species

レース系

ハオルシアの軟葉系(Subgenus Haworthia)は表皮が厚くてザラザラしている租皮類(Supersection Asperidermis)、表皮が厚くてスムースな厚皮類(Supersection Pachydermis)、表皮が薄い薄皮類(Supersection Leptodermis)に分けられる。

 租皮類はH. angustifoliaやH. chloracanthaの中間で、厚皮類、薄皮類両群の祖先である。玉扇、万象もこのグループであり、おそらくH. floribunndaから進化したと思われる。いずれも表皮は厚く、ザラザラしていて艶はない。

表皮が厚いままクチクラを発達させてより乾燥に耐えるよう進化したのが厚皮類で、レツサ系(Section Retusae)のほか、H. pallida、H. reticulataなどもこの仲間である。租皮類と比べてクチクラが発達している分だけ表皮がスムースで艶がある。ここで表皮というのは窓部分を除いた葉の表面で、葉の裏側を見るとよくわかる。なお、レツサ系はよくまとまった単系統群(一つの祖先から進化してきたグループ)と思われがちだが、実際には多くの祖先から進化してきた複数系統が絡み合ってできている複合群である。

さて薄皮類は表皮のクチクラをさらに発達させて水の蒸散を防いでいるので、表皮は前記2群よりずっと薄くなり、強い艶がある。ただし厚皮類と同じく、これも多くの祖先種からそれぞれ独立に進化してきたさまざまなグループの集合体である。

この仲間の主なグループには
マルミ類(Section Marumiana。H. nortieriの仲間など。祖先はH. marumiana)、
テネラ類(Section Tenera。H. cummingiiやH. vittataの仲間。祖先はH. tenera)、
セタタ類(Section Setatae。H. setataやH. decipiensの仲間。祖先はH. divergens)、
ボルス類(Section Bolusii。H. bolusiiやH. calitzensisの仲間。祖先はH. heroldia),
シンビ類(Section Cymbiformis。H. cymbiformiaの仲間。祖先はH. zantneriana)、
オブト類(Section Obtusatae。H. obtusaの仲間。祖先はH.Lapisなど)、
レイト類(Section Leightonii。H. leightoniiの仲間。祖先はH. doldii)、

などがある。なお、H. divergensはセタタ類のみならず、シンビ類やオブト類の遠い祖先にもなっている。またマルミ類、テネラ類、セタタ類、ボルス類の4類は鋸歯が発達しているので、合わせてレース系と呼ばれている。

ハオルシア属には硬葉系を合わせて全部で現在300種程度が記載されており、未記載種を含めると約500種程度が認識されている。種をどのように定義するかにもよるが、群落間の頻繁な遺伝子交換の有無(生物学的種概念)を基準にすれば、おそらくこの倍近くの種が存在すると推定できる。(例えばBayerのHaworthia Revisitedの29ページには広大なナマクワランドにH. arachnoidea v. namaquensisの産地が32ヵ所示されているが、これらは間違いなくそれぞれが別種であろう。)

それらの中でレース系は最大のグループで、おそらく属全体の種数の半分はレース系になり、その半分(つまり属全体の1/4)以上はセタタ類になるであろうと推測している。シンビ類やオブト類はこれらに比べるとはるかに小さなグループである。

グループ内の種数はおおむねそのグループの分布域の広さに比例し、分布域の広さはそのグループの発生した地史的時間の古さを表している。軟葉系の中ではレース系が最も広い分布域を持ち、大カルーはもちろん、ナマクアランドや東ケープ州の内陸深くまで分布している。レース系の4群は相当早い時期に進化して分布を広げたのであろう。

レツサ類は園芸的には人気の中心グループだが、大カルーや東ケープ州には分布しておらず、かなり若いグループである。ただし種分化の中心と見られるSwellendam周辺には未記載の新種が多数あり、またH. maraisiiなどは岩場ごとに異なった特徴の群落が生育しているので、整理すれば未記載種が100種近くあるかもしれない。ただそれでもレース系の1/4程度の種数にしかならないであろう。

そのようなわけで、レース系はハオルシア属全体を代表するグループで、非常に多様な変異を持っている。その変異の中にはとんでもなく美しい種や個体もあるのだが、それらは一般のハオルシア愛好家にはほとんど知られていない。その理由の一つはハオルシアマニアの多くがサボテン栽培から転向してきた方々なので、比較的強光線でうまく作れる玉扇、万象、レツサ系を中心に栽培しており、そのような環境ではレース系はまずうまく作れないということがある。玉扇、万象が形良く作れるような環境ではレース系は葉先が茶色に焼けてしまい、およそきれいとは言えない。きれいに作れなければその本当の美しさを知ることもなく、それを好きになることもない。

