species

サネカタイ(H. sanekatai nom. nud.)

サネカタイはDrew周辺の小型のムチカ(H. mutica)近縁種です。DrewはBonnievaleとSwellendamとの中間にあり、ムチカの産地の東端になります。ムチカに似て葉は鋸歯がなく(全緣)で、葉先はやや丸くなります。やや小型ですが、まったく仔吹しません。最大の特徴は窓に白い雲が入ることで、“白雲ムチカ”と呼ばれるゆえんです。

① シルバニア
 写真① 'シルバニア'

この仲間で日本で最初に知られるようになったのは‘シルバニア’(写真①)です。これは私が北関東のセリ会で買った身元不詳の実生苗で、おそらくサネカタイの交配だろうと思われます。大きくならないと窓の白雲は出てこないのですが、大型、大窓、ダルマ葉で非常に草姿が良く、白雲窓に太い緑線が入る傑作です。

② ホワイトウイドウ (White Widow)
 写真② 'ホワイトウィドウ' (White Widow)

その後、Drew周辺から原種のH. sanekatai が輸入されるようになりましたが、多くはあまり白雲の顕著でない個体です。しかしそれらの原種株の中にはとんでもなく濃い白雲の出る個体があります。有名なものが‘White Widow’(白い未亡人。写真②)で、窓中央に大きくて濃い白雲が見事に入ります。ただしこの個体は老成しないと白雲が出ず、若木のうちはほとんど白くなりません。

③ ムーミン (Mumin)
 写真③ 'ムーミン' (Mumin)

④ スヌーピー  D=9
 写真④   'スヌーピー'  D=9cm

他のやはり非常に白い原種個体が‘Mumin’(ムーミン。写真③)です。これはかなり小型ですが、白さでは’White Widow’ 以上で、しかも小苗の内から真っ白になります。‘Mumin’ の実生選抜が‘Snoopy’ (写真④)で、白雲は‘Mumin’より薄いですが、より大型です。

⑤ Drew White  D=9
 写真⑤ 'Drew White'  D=9cm

また‘White Widow’ など、白雲の多い原種個体同士を掛け合わせて作られたのが‘Drew White’ (写真⑤)で、おおむねサネカタイの内、白雲の顕著な個体群を指すグループ名となっています。ただしサネカタイであればいずれの個体でも白雲の遺伝子は共通して持っているようで、あまり白くないサネカタイでも交配するとかなり白い個体が出現します。

反対に‘White Widow’ のように老成しないと白くならない個体の実生苗は少なくとも若木のうちはほとんど白くなりません。選抜という点からすると、‘Mumin’など、小苗の内から白くなる系統の方が育種上有利です。

⑥ Lombard Star
 写真⑥ 'Lombard Star'

さてこのように、窓に顕著な白雲が入るという特徴を生かして、サネカタイには多くの傑作交配種が作られています。代表的なのが‘Lombard Star’(写真⑥)で、窓全面に盛り上がった白雲が入り、溶かした砂糖をかけた砂糖パンのようです。ハオルシア研究21号の表紙を飾りました。

⑦ ロンバード B  D=14
 写真⑦ 'Lombard B' D=14cm

‘Lombard Star’ の兄弟がLombard Groupで、‘Lombard B’(写真⑦)から‘Lombard G’くらいまであります(‘Lombard A’ が‘Lombard Star’)。いずれも‘Lombard Star’ 程ではないものの、非常に白い雲の入る優良個体です。

またサネカタイはコレクサなど、窓に線模様の入る種と交配すると、線が非常に白く太くなり、そこに白雲も入るなど、非常に派手な個体が出現します。コレクサやコンプトの育種に使うと傑作の生まれる可能性があります。

⑧ Dream Walk  D=13
 写真⑧ 'Dream Walk' D=13cm

そのような傑作の祖期のものが‘Dream Walk’ (写真⑧)で、コレクサとサネカタイの交配です。非常に太い白線に白雲が入り、かなり派手な品種です。ただし白線は単純な直線が多く、明瞭な折れ線模様や網目模様にはなりません。これをコレクサ様の鮮明な折れ線模様や、コンプト様の網目模様に改良するのが今後の課題です。

