H. kingianaはかなりの稀種で、産地はほんの数か所しか知られていません。その代表的産地はGreat Brak Riverで、Maximaグループの最東端産地になります。
写真(1) H. kingiana Great Brak River Station 1985.3
Great Brak River駅の裏山に大きな群落があったのですが(写真1)、高速道路がそこに作られたので、大部分は工事で削られて無くなってしまいました。
最近その近くのKlein-Brakrivierで新たな群落が見つかりましたが、Great Brak Riverの群落とほぼ同じ形態です(写真2)。写真(3)はそのうちの1個体です。なお、この群落のすぐ近くにはH. parksianaやH. denticuliferaも生えています。
写真(2) H. kingiana Rooiheuwel, Klein-Brakrivier 2003.5
写真(3) H. kingiana Rooiheuwel MH 03-253-1 D=9.5
さてSheilamの記事でも少し触れましたが、南アフリカのde Vriesから2006年に10本ほどH. kingiana Great Brak River VdV 138 の実生小苗を買ったのですが、大きくしてみたらどうも様子が変です。
写真(4) H. kingiana hyb. MH 06-322-1 D=8
写真(5) H. kingiana hyb. MH 06-322-2 D=9
写真(6) H. kingiana hyb. MH 06-322-3 D=8
写真(7) H. kingiana hyb. MH 06-322-4 D=9
写真(4)はそれらのうち最もH. kingianaらしいもので、1本だけ注文してこれが来れば何の疑問も起こらなかったでしょう。ところが大きくした苗の中には写真(5)や(6)のようにH. marginata(H. albicans)ないしH. carinata n.n.(Ashton)そっくりのものがあり、さらにはH. minimaそっくりな個体(写真7)も出てきました。他の個体も同じで、H. kingianaにしてはどうも変な形態のものばかりです。
これはおかしいと思ってde Vriesに問い合わせたところ、 雑交したらしいとのことです。南アフリカでは相当注意しないと虫が勝手に交配してしまいますから、本人は雑交してないつもりでも実際には雑交してしまい、実生苗をある程度の大きさまで育ててみて初めてそれに気がつくということがしばしばあります。これはSheilamの苗(Bayerの実生苗)でも同じですから、注意する必要があります。
そこで問題はSTCのH. kingiana(写真 8は斑入り) ですが、これもde Vriesからの苗です。
写真(8) H. kingiana hyb. variegated D=8.5
STCの親植物の写真を見ると葉型はもう少し幅広になるようですが、H. kingianaにしては葉裏の白点が少なく、やや白肌なので、おそらく上記de Vriesの交雑苗の一つだろうと推定しています。細葉キンギアナとでも言うべきH. subkingiana n.n. (写真9)は大変稀種ですから、おそらくこれではないでしょう。
写真(9) H. subkingiana n.n. MBB 7868 Herbertsdale, Alsterworthia Int. 11-8
なお余談ですが、Sheilamの記事中、Sheilamは本来ブドウ農園だと書いたのですが、そこで採れたブドウはKWVという協同組合に集められ、ワインになります。KWVは南アフリカ最大の取扱量を誇るワイナリーで、品評会でもしばしば優勝している有名ブランドです。日本にも輸入されていますので、KWVのワインを飲むときはSheilamで採れたブドウが入っているかも、などと想像しながら飲むのも悪くないでしょう。
Dr. M. Hayashi