玉扇、万象をうまく作るにはおおむね10,000ルクス以上の光が必要だが、レース系は8,000ルクス以下、中には4,000ルクス程度が最もきれいに作れるという品種もある。シンビ類は玉扇、万象並みの強光線でないとすぐ徒長してしまう品種が多い。オブト類は例えばミルキークラウドなどはシンビ類並みの強光が必要だが、一般的には6,000~8,000ルクス程度が適当である。

また育種的観点からすると、玉扇、万象は改良の頂点と思われる品種が多数作出されており、今後これらを超える画期的な品種が生まれる可能性はかなり低い。いろいろな名前の新品種がヤフオクや交換会に出品されているが、ほとんどは大同小異である。ドングリの背比べのような2番煎じの品種に飛びつくことはない。

ピクサ(H. pictaの仲間。“picta”はラテン語なので園芸的呼称には使えない。)もほぼ改良のピークを過ぎ、白系(ピークは白拍子あたり)、斑紋系(ピークは踊り子あたり)とも実生はドングリの背比べ状態である。名前を付ければ売れる、素人が買ってくれる、ような時代は過ぎたと自覚した方がよい。ピクサは新しい名前のものだからと飛びつかずに、自分で実生して楽しむ時代になったと見ている。

スプレンデンスでも白系はタージマハルあたりがピークで、これを超えても結局大同小異にしかならない。ただ柴金城などとの交配により、白い窓に黒や赤の太い線が入る品種はまだ本当に良い品種は作られておらず、今後の改良目標であろう。そのような目標のためには柴金城の他、窓に太い線の入る金斗雲や火炎竜などとの交配が有望視される。

ピグマエアは白く目立つパピラ(乳頭突起)があるので最近でも人気は高いが、育種的にはまだまだ改良の余地が大きい。白さでは粉雪が一番だが、少々小型で葉型もやや葉先が尖る。雪の里はより大型(それでも小型の部類)で、葉先は粉雪より丸いが、白さでは粉雪に劣る。銀河鉄道は大型だが、パピラがやや薄く、粉雪などと交配しても白くて大型のものはほとんど出てこない。ただし白銀鉄道程度のものはかなり普通に出現する。大型で丸葉で、粉雪に匹敵するくらい白い、ものはまだ育成されていない。

これら玉扇・万象やレツサ系と比べ、レース系の育種はまだほとんど進んでおらず、選抜育種の段階である。選抜育種とは野生株から良い形質や特徴のある個体を選んで育種するもので、玉扇や万象もここから育種が始まっている。しかし玉扇・万象、レツサ系に比べ、レース系では選抜対象の野生株や実生苗が非常に少なく、輸入も最近はほとんどない。加えてレース系の育種に取り組む愛好家も非常に少ないので、育種はほとんど進んでいない。

さてここではレース系やそれに近い種の現在の育種状態とレベルをご紹介する。いずれもまだ育成途上で名前もないが、完成したら改めてご紹介する。

写真1 H. bella D=11
写真1 H. bella D=11

写真2 H. bella 雪の精 D=9
写真2 H. bella 雪の精 D=9

写真1はH. bell aの実生(白い妖精x青い妖精)で青い妖精並みに窓が大きいが、直径11cmもある大型単頭性である。白い妖精は大型単頭性なので、その実生にはかなりの割合でこのような大型単頭性個体ができる。雪の精(写真2)もその一つで、こちらは青い妖精に似た青肌の大窓個体である。

写真3 H. rooibergensis  D=8
写真3 H. rooibergensis D=8

写真4 H. rooibergensis 実生  D=6.5
写真4 H. rooibergensis 実生 D=6.5

写真3はH. rooibergensisで、繊細な鋸歯の美しい種である。写真4はその実生で、さらに繊細な鋸歯を持つ。H. capillarisに似るが、鋸歯はより白く輝いている。
なお、鋸歯の少ない“H. rooibergensis”はH. crystallinaである。H. rooibergensisは軟質葉だが、H. crystallinaは葉が硬いので手で触ってみればすぐわかる。

H. rooibergensisはH. gordonianaからH. villosa、H. eriiなどを経て進化してきた系統で、鋸歯は多いがレース系ではなく、オブト類である。

一方、H. crystallinaは祖先がH. heroldiaのボルス類であり、硬くて透明感の強い青窓が特徴である。この系統はH. calitzensisからSwartbergを超えて大カルーに入り、H. semivivaやH. bolusiiに進化している。硬くて透明感の強い青窓が共通した特徴で、H. bolusiiなどの葉も触ってみればかなり硬いことがわかる。