⑨ サネカタイ交配 D=8.5
 写真⑨ サネカタイ交配 D=8.5cm

⑩ サネカタイxコレクサ  D=11.5
 写真⑩ サネカタイxコレクサ D=11.5cm

しかしそのような交配はすでに試みられていて、より鮮明な折れ線模様のコレクサ交配(写真⑨、⑩)や窓全面に白雲がかかり、そこに網目状の白線が入る‘エーデルワイ寿’(写真⑪)や、‘阿房宮’との交配では大型透明艶窓に非常に太くて白い白線の入る個体(写真⑫)などが作出されています。

⑪ エーデルワイ寿  D=9
 写真⑪ 'エーデルワイ寿' D=9cm

⑫ 阿房宮ーサネカタイ D=11.5
 写真⑫ 阿房宮ーサネカタイ D=11.5cm

太い白線と白雲が出るという遺伝的特徴を生かしたサネカタイ交配は、今後もさまざまな種の組み合わせで試みられ、さらなる傑作の出現が期待されます。

なお、‘白夜’は窓が白くなる点でサネカタイに似ていますが、小吹が非常に良いことなどから、どうもサネカタイではないようです。キムチカ(H. quimutica nom. nud.)には同じように窓の白くなる個体があり、仔吹の良い点なども含めて、おそらく‘白夜’はそのようなキムチカの特異個体ではないかと思われます。

『「さくら貝」について』の記事のコメントへの回答

「さくら貝」の記事に以下のコメントが寄せられましたので、こちらでお答えします。

『たぶんヤフオクのは偽物でしょう。
でも記載の↓
この個体は東ケープ州Grahamstown東の産地から輸入した10個体から選抜した1個体です。同じ産地の他個体はいずれも一般的なシンビ系と同じく、葉先が茶褐色がかった薄ピンクになる程度ですが、この個体だけは非常にきれいなピンク色に色づくので、新品種としました。
↑ですが10個体で1個体結構な確率ですよね。
他の方が輸入したもので同じ特徴の個体がある可能性もあるし、正確な確認もせずに決めつけは協会と言う公の立場ではおかしくないですか?
また、交配ならまだしも輸入株で色づく特徴が違うだけで新品種とする基準まずくないですか?他の植物の新品種の基準と比べて甘過ぎませんか?』

まずH. compactaはGrahamstown周辺からその東のFishriverにかけて分布する中型のシンビ類で、名前のとおり比較的短い葉が多数重なり、コンパクトな草姿になります。H. compactaの東南側には白肌のH. canaが分布し、さらに海岸近くには桃色葉のH. roseaが分布します。またGrahamtownのすぐ南のHowiesons Poortには葉先に斑紋のあるH. meari(目有り)が分布しますが、これはH. batesianaからH. lepidaを経てシンビ類に合流する系統の中間的遺存種です。この系統が内陸部のH. lepida から始まり、南下してH. compactaからH. cana, H. rosea へと進化していく、中小型シンビ系です。

 一方、大型のシンビ類はH. zantnerianaからZuurbergのH. subhamataやH. aoyagiiなどを経てH. emeraldaからPort Elizabeth周辺の超大型のH. cymbiformisとなり、さらに東進してH. ramosaやH. setuliferaになっていきます。つまり、シンビ類にはH. batesianaが祖先の中小型系統とH. zannerianaが祖先の大型系統があり、南下する中小型系と東進する大型系とがGrahamstown周辺で交わり、交雑しあって現在の姿になっていると見られます。

