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April 2013

この植物が最初に紹介されたのはBayerのHaworthia Update 1 (2002) の53頁、写真155で、タイトルはMBB 6899 H. aristata/H. pringlei var. decipiens, Paddafontein, north of Kaboega.となっています。

H. lapis (H. aristata sensu Bayer) に近い感じの灰緑色の植物です。

写真1 H. rava  (Haworthia Update 2. P. 86. Fig. 24)
写真1. H. rava  (Haworthia Update 2. P. 86. Fig. 24)


写真1はUpdate 2. p. 86に掲載された写真ですが、Update 1 と同じ写真です。

こちらのタイトルは H. arstata. Paddafontein. MBB 6899. となっています。

 

(余談ですが、Bayerは基本種と変種の関係を何か勘違いしているようで、時々このH. pringlei var. decipiens やH. decipiens var. xiphiophylla (Baker) M.B. Bayer comb. nov. (Update 2.P. 98.) のような誤った組み合わせ表記をしています。

分類学上、2つの種を組み合わせる場合の基本種とはより基本的な形態の種や、より広範囲に分布する標準的な種を基本種とするのではなく、より早くに記載された種が基本種です(命名規約 Art. 11.4)。)


写真2 H. rava type MH 03-156=MBB 6899  Paddafontein
写真2. H. rava type MH 03-156=MBB 6899  Paddafontein


写真2はH. rava のタイプ植物の写真で、写真1と同じくMBB 6899 です。写真で見るように、H. lapisの濃青緑色と比べより灰緑色なのが特徴なのでravus (灰色の)からH. ravaと名づけられました。


写真3 H. rava  07-167-2 (=MBB 6899)  D=9

写真3. H. rava  07-167-2 (=MBB 6899)  D=9


 写真4 H. rava  03-156=MBB 6899  Paddafontein D=7
写真4. H. rava  03-156=MBB 6899  Paddafontein D=7


しかしその後に輸入されるMBB 6899は写真3や4のように、窓はより大きく透明で美しいのですが、葉色はやや紫ないし赤みがかった色調の個体が多く、写真2のような灰緑色の個体はあまり見られません。

南阿窓草集 (http://blog.livedoor.jp/ryokuhusou/) で紹介されているH. ravaも大窓紫肌タイプです。Sheilamで売られている実生苗はBayerの実生なのですが、この型の個体の方が窓が大きくきれいなので、あるいはBayerが意図的にそのような個体を選んで交配しているからかもしれません。


写真5 H. rava  06-279-3=GM 554 Paddafontein cross  D=7

写真5.  H. rava  06-279-3=GM 554 Paddafontein cross  D=7


 写真6 H. rava  06-279-6=GM 554 Paddafontein cross  D=8

写真6.  H. rava  06-279-6=GM 554 Paddafontein cross  D=8


写真4と5はSheilamではない南アフリカの業者から輸入した個体ですが、おそらくMBB 6899 とは別群落のH. ravaです。こちらはMBB 6899 より窓が小さく、くすんだ肌色ですが、より強い灰緑色をしています。また鋸歯もより短く密なのですが、MBB 6899 のように透明ではなく、かなり白いのが特徴です。

中には写真6のように白く密生した短刺が濃い灰緑色の肌色に映えて非常に美しい個体もあります。MBB 6899とは異質な、どことなくH. rooibergensis を彷彿させる美しさです。


Dr. M. Hayashi

‘オラソニー錦’(‘Ollasony Nishiki’)(‘Ollasonii はラテン語型なので不適格名)

‘オラソニー’はおそらくH. obtusaH. retusa(またはH. comptoniana)との古い交配で、かなり大型になります。‘三仙寿’も‘オラソニー’ですがさらに大きくなり、培養による巨大化変異株と思われます。培養による巨大化変異は‘鬼武者’等にも見られますが、‘オラソニー’と‘三仙寿’の関係もおそらくこれと同じであろうと見ています。

(‘鬼武者’は分頭性でしたが培養苗は単頭性になり、さらにより大型化したので非常に立派な標本株になります。また‘キングギドラ’等、中国の培養苗にはもとは無名の雑種だったが、巨大化したために新品種になったと考えられるものが多いです。)

 

さて培養すると斑が時々できますが、‘オラソニー’にも培養によって斑入りが出来ています。もともと大型なので斑入りは相当見栄えのする品種になるだろうと期待されますが、もしさらに巨大化が一緒に起こっていれば、‘三仙寿’に斑が入ることになりますからすごい絶品になることでしょう。