写真5 H. villosa 実生 D=9
写真5 H. villosa 実生 D=9

写真6 H. ciliata  '紫毛氈' D=6 
写真6 H. ciliata ‘紫毛氈’ D=6

写真5はH. villosaの実生で、葉全体が半透明で、そこにきれいな網目模様が全面に入る。マダガスカルの水草、レース草のような印象の特異個体である。H. ciliataの‘紫毛氈’(写真6)など、網目模様鮮明な品種と交配したらレース草並みに鮮明な網目模様の品種ができるかも知れない。H. villosa、特に葉裏に長い繊毛のある型はレース系型植物の中でもH. cummingiiと並ぶ美種だが、まだあまり出回っていない。

写真7 リビダ系実生  D=5.5
写真7 リビダ系実生 D=5.5

写真7はリビダ系の実生で、透明~半透明の大きな涙紋が葉全体に入り、非常に美しい。涙紋は一般に大きくならないと発達してこないので、この個体も大きくなるにつれ涙紋はさらに発達して多くなると期待される。

なお、リビダは最近比較的出回るようになったが、そのほとんどは小型のミラーボールといった感じの短葉密生型個体である。リビダのような斑紋を観賞する場合はカメオ(写真8)のように、葉が長く、かつあまり密集しない(バラけている)方がより美しく見える。ただしこのような型のリビダは非常に少ない。

写真8 H. livida ’カメオ’
写真8 H. livida 'カメオ'



ハオルシア研究発行遅延のお知らせ

ハオルシア研究34号の発行が遅れています。大変申し訳ありません。
一部のサボテン業者がハオルシア品種名の統一を妨げようとして、業界優先名などを使うよう呼び掛けている問題で裁判を準備中です。その裁判資料の整理に大幅に時間を取られており、ハオルシア研究の発行が遅れている次第です。
会員の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、ハオルシア園芸の今後の発展のためにはこの裁判は避けて通れないと考えています。どうかもうしばらくお待ちくださるよう、お願いいたします。

コメントへの回答(「タージマハル騒動」について)

前回のブログ(「タージマハル騒動」)に次のコメントが寄せられています。

『現在、ヤフオクでダージ・マハルという名前、おそらくタージ・マハルのスペルミスで出品されています。出品者に問い合わせたところ輸入したものとのことです。この記事を読ませていただいた後では入札するのは少し不安です。』

タージマハルの問題とともに、当会の登録商標の使用に関して簡単にご案内します。

タージマハルの親株は富士宮市の中島氏のところで葉挿しなどで若干の小苗が作られ、それが他の趣味家などに譲渡されています。その一部は中国に渡り、そこでも当然繁殖されていると思いますが、時期的には台湾に偽タージマハルが渡ったのよりだいぶ後なので、数的には偽物の方がはるかに多いと推定されます。したがって中国で繁殖されたタージマハルの大部分は偽物と考えた方が無難です。
 
日本でも本物のタージマハルが何人かの趣味家やセミプロによって組織培養で繁殖されています。組織培養なら最終的には100本、1000本単位で繁殖されますので、いずれ価格は下がります。その苗を待った方が確かです。

 偽タージマハル(ホワイトサミット)も相当白い株なので、小苗の内は識別が困難です。小苗でもある程の大きさになれば白点の密度や艶で識別できますが、鑑定には相当な経験が必要ですし、鑑定間違いも当然あるでしょう。リスクを冒してそのような苗を焦って買う必要はなく、いずれ安く出回るようになりますから、それまで待つことをお勧めします。

 なお、今回ヤフオクに出品された苗は当会が出品者に商標の無断使用の警告を出したので、出品者が自主的に出品取下げをしました。警告の内容はヤフオクの質問欄に出ています。

タージマハルという商標は現在特許庁で審判中ですので、無断使用すると登録後に損害賠償を請求されます。特許庁、高裁、最高裁などで最終的に登録が認められなければ損害賠償の請求はできませんが、もちろん当会としては当然登録されると考えています。

 またタージマハルという商標の使用は現在、中島氏と奈良多肉植物研究会にのみ許可しており、その他の誰にも許可していません。中島氏や奈良多肉植物研究会から買った苗でもそれ以外の人がヤフオクなどで販売する場合は別途許可が必要です。

 タージマハルに関してはこれまでに3名の方に無断使用の警告を出しており、当面他の方に使用許可を出すことは予定していません。ただし業界優先名など、消費者に大きな迷惑となる異名の使用を推奨する業者らに対する訴訟を現在準備中ですので、裁判開始後に下記条件で包括的使用契約の受付を始める予定です。