 さて、「さくら貝」は産地や形態から見て、明らかにH. compactaと同定されますが、「さくら貝」と同一産地(群落)の他個体も含め、私の持っているH. compactaやその近縁のH. rosea. H. canaなどのおよそ200個体(クローン)の中には「さくら貝」と同じようなきれいなピンクに染まる個体はありません。H. roseaには濃いピンクに染まる個体がたくさんありますが、いずれもくすんだ色調のピンクです。

また私がコレクションしている、他の産地のはっきりしているシンビ系約300個体の中にも「さくら貝」のようにきれいなピンク色になる個体はありません。つまり「さくら貝」はシンビ系全体の中でも特異個体と考えられるということです。
 
 10個体に1個体なら結構な確率ではないかというご指摘ですが、では3個体輸入して1個体が「さくら貝」だったら確率33%だと考えるのですか?なんとも能天気な推定です。

 3個体だけ、あるいは5個体だけ輸入したらその中に特異個体が含まれていたということは稀有な事例というわけではありません。しかしたまたま特異個体が含まれていたとしても、その後何回輸入しても同じような個体は全くなかった、という場合の方が圧倒的に多いです。

 10個体に1個体なら結構な確率だから他にも似た個体があるのでないか、というのは確かに可能性としては考えられますが、逆にもしそうならH. compactaは中小型シンビ系ではもっともありふれた種ですから、他にも「さくら貝」に似た個体がたくさんあり、市場にも出回っているはずです。シンビ系がよく出品されるヤフオクは毎日チェックしていますが、しかしそのような個体が出品されたのは見たことがありません。

 結構な確率だから他にもあるはずだと言われるなら、ぜひとも実例を示してください。
 
私のところには同一種でも非常に多くの産地の標本があり、またほとんどの場合、1か所の群落から5~10個体を標本として保存しています。さらに同じ産地でも採集者が異なると異なった小群落から採集されてくることが多いので、同じ産地でも採集者の異なるもの(または同一採集者でも採集番号が異なるもの)は可能な限りすべて原則10個体ずつ輸入しています。したがって私はH. compactaの1種でも非常に多くの産地の、非常に多くの個体を知っているわけです。ハオルシアを全種持っていると言っても、1種につき代表的な産地の1~2個体しか収集していないようなサボテン業者とは桁が違うのです。

 分類学者というのはそのように同一種、あるいは同一地域の非常に多くの個体を見ているので、1個体の標本を見ただけでそれが新種かどうか直感的に判断できます。もちろん新種であることを確定するにはさらに調査が必要ですが、おおむね最初の直感は合っています。その種の個体全部、あるいはその地域の個体全部を見なければ判断できないわけではありません。

 同じことは特異個体にも言えます。同一種のたくさんの個体を見ている人はその種の変異の幅を知っていますから、ある個体を見たときにそれが一般的な変異の幅の中にあるものか、特異個体であるかをかなりの精度で判断できます。あるいは原種の実生をたくさんしている人ならその個体が特異個体かどうかかなり正確に判断できるはずです。

 このように専門家と言われる人はその専門分野において非常に多くの事例や個体を観察しており、その経験からある事例や個体が一般的な(標準的な)ものかどうか、かなりの精度で推定できます。ここが専門家と素人との大きな違いで、売れ筋の玉扇・万象や人気レツサ系しか栽培していないようなサボテン業者やセミプロが、観念的な素人論理で見当違いの批判をしてくるのは身の程知らずとしか言いようがありません。
 
話を「さくら貝」に戻すと、ヤフオクに出された偽“さくら貝”はおそらく単なる宝草(H. cuspidate)である可能性が高いと見ています(H. cuspidateは産地不詳だったため、交配種ではないかと言われてきましたが、最近産地(Ecca Pass)が見つかり、野生種であることがほぼ確実になりました)。単なる宝草であればせいぜい数100円程度のものですから、これを高額で落札された方は大変な被害です。

