を回避しようとしたりするのは、きわめて近視眼的です。
多くの有名品種ではすでに海外産培養苗が卸市場などを通じて、一般園芸店に出回り始めており、安価な海外培養苗との本格的価格競争が目前に迫っているというのに、これら業者やセミプロが商標登録に反対したり妨害したりするのは全く現状を理解しない、愚かな自殺行為というほかありません。