包括的使用契約は登録(契約)すればタージマハルも含め、当会のすべての登録商標や審査中の商標の使用ができるものです。前記裁判開始後に正式な使用条件をご案内しますが、大部分の会員は登録すれば当会のすべての登録商標が無料で使用できます。

包括使用料

使用許可条件は国際栽培植物命名規約の遵守(異名や重複名を使わないことを含む)。
新規でも入会すれば既存会員と同じ条件で当会の登録商標が使用できる。
無料使用でも使用許可にはヤフオクなどの出品者IDの登録が必要。
業界優先名などの異名を使う人には損害賠償を請求します。

タージマハル騒動

スプレンデンス ‛タージマハル‘ は白系スプレンデンスの最高峰と思われる品種ですが、最近これの培養苗と称する苗が中国などで大量に売られ、大騒動になっているようです。

私がこの事件を知ったのは、ハオルシア愛好家のN氏から、「台湾のX氏からタージマハルの培養苗がたくさんあるけど買わないかというオファーが来ている。本物かどうか見てくれ。」という依頼とともに20~30本の小苗が植わった鉢の写真が送られてきたのが最初でした。

写真を見たところ、およそ3cm程度の小苗で、やや尖った葉型や白点の密度、それに白点に艶がないことなどから、どうもタージマハルではないようでした。N氏の話では台湾のX氏は南アフリカのマーチン・スコット氏からその元苗を入手したということでした。マーチン・スコット氏はマルクス氏の近くに住んでおり、付き合いもあったようなので、マルクス氏からタージマハルを入手していた可能性もあります。

しかし写真の苗は小苗で判断が難しかったので、その写真をマルクス氏に送って彼の意見と、彼がマーチン・スコット氏にタージマハルの苗を譲ったことがあるかを聞きました。マルクス氏の意見も、これらの培養苗はタージマハルではない可能性が高い、ということでした。またマーチン・スコット氏にはマルクス氏が葉挿ししたスプレンデンスの小苗を何本か譲ったが、その中にタージマハルが入っていたかどうかはわからない、ということでした。

そこで私はN氏に、私もマルクス氏も、おそらくこれらの苗はタージマハルではない可能性が高い、という判断だということを伝えました。またもし買うならタージマハルではない可能性が高いから、高値で買わないこと、および、これをタージマハルとして売ると後でそうでないことが分かったときに大問題になるから、別名を付けて売った方がよい、というアドバイスをしました。N氏は私のアドバイスに従ってこれらの培養苗を買い、また名前も‘ホワイトサミット‘としました。

しかし台湾のX氏はその後それらの培養苗をタージマハルだとして中国などで相当な高値(1本8万円ということです)で大量に売ってしまったようです。ところがこの苗を買った人たちはマーチン・スコット氏に「台湾のX氏がマーチン・スコット氏から入手したタージマハルの培養苗だとして売っているが、これは本物か?」という問い合わせをしてきたのです。

自分が譲った苗をX氏がタージマハルという名で売っていることなど知らないマーチン・スコット氏は問い合わせに非常に驚き、SNSのフェイスブックのハオルシアグループに「自分はX氏にタージマハルという名で苗を譲ったことはない」、という警告を出しました。この警告を見た中国の人たちは、X氏に騙されて偽のタージマハルを買わされたということで、買い戻しなどで大騒ぎになっているようです。

その後、マーチン・スコット氏は私にもメールを送って来、顛末を説明しました。そのメールによると、X氏はその培養苗を売り出す前に、マーチン・スコット氏にそれを売ってもよいかという承諾と、親株の写真が欲しいというメールを送っているのです。それに対してマーチン・スコット氏は、「苗はすでにあなたのものだから、そうしたいならそうしてもよい。」という返事と、親株の写真をX氏に送っています。この返事の中では「タージマハル」という名は一切出ていません。

しかしX氏はマーチン・スコット氏から送られてきた親株の写真ではなく、マルクス氏のブログにあったタージマハルの写真を使い(無断使用ならば著作権侵害)、名前もタージマハルとして培養苗を売り出したようです。

X氏は送られてきた親株の写真を見て、これがタージマハルかどうか、マーチン・スコット氏に聞いてみるべきでした。メール1本で簡単に確認できるのにそれをせず、親株の写真もすり替えてタージマハルとして非常な高値で売ってしまったのは詐欺行為と言われても仕方ないでしょう。

ところでマーチン・スコット氏がX氏に送った親株の写真は、マーチン・スコット氏のフェイスブックに出ています(写真1=ホワイトサミット)。一方タージマハルの写真も同  じフェイスブックに出ています(写真2)。