ヤフオクの場合、以前は質問欄にその旨書き込めばすぐに公開されたのですが、今は出品者が返答しないと公開されないので、入札者に警告が公開されず、間に合いません。ヤフーに違反申告もしているのですが、ほとんどの場合、何の対応も取ってくれません。というより、他の場合でも何度違反申告しても1度も対応してくれません。ヤフーは商売優先、出品者優先で、消費者保護という視点が全く欠けているようです。いずれ何らかの法的対処が必要ではないかと思っています。
 
 品種にはクローン繁殖品(ラメート=個体品種)や1代雑種、キメラ、純系など様々なタイプのものがありますが、共通した基準は、「類似他品種や他個体から1つ以上の形質において識別(区別)できるもの」です。この基準は交配品種でも野生株でも同じです。識別可能な形質なら形でも色でも構いません。例えば白花しかない野生種の中からピンク花の個体を見つけて新品種とすることは全く何の問題もないですし、事実そのような花色違いの新品種は他の植物群でもたくさんあります。

 花色だけでなく、葉色の違いでも識別可能なら新品種とすることができます。要は明確に識別できるかどうかであって、形質の種類(形や色、成分、あるいは開花期等)や形質の大小は問題にはなりません。明確に識別できるかどうかの具体的基準は、ラベルなしでも識別可能ということになります。ラベルがなければベテランでも識別困難なもの(例えば阿房宮と光鳳)は別クローンでも同一品種と判定されます。

したがって葉色だけの違いであってもそれが明確に他個体と識別できるならば、それを新品種とすることには何の問題もありません。わかりやすい例で言えば、斑入り個体は斑が入っているという葉色の違いだけで別品種とされますが、これを他の植物の新品種の基準と比べて甘過ぎるという人はいません。

 「さくら貝」の場合は「H. compactaであって、くすみのない、鮮やかなピンク色になるもの」となるでしょう。この定義に合う別個体があれば、それも「さくら貝」と言えます。ただし同じ鮮やかなピンク色になるH. compactaでも葉型や株姿が「さくら貝」と異なっており、その点で識別可能ならさらに新しい品種となります。あるいは葉型や株姿は同じでもより濃色の個体が育成されれば当然新品種となり、今後の育種目標でしょう。
 
最後に、新品種であるかどうかの判定は国際園芸学会から指名された登録人が行うことになっています。ハオルシアの場合、私(林雅彦)が登録人です。

「さくら貝」について

 「さくら貝」は『多肉植物ハオルシア』(日東書院本社)の中で紹介されたシンビ系(H. compacta)の新品種で、春~夏には外葉が鮮やかなピンク色に染まるのが特徴です。
一般にハオルシアの赤色はくすんでいたり、茶褐色がかることが多いのですが、この品種はくすみのない、きれいなピンク色になることが特徴です。

 この個体は東ケープ州Grahamstown東の産地から輸入した10個体から選抜した1個体です。同じ産地の他個体はいずれも一般的なシンビ系と同じく、葉先が茶褐色がかった薄ピンクになる程度ですが、この個体だけは非常にきれいなピンク色に色づくので、新品種としました。
色がさめているときは非常に白肌なので、これがきれいなピンク色に色づく原因なのでしょう。
 
 ところで最近ヤフオクで「さくら貝」と称するシンビ系植物が売られていますが、「さくら貝」はまだ1本も外部に出ていません。したがってヤフオクで売られている「さくら貝」は明らかに偽物です。だまされないよう、注意してください。

すでに2回出品・落札されており、その都度出品者に警告しているのですが、それにもかかわらず3回目が出品されているので、これ以上被害者が出ないよう、注意喚起する次第です。

レース系

ハオルシアの軟葉系(Subgenus Haworthia)は表皮が厚くてザラザラしている租皮類(Supersection Asperidermis)、表皮が厚くてスムースな厚皮類(Supersection Pachydermis)、表皮が薄い薄皮類(Supersection Leptodermis)に分けられる。

 租皮類はH. angustifoliaやH. chloracanthaの中間で、厚皮類、薄皮類両群の祖先である。玉扇、万象もこのグループであり、おそらくH. floribunndaから進化したと思われる。いずれも表皮は厚く、ザラザラしていて艶はない。