Photo1 オラソニー錦
写真1‘オラソニー錦’(‘Ollasony Nishiki’)D=10.5

Photo2 オラソニー錦
写真2
‘オラソニー錦’(‘Ollasony Nishiki’)D=10.5 

写真
1は最初に入手した‘オラソニー錦’ですが、オブツーサ系に時々出現する『透け斑』とでも言うべき斑です。これは葉裏の表皮の一部が筋状に薄く半透明(ときには透明)になり、内部の貯水組織が半ば透けて見えるタイプの斑です。このタイプの斑は写真1のように横(葉裏)から見るときれいな斑ですが、写真2のように上(葉表)から見ると斑の部分はほとんど見えません。

Photo3 オラソニー黄斑
写真3 
オラソニー錦’(‘Ollasony Nishiki’)D=6.5


写真3は次に入手した‘オラソニー錦’で、他の多くの斑入りと同じような筋斑のタイプです。葉表から見ても鮮明な斑が確認できます。このタイプの斑は時々出現するようで、注意していればオークションなどでも見かけることがあります。


Photo5 オラソニー白糊斑 D=5

写真4 オラソニー錦’(‘Ollasony Nishiki’)D=5.0


Photo4 オラソニー白糊斑 D=5
写真5 オラソニー錦’(‘Ollasony Nishiki’)D=5.0

 

写真4、5は最近入手したものでまだ小苗ですが、‘オラソニー’の白糊斑(琥珀斑)です。‘白蛇伝’や‘白銀の露’(H. obeseの白糊斑)のようにオブツーサ系の白糊斑は大変きれいですが、‘オラソニー’の白糊斑ならたぶんこれらよりずっと大型になりますから、オブツーサ系斑入りの最優品になるのではと期待しています。

また‘白蛇伝’や写真1、3‘オラソニー錦’はまったく紅葉しませんが、この白糊斑は写真45のように春夏にはきれいなピンク色に色づきます。

 

ただ白糊斑は葉緑が少ないので成長が遅く、また周辺キメラの斑なので葉挿しや胴切りでは繁殖できません。‘白蛇伝’‘白銀の露’と同じく自然仔吹きを待つしかありませんので、繁殖には相当時間がかかるでしょう。

もっと大きくなったら名前を付けて再度ご紹介します。

 

なお空中庭園(http://haworthia.jp)で紹介されていた‘オラソニー’3倍体錦もおそらく培養変異ではないかと思いますが、斑としては写真1の透け斑と写真2の筋斑との中間型のように見えます。つまり葉裏から見ると透け斑ですが、葉表にもかなり斑が出ているため、こちらは筋斑に見えます。したがって、‘オラソニー錦’にはこの3倍体錦も含めて現在4タイプあることになります。



Dr. M.Hayashi

いわゆるギガスとして輸入された植物の中には鋸歯が櫛の歯のように揃った、非常に美しい個体がありました。紅波園のNo. 1と称される個体もその一つで、どこかの本(サボテン12カ月?)の中にこの個体と思われるきれいな写真が出ていましたが、どの本だったか、まだ確認していません。

ところが3年ほど前にH. scabrispina Floriskraal Dam(採集番号なし)という苗が1本100ランドという高値でSheilamから売り出されました。ずいぶん高いなと思いながらもH. scabrispinaとしては新しい産地だったので10本ほど買ってみました。来た苗は直径2cm程度の小苗で、他のH. scabrispina やH. albispinaとどう違うのか、あるいは同じなのか、まったくわかりませんでした。
ところが大きくなってくると、大半の個体の鋸歯が櫛の歯の様に揃った、非常に美しい個体群であることが明らかになってきました。

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写真1 H.  pectispina n.n. 09-46-10  D=6 H=5 鋸歯が非常に白く、太く、かつ櫛の歯のようにそろう。

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写真2 H.  pectispina n.n. 09-46-3  D=6 H=6 別個体だが、同じく鋸歯がきれいにそろう。

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写真3 H. pectispina n.n.  09-46-5  D=7 H=6.5 やや軽い葉色の別個体。鋸歯は櫛状にそろう。

写真1から3はそれらの中でも特に鋸歯のそろった美しい個体です。この群落は鋸歯の揃った個体が多いだけでなく、その鋸歯が非常に白く、太いことも特徴です。H. albispinaはH. scabrispinaより大型でかつ鋸歯もより白く、太いですが(H. scabrispinaの鋸歯はやや薄茶色がかる)、この群落はそれよりさらに白く太い鋸歯をもっています。鋸歯の美しさという点では、Crassulaの月光に匹敵する植物でしょう。

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写真4 H. pectispina n.n.  09-46-7  D=5.5 H=6 レース系には珍しく、成長に従って丈が高くなる。

写真4は別個体を横から写したものですが、このようにこの群落の多くの個体では、成長するに従って丈が高くなる、というレース系としては非常に変わった特徴を持っています。また多くの個体では今のところ直径は5~7cm程度と小型です。同じ特徴(小型で丈が高くなる)を持っていることから、紅波園のNo.1もこの群落の植物であろうと推測できます。