写真1 ホワイトサミット Martin Scott 氏のフェイスブックより
写真1 ホワイトサミット

写真2  タージマハル(Taj Mahal)
写真2 タージマハル(Taj Mahal)

ホワイトサミットはタージマハルほどではないものの、非常に白い優良個体です。草姿はナタリー(写真3)に似ていますがずっと白く、ナターシャ(写真4)より白いです。タージマハルやナターシャほど白点に艶はありませんが、白点がより大きく厚い点で、ナターシャより高く評価できます。またホワイトサミットは大苗でも小苗でも白点が艶消しで、小苗でも白点に強い艶があるタージマハルとはこの点で区別できます。

写真3 ナタリー D=7.5
写真3 ナタリー D=7.5

写真4 ナターシャ D=7.5
写真4 ナターシャ D=7.5

ホワイトサミットは偽タージマハルとして売られてケチがついてしまいましたが、本来ならば優良新品種として紹介されるべき極上品種です。
今年9月18日付けのブログで紹介した④写真の個体はホワイトサミットではありませんでした。お詫びして訂正します。

また、よく出回っているタージマハルの写真(写真2)は中苗時のもので、大苗の姿は写真5です。

写真5 タージマハル大株
写真5 タージマハル(Taj Mahal)大株


なお先日のカクタスニシ祭りで配られた商標登録名と業界優先名を紹介した一覧表で、タージマハルは「特許庁最終判断で拒絶査定」となっていますが、これは正確ではありません。拒絶査定されたのは確かですが、これを不服として拒絶査定取消審判を申し立ており、現在審判中です。審判の結果が特許庁の最終判断となります。

また審判で拒絶査定が取り消されない場合は高裁(または知財高裁)、さらに最高裁に控訴、上告する予定です。これらの審判、裁判の確定をもって最終決定となります。

最終決定の前にタージマハルという名を使って販売すると、この名が登録できた後に損害賠償を請求される場合がありますのでご注意ください。他にもタージマハルと同じく、拒絶査定を不服として審判中の商標が多数ありますので、拒絶査定=自由に使える、と誤解されませんよう、ご注意ください。


<追記>
その後、私がマーチン・スコット氏にホワイトサミットは間違いなくタージマハルとは別物か尋ねたところ、次のような回答が来ました。

「この植物は2002年に自分がマルクス氏から譲り受けた野生株を育て上げたもので、タージマハルとはまったくの別物である。」

2002年はスプレンデンスの新産地が見つかった直後です。私(林)もその年にこの産地とマルクス氏の栽培場を訪れていますが、マルクス氏はまだスプレンデンスの実生を始めていませんでした。
タージマハルはマルクス氏の実生ですから、マーチン・スコット氏がマルクス氏からホワイトサミットを譲り受けたのが2002年だとしたら、それがタージマハルである可能性は全くありません。

最近のハオルシア市況について

ここ10年以上高騰を続けていたハオルシアの価格ですが、中国などで高額品の組織培養による大量生産が進み、その苗が日本に逆輸入されて今年春から大幅な価格下落が起きています。昨年夏と見られるピーク時と比較するとおおむね半額以下、品種によっては3割程度にまで下落し、今後もこの傾向は続くと見られます。そうなると、価格高騰を期待して流入していた中国などの投機マネーも一斉に引き揚げますので、価格下落にますます拍車がかかるといった状況です。

一方、一時全国で被害が出ていたハオルシア泥棒ですが、昨年11月の関東での事件(被害額約5千万円)を最後に、今年に入ってからは被害の情報が入っていません。危険を冒して盗み出しても売りさばく相手がいないという状況なのでしょう。ただし警戒が緩んだところを狙われることもあり、犯人が日本人ということもありますから警戒は怠らないようにしてください。なお把握している限りでは盗難事件は昨年までに全国で38件、時価推定の被害総額は17億円近くになります。

ところで価格が大幅に下落している品種はおおむね投機マネーによってバブル価格となっていた高額品です。その代表は玉扇と万象ですが、この2種は15年ほど前にも価格が暴落した時がありました。その時にはハオルシアの市場は国内だけで、かつ小規模なマニア市場しか存在していない状況でしたから、1990年代後半から続いていた玉扇・万象ブームが一巡し、市場が飽和状態になると一気に価格が暴落し、狼狽した業者が投げ売りをしても買い手がつかないこともあったようです。

ところがハオルシア人気が中国など近隣諸国に広がり始め、市場が海外で拡大すると、再び玉扇・万象の価格が上昇をはじめ、価格が上昇すると値上がり期待の海外投機マネーが流入し始め、ますます価格が上昇するという展開になり、それが昨年まで続いていたわけです。