表皮が厚いままクチクラを発達させてより乾燥に耐えるよう進化したのが厚皮類で、レツサ系(Section Retusae)のほか、H. pallida、H. reticulataなどもこの仲間である。租皮類と比べてクチクラが発達している分だけ表皮がスムースで艶がある。ここで表皮というのは窓部分を除いた葉の表面で、葉の裏側を見るとよくわかる。なお、レツサ系はよくまとまった単系統群(一つの祖先から進化してきたグループ)と思われがちだが、実際には多くの祖先から進化してきた複数系統が絡み合ってできている複合群である。

さて薄皮類は表皮のクチクラをさらに発達させて水の蒸散を防いでいるので、表皮は前記2群よりずっと薄くなり、強い艶がある。ただし厚皮類と同じく、これも多くの祖先種からそれぞれ独立に進化してきたさまざまなグループの集合体である。

この仲間の主なグループには
マルミ類(Section Marumiana。H. nortieriの仲間など。祖先はH. marumiana)、
テネラ類(Section Tenera。H. cummingiiやH. vittataの仲間。祖先はH. tenera)、
セタタ類(Section Setatae。H. setataやH. decipiensの仲間。祖先はH. divergens)、
ボルス類(Section Bolusii。H. bolusiiやH. calitzensisの仲間。祖先はH. heroldia),
シンビ類(Section Cymbiformis。H. cymbiformiaの仲間。祖先はH. zantneriana)、
オブト類(Section Obtusatae。H. obtusaの仲間。祖先はH.Lapisなど)、
レイト類(Section Leightonii。H. leightoniiの仲間。祖先はH. doldii)、

などがある。なお、H. divergensはセタタ類のみならず、シンビ類やオブト類の遠い祖先にもなっている。またマルミ類、テネラ類、セタタ類、ボルス類の4類は鋸歯が発達しているので、合わせてレース系と呼ばれている。

ハオルシア属には硬葉系を合わせて全部で現在300種程度が記載されており、未記載種を含めると約500種程度が認識されている。種をどのように定義するかにもよるが、群落間の頻繁な遺伝子交換の有無(生物学的種概念)を基準にすれば、おそらくこの倍近くの種が存在すると推定できる。(例えばBayerのHaworthia Revisitedの29ページには広大なナマクワランドにH. arachnoidea v. namaquensisの産地が32ヵ所示されているが、これらは間違いなくそれぞれが別種であろう。)

それらの中でレース系は最大のグループで、おそらく属全体の種数の半分はレース系になり、その半分(つまり属全体の1/4)以上はセタタ類になるであろうと推測している。シンビ類やオブト類はこれらに比べるとはるかに小さなグループである。

グループ内の種数はおおむねそのグループの分布域の広さに比例し、分布域の広さはそのグループの発生した地史的時間の古さを表している。軟葉系の中ではレース系が最も広い分布域を持ち、大カルーはもちろん、ナマクアランドや東ケープ州の内陸深くまで分布している。レース系の4群は相当早い時期に進化して分布を広げたのであろう。

レツサ類は園芸的には人気の中心グループだが、大カルーや東ケープ州には分布しておらず、かなり若いグループである。ただし種分化の中心と見られるSwellendam周辺には未記載の新種が多数あり、またH. maraisiiなどは岩場ごとに異なった特徴の群落が生育しているので、整理すれば未記載種が100種近くあるかもしれない。ただそれでもレース系の1/4程度の種数にしかならないであろう。

そのようなわけで、レース系はハオルシア属全体を代表するグループで、非常に多様な変異を持っている。その変異の中にはとんでもなく美しい種や個体もあるのだが、それらは一般のハオルシア愛好家にはほとんど知られていない。その理由の一つはハオルシアマニアの多くがサボテン栽培から転向してきた方々なので、比較的強光線でうまく作れる玉扇、万象、レツサ系を中心に栽培しており、そのような環境ではレース系はまずうまく作れないということがある。玉扇、万象が形良く作れるような環境ではレース系は葉先が茶色に焼けてしまい、およそきれいとは言えない。きれいに作れなければその本当の美しさを知ることもなく、それを好きになることもない。