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写真5 H. pectispina n.n.  09-46-1  D=9 H=8 大型になる個体。丈も伸びないが、鋸歯はそろわずに暴れる。

一方、写真5のように例外的に直径の大きくなる個体もありますが、直径が大きくなる個体は丈が高くなりません。また鋸歯はそろわずに暴れます。おそらくH. albispinaかH. scabrispina の遺伝的影響の強い個体でしょう。ただこのような個体(直径が大きくなり、トゲが暴れる)は全体の中では1/3以下です。

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写真6 H. pectispina n.n. 12-96-1  D=6.5 H=6 昨年輸入した個体。鋸歯が非常に白く太く長い。ただしやや暴れる。

写真6は昨年Sheilamから採集番号(MBB 7067)付きの同じ産地の苗が売り出されたので、比較のために5本買った個体の一つですが、鋸歯が非常に白く、太くかつ長い特良個体です。直径もやや大きいですが、残念ながらトゲは少々暴れます。しかし他個体も含め、昨年の苗の特徴は3年前に買った個体群とまったく同じであることは確認できました。

このようにFloriskraal Damの群落はH. scabrispinaやH. albispinaより明らかに小型で丈高くなり、鋸歯がより白く、櫛の歯のようにそろう、という特徴から、これは別種であると判断してH. pectispina(櫛状鋸歯の)と命名しました(記載は後日)。この群落中には鋸歯のきれいにそろう個体と、大型になる個体とがありますから、これらの実生から大型できれいに揃った鋸歯を持つ個体を選抜していけば、レース系屈指の優良品種になることは間違いないでしょう。


Dr.M.Hayashi

H. odetteaeは Odette Cummingさん(David Cumming氏の奥さん)にちなむ名前です。彼女はGrahamstown Universityに勤める才媛ですが、とても気さくで出身国のおいしいフィリピン料理を良く作ってくれました。野菜たっぷりの焼きそば風料理など、南アフリカの西洋風料理に飽きた日本人にとっては何かとても懐かしい味の料理です。

 odetteaeの産地(Lootskloof)
写真1 H. odetteaeの産地(Lootskloof)

さて、H. odetteaeはJansenvilleの少し東の、比較的限られた地域に小さな群落をいくつも作っています。写真1がその産地の一つですが、Euphorbia jansenvillensis等、トゲの多い植物の根もとによく生えていて動物の食害から身を守っているようです。

 odetteaeの自生状態
写真2 H. odetteaeの自生状態

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写真3 大型のH. odetteae MH 04-69. D=6.5

写真2のように、野生でも小型で綿のかたまりのようなかわいい植物ですが、小型の植物は群生するものが多い中で、写真のようにほとんどすべての個体が単頭です。国内で栽培しても野生のときと大きさがほとんど変わらず、最大で4~5cm止まり。それ以上大きくなる株はかなり珍しいでしょう(写真3)。かといって丈高くなることもなく、上に成長した分だけ下が枯れて根が球体を引っ張り込むので、長年栽培しても見かけがほとんど変わらないという特徴を持っています。

 odetteae MH 04-69-3, D=9
写真4_分頭性のH. odetteae MH 04-69-3, D=9 こちらから見ると形良い3頭立てだが・・・

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写真5  分頭性のH. odetteae. 写真4と同じ株。こちらから見ると5頭立て。

ところがH. odetteaeにはまれに分頭性の個体があり、この個体は栽培していくと数年に一度分頭し、株が次第に大きくなります。写真4, 5がそれで、現在は5頭になっています。少し前までは形良い3頭立てでしたが、1頭が2度分頭して5頭になってしまいました。繁殖のために1~2頭株分けするか、このまま大きくするか思案中です。
ハオルシアでは分頭性や群生性の個体は普通は敬遠されることが多いのですが、H. odetteaeに限っては希少性も観賞上も分頭性の個体の方が優れています。白系マミのような形良い群性株に仕立てることができるかもしれません。もっとも他の個体も肥培すれば分頭してくるかもしれませんが、今のところ未確認です。

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写真6 H. odetteae MH 05-229. D=5.5. 分頭を始めた株。

以前もう1株分頭性の株があったのですが、当時はあまり気にも留めずに3頭の形良い時に手放してしまいました。持っていれば分頭性同士で実生ができたのに残念、と思っていたら、最近分頭を始めた株を見つけました(写真6)。しかも‘翁草’(‘翁’を改名)のように葉裏全面に鋸歯が生える良タイプです。これで1~2年の内には分頭性株の実生ができそうです。


Dr.M.Hayashi

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