この価格上昇につられて、それまでサボテンの牡丹類や花籠など、高額品を中心に扱っていた業者やセミプロなどが一斉にハオルシア、特に玉扇・万象を売買するようになり、趣味家から業者に転向する若手も雨後の筍のように出てきました。しかしこれらの人の多くはハオルシアが好きというより、高額品が好き、金もうけが第一の人達ですから、愛好家(消費者)の利便やハオルシア園芸全体の発展より目先の利益優先で行動するという問題点があります。

前回の暴落と違い、今回の暴落にはその救済となる新たな海外市場は期待できず、さらに組織培養による大量繁殖が背景にあるというわけですから、再び価格が上昇することは期待できません。加えて新たに開業したような若手業者が主眼とするマニア市場は、拡大を始めたハオルシアの一般市場に侵食され、今後市場規模はむしろ縮小していくと見られます。 

つまり、これまでマニア市場でしか流通していなかった優良品種が組織培養により花屋やホームセンターの園芸売り場で廉価で買えるようになることで、それまでサボテン業者やネットで買っていた人たちが、むしろ花屋やホームセンター漁りをするようになるというわけです。もちろん新品種や繁殖しにくいものはこれまで通りマニア市場で売買されるでしょうが、その期間は、それらが大量繁殖されるまでのせいぜい3年くらいとなるでしょう。

さて、玉扇・万象がなぜこのような暴騰と暴落を繰り返すのかというと、その根本的な理由は趣味家人口(=市場)が小さいということに尽きます。玉扇・万象の趣味家人口はハオルシアマニアの人口とほぼ同じで、国内では千人弱程度です。中国ではこの10倍のマニアがいるとしても全部で1万人程度ですから、少し投機マネーが動けば簡単に暴騰や暴落が起こってしまいます。

一方、オブツーサ系やレース系などのマニアも同じく国内でせいぜい千人程度です。しかし玉扇・万象と違い、これらのグループにはマニアではない一般愛好家が30万人から最大100万人程度いると見られます。玉扇・万象にはこのような一般愛好家がほとんどいません。

一般愛好家がたくさんいれば、価格が下落した時にそれらの人が買い支えますから暴落はしませんが、玉扇・万象は一般愛好家には不人気なので、価格が下落しても買い支える一般愛好家がおらず、マニア間で一巡してしまうと後は買い手不在で暴落してしまいます。

玉扇・万象はその模様の変化が面白くてマニアに人気なわけですが、一般愛好家にはほとんど同じに見え、細かな違いは理解されません。また名前の付けられている品種は非常に多いですが、その多くはラベルがなければ区別がつきません。つまり「品種とは類似他品種と識別可能なもの」という基本原則からすればおよそ品種とは言えない類似個体に名前が付けられて売られているわけですから、一般愛好家からそっぽを向かれるのも当然でしょう。

しかし玉扇・万象が一般愛好家に不人気なより根源的な理由は、それらが「美しくない」と思われているからです。窓模様の変化は確かに面白いのですが、玉扇・万象の窓は不透明で、透過光で鑑賞したり、日照条件による窓の輝きの変化を楽しむことはできません。もちろんどちらを「美しい」と思うかは好みの問題ですが、人数で言えば圧倒的に多くの一般愛好家が透明な窓を鑑賞できるオブツーサ系やレース系などの方が「美しい」と思っていることは否定できません。


さてマニアに人気なのは玉扇・万象ばかりではなく、ピクサ、スプレンデンスなどのレツサ系もありますが、これらは玉扇・万象と異なり、マニアだけでなく、一般愛好家にも非常に人気です。透明な窓はありませんが、窓全体が赤や白の斑紋や結節で覆われる派手な品種が多数あることがその理由でしょう。一般愛好家にも人気が高いことから、玉扇・万象の暴落に引きずられて多少は価格下落しても、玉扇・万象のような暴落はしないでしょう。

スプレンデンスは窓に強いつやがある点でピクサより美しいと評価する人が多く、全ハオルシア中、最も美しいと評価する人もいます。特に白系品種にはタージマハルなど、真っ白な品種が多数あり、昨年は海外で150万円で落札された個体があり、他にもう1個体が100万円超で落札されています。ピーク時の玉扇・万象なみの価格ですが、これも中国の投機マネーの影響と見られ、現在ならおそらくその半額以下になるでしょう。ただし一般愛好家にも非常な人気ですから、一定以上は価格下落しないと見られます。