玉扇、万象をうまく作るにはおおむね10,000ルクス以上の光が必要だが、レース系は8,000ルクス以下、中には4,000ルクス程度が最もきれいに作れるという品種もある。シンビ類は玉扇、万象並みの強光線でないとすぐ徒長してしまう品種が多い。オブト類は例えばミルキークラウドなどはシンビ類並みの強光が必要だが、一般的には6,000~8,000ルクス程度が適当である。

また育種的観点からすると、玉扇、万象は改良の頂点と思われる品種が多数作出されており、今後これらを超える画期的な品種が生まれる可能性はかなり低い。いろいろな名前の新品種がヤフオクや交換会に出品されているが、ほとんどは大同小異である。ドングリの背比べのような2番煎じの品種に飛びつくことはない。

ピクサ(H. pictaの仲間。“picta”はラテン語なので園芸的呼称には使えない。)もほぼ改良のピークを過ぎ、白系(ピークは白拍子あたり)、斑紋系(ピークは踊り子あたり)とも実生はドングリの背比べ状態である。名前を付ければ売れる、素人が買ってくれる、ような時代は過ぎたと自覚した方がよい。ピクサは新しい名前のものだからと飛びつかずに、自分で実生して楽しむ時代になったと見ている。

スプレンデンスでも白系はタージマハルあたりがピークで、これを超えても結局大同小異にしかならない。ただ柴金城などとの交配により、白い窓に黒や赤の太い線が入る品種はまだ本当に良い品種は作られておらず、今後の改良目標であろう。そのような目標のためには柴金城の他、窓に太い線の入る金斗雲や火炎竜などとの交配が有望視される。

ピグマエアは白く目立つパピラ(乳頭突起)があるので最近でも人気は高いが、育種的にはまだまだ改良の余地が大きい。白さでは粉雪が一番だが、少々小型で葉型もやや葉先が尖る。雪の里はより大型(それでも小型の部類)で、葉先は粉雪より丸いが、白さでは粉雪に劣る。銀河鉄道は大型だが、パピラがやや薄く、粉雪などと交配しても白くて大型のものはほとんど出てこない。ただし白銀鉄道程度のものはかなり普通に出現する。大型で丸葉で、粉雪に匹敵するくらい白い、ものはまだ育成されていない。

これら玉扇・万象やレツサ系と比べ、レース系の育種はまだほとんど進んでおらず、選抜育種の段階である。選抜育種とは野生株から良い形質や特徴のある個体を選んで育種するもので、玉扇や万象もここから育種が始まっている。しかし玉扇・万象、レツサ系に比べ、レース系では選抜対象の野生株や実生苗が非常に少なく、輸入も最近はほとんどない。加えてレース系の育種に取り組む愛好家も非常に少ないので、育種はほとんど進んでいない。

さてここではレース系やそれに近い種の現在の育種状態とレベルをご紹介する。いずれもまだ育成途上で名前もないが、完成したら改めてご紹介する。

写真1 H. bella D=11
写真1 H. bella D=11

写真2 H. bella 雪の精 D=9
写真2 H. bella 雪の精 D=9

写真1はH. bell aの実生(白い妖精x青い妖精)で青い妖精並みに窓が大きいが、直径11cmもある大型単頭性である。白い妖精は大型単頭性なので、その実生にはかなりの割合でこのような大型単頭性個体ができる。雪の精(写真2)もその一つで、こちらは青い妖精に似た青肌の大窓個体である。