① 昨年約150万円で落札された株
① 昨年150万円で落札された個体

②  ①の兄弟か実生と見られる株
②  ①の兄弟か実生と見られる個体

③  同じく①の兄弟か実生らしい。
③  ①の兄弟か実生と見られる個体

④ 'White Summit'台湾でタージマハルとして繁殖された?
④ 'White Summit' 台湾でタージマハルとして繁殖された個体

これら高額で取引された白系スプレンデンスのいくつかを紹介すると、①は昨年150万円で落札された個体、②、③はその兄弟か実生と見られる個体、④は台湾でタージマハルとして組織培養されものと見られる個体です。台湾でタージマハルとして繁殖された個体は、由来や経路を調べてみるとタージマハルとは別個体の④である可能性が高く、ホワイトサミット(White Summit)と命名されました。タージマハルほどではないですが相当白い個体です。白系スプレンデンスはほかにも素晴らしい個体が育成されていますが、それらは次号ハオルシア研究で紹介します。

中国でのハオルシア人気はおおむね日本の流行の10~15年あとを追いかけていますので、玉扇・万象から始まり、ピクサ、スプレンデンス、さらにはオブツーサ系、レース系へと進むと見られる人気の推移からすると、中国での次の流行はスプレンデンスになると見られます。事実①のスプレンデンスを150万円で落札したのは中国人だということです。

日本でもスプレンデンスの流行は始まったばかりで、優良品種の培養苗などが市場に出回るようになってから本格化すると見られます。その場合、培養の小苗などは相当安く販売される可能性がありますが、例えば写真①、②、③の小苗が卸市場を通じて1本2千円で花屋などの店頭に並べば、おそらく各1万本は売れるでしょうから、3品種で6千万円の市場が見込まれるということになります。


次にオブツーサ系ですが、一時かなり高騰していた紫オブトの価格も安定してきて、大株で3~5千円程度、中小苗なら1~2千円程度とほぼ妥当と思われる価格になっています。ブラックオブトはまだ高いですが、繁殖が進めば紫オブト並みになるでしょう。

一般市場には「薄紫」がかなり出回っていますが、これは分類上は紫オブト(H. vista) ではなく、特大型のH. ikraだと見られます。そのため非常に仔吹がよく、まめに仔を取ってやらないと形が崩れてしまいます。しかし単頭で作れば直径は8cm近くなり、完全無毛丸頭なので、園芸上は紫オブトの一つとして扱っています。

「薄紫」は相当な弱光下で育てても徒長せず、扁平に形良く育てられます。紫オブトは光の強さが6千ルクス以上ないと徒長してしまいますが、薄紫は4千ルクスでもほとんど徒長しません。通常の明るい室内は4千ルクス程度ですから、室内で育てる場合、紫オブトは徒長してしまいますが、薄紫は徒長させずに育てられるということになります。

オブツーサ系で最人気なのはその斑入り、オブト錦です。最近はマリン(宝草錦x紫オブト)や京の花火(京の華錦x紫オブト)などに紫オブトを戻し交配したと思われる斑入りが多数作られ、それぞれに名前を付けて売り出されています。初期に作出されたものに「残雪オブト錦」とか「花水晶」とかの名前を付けることは、他に類似品種がないわけですから問題ありませんが、最近のように類似の斑入りが多数作出されるようになると、個別個体にそれぞれ別名を付けてもラベルなしには識別不能ですから、正しい品種とは言えず、すべて単にオブト錦となります。

同じような現象はすでに玉扇、万象、コレクサなどで起こっており、これらの斑入りは特別なものを除きすべて単に玉扇錦、万象錦、コレクサ錦として取引されており、それで何の混乱も起こっていません。例えば実生の玉扇錦に順に名前を付けたとしても、そのほとんどはラベルなしでは識別不能ですから、それらは品種ではなく、名前を付けるとかえって混乱を招くことになります。

マリンや京の花火は簡単に再作出でき、かつ繁殖も容易ですから、多数の親株をそろえられ、それらに紫オブトを戻し交配すれば相当な確率でオブト錦ができます。したがって今後も多数の新しいオブト錦が作出されるでしょうが、それらは特別なもの以外すべて単にオブト錦として扱われるべきです。名前を付ければ売れるからとばかりに、類似個体に次から次へと名前を付けて売り出す業者やセミプロの素人だまし商法には注意してください。

そのような次第で、多くの育種家がマリンや京の花火を使って多数のオブト錦を作出しており、さらにその多くはマリンや京の花火と同様に繁殖容易と見られますから早晩多数のオブト錦が市場に出回るようになるでしょう。そうなれば価格も相当低下するはずです。繁殖力の強さからして、10年もたてばこれらオブト錦は今の宝草錦や京の華錦のような存在になるかもしれません。