写真3 H. rooibergensis  D=8
写真3 H. rooibergensis D=8

写真4 H. rooibergensis 実生  D=6.5
写真4 H. rooibergensis 実生 D=6.5

写真3はH. rooibergensisで、繊細な鋸歯の美しい種である。写真4はその実生で、さらに繊細な鋸歯を持つ。H. capillarisに似るが、鋸歯はより白く輝いている。
なお、鋸歯の少ない“H. rooibergensis”はH. crystallinaである。H. rooibergensisは軟質葉だが、H. crystallinaは葉が硬いので手で触ってみればすぐわかる。

H. rooibergensisはH. gordonianaからH. villosa、H. eriiなどを経て進化してきた系統で、鋸歯は多いがレース系ではなく、オブト類である。

一方、H. crystallinaは祖先がH. heroldiaのボルス類であり、硬くて透明感の強い青窓が特徴である。この系統はH. calitzensisからSwartbergを超えて大カルーに入り、H. semivivaやH. bolusiiに進化している。硬くて透明感の強い青窓が共通した特徴で、H. bolusiiなどの葉も触ってみればかなり硬いことがわかる。

写真5 H. villosa 実生 D=9
写真5 H. villosa 実生 D=9

写真6 H. ciliata  '紫毛氈' D=6 
写真6 H. ciliata ‘紫毛氈’ D=6

写真5はH. villosaの実生で、葉全体が半透明で、そこにきれいな網目模様が全面に入る。マダガスカルの水草、レース草のような印象の特異個体である。H. ciliataの‘紫毛氈’(写真6)など、網目模様鮮明な品種と交配したらレース草並みに鮮明な網目模様の品種ができるかも知れない。H. villosa、特に葉裏に長い繊毛のある型はレース系型植物の中でもH. cummingiiと並ぶ美種だが、まだあまり出回っていない。

写真7 リビダ系実生  D=5.5
写真7 リビダ系実生 D=5.5

写真7はリビダ系の実生で、透明~半透明の大きな涙紋が葉全体に入り、非常に美しい。涙紋は一般に大きくならないと発達してこないので、この個体も大きくなるにつれ涙紋はさらに発達して多くなると期待される。

なお、リビダは最近比較的出回るようになったが、そのほとんどは小型のミラーボールといった感じの短葉密生型個体である。リビダのような斑紋を観賞する場合はカメオ(写真8)のように、葉が長く、かつあまり密集しない(バラけている)方がより美しく見える。ただしこのような型のリビダは非常に少ない。

写真8 H. livida ’カメオ’
写真8 H. livida 'カメオ'



ハオルシア研究発行遅延のお知らせ

ハオルシア研究34号の発行が遅れています。大変申し訳ありません。
一部のサボテン業者がハオルシア品種名の統一を妨げようとして、業界優先名などを使うよう呼び掛けている問題で裁判を準備中です。その裁判資料の整理に大幅に時間を取られており、ハオルシア研究の発行が遅れている次第です。
会員の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、ハオルシア園芸の今後の発展のためにはこの裁判は避けて通れないと考えています。どうかもうしばらくお待ちくださるよう、お願いいたします。

コメントへの回答(「タージマハル騒動」について)

前回のブログ(「タージマハル騒動」)に次のコメントが寄せられています。

『現在、ヤフオクでダージ・マハルという名前、おそらくタージ・マハルのスペルミスで出品されています。出品者に問い合わせたところ輸入したものとのことです。この記事を読ませていただいた後では入札するのは少し不安です。』

タージマハルの問題とともに、当会の登録商標の使用に関して簡単にご案内します。

タージマハルの親株は富士宮市の中島氏のところで葉挿しなどで若干の小苗が作られ、それが他の趣味家などに譲渡されています。その一部は中国に渡り、そこでも当然繁殖されていると思いますが、時期的には台湾に偽タージマハルが渡ったのよりだいぶ後なので、数的には偽物の方がはるかに多いと推定されます。したがって中国で繁殖されたタージマハルの大部分は偽物と考えた方が無難です。
 
日本でも本物のタージマハルが何人かの趣味家やセミプロによって組織培養で繁殖されています。