最後に紫オブト以外のオブト系やレース系はH. davidiiやH. venustaなどを除くと、まだほとんど市場に出回っていませんが、私自身の好みからすると全ハオルシア中、最も美しいと思われる種が多数あります。現在のマニア市場向きではありませんが、繁殖が進んで一般市場に出回るようになればおそらく大人気になると思われます。それらの種についても折を見て順次紹介していく予定です。 


なお、この記事は玉扇・万象の暴落に狼狽したり当惑している収集家のために書いたものです。玉扇・万象の暴落はこれまでの価格が投機マネーによるもので、マニア層にしか市場がないので当然の結果です。しかし一般趣味家人口の多いピクサやスプレンデンス、オブツーサ系などでは玉扇・万象につられて高騰したバブル分の下落はあってもそれほど大きな価格下落はないだろうという見通しです。

玉扇・万象の暴落につられて安くなった今が買い時という見方もありますので、狼狽様子見をして「あの時買っておけば」ということのないよう、ご注意ください。一方、オブト錦は今後大量に育成・繁殖されるようになると見られますから、むしろ時機を見て購入する方がよいです。

また組織培養では原則的に小苗しか生産できませんから、一般趣味家の実需がある品種群では大苗の価格はそれなりに維持されるでしょう。

H. pallensと仙女香

H. pallens Breuer&Hayashiという種はGrahamstown郊外 北東数キロメートルのところに生えている植物です。Alsterworthia International誌のSpecial Issue 7の7ページ(2004) に正式発表されています。

おおむね全緣(無鋸歯)ですが、鋸歯のある個体もしばしば見られます。やや黄色味を帯びた、尖った葉先の艶のある浅緑色葉で、葉先はスリット様透明部が集合して比較的大きな窓となります。中小苗の内は単頭ですが、大きくなると仔吹して群生します。

この系統はH. teneraの無鋸歯型(H. denuda n.n. Pluto’s Vale)が大型化したもので、H. caerulea (Helspoort)からH. pallens (Grahamstown)、H. yocans n.n. (Gladhurst)、H. elegans n.n. (Koonap Bridge)、H. hogsia n.n. (Hogsback)、H. speciose n.n. (Thomas River)などがこのグループです。

この仲間は尖った葉先に窓のある浅緑色葉の一群で、オブト系とシンビ系との中間的存在です。窓の大きなきれいな個体はオブト系に近いですが、窓の小さな個体は細葉のシンビ系といった感じです。

なお、仙女香は原種ではH. pallensに最も近いと見られますが、H. pallens そのものの斑入りではなく、斑性から考えるとおそらくミルキークラウド(オブト交配の白ノリ斑)にH. pallens(あるいはH. seturifera)がかかったものではないかと推定されます。

斑性は非常に遺伝性が高いので、交配親の推定には有力なデータです。白斑はオブト系、シンビ系に限らず、非常に少ないですが、その中で仙女香に最も近い斑性の植物はミルキークラウドです。

仙女冠も白ノリ斑ですが、こちらはほぼ完全なノリ斑(周縁斑)で、スジ斑の部分があったとしてもおおむね源平斑(大模様の斑)です。一方、ミルキークラウドはノリ斑と細かなスジ斑が混ざった斑で、この斑性は仙女香と同じです。

ミルキークラウドは奇形花で一般に不稔ですが、まれに正常な花が咲き、これは受精可能ではないかと見られます。おそらくそのような正常花が咲いたときに偶然H. pallensかH. seturifera の花粉がかかり、仙女香ができたのではないかと推定されます。

ミルキークラウドが結実するチャンスは非常に少ないものの、結実すれば少なくとも5~10粒程度の種子ができたのではないかと考えられます(あまり少ないと子房が肥大せず、途中で落果してしまう)。したがって仙女香には実生の兄弟株の存在が考えられます。

私のところには2系統の仙女香があり、一つは一般的な仙女香、もう一つはより大型で仔吹しないタイプです。小さいうちは全く見分けがつきませんが大きくなるとサイズと仔吹性で差が出てきます。どちらも同じ仙女香という名で入手したものです。

そうして見ると、掲示板で質問のあった”仙女香“も同じ実生兄弟の異個体という可能性があります。標準的な仙女香よりやや棒状葉という個体です。あるいはほかにも別タイプの異個体があるかもしれません。もう少しデータやサンプルが集まった時点で改めて整理する必要があるかどうか判断したいと思います。

最後に、仙女冠はH. seturifera の原種そのものの斑入りで、雅楽殿白斑といわれていたものから出現した全斑です。
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☆品種等の質問はハオルシア協会会員に限定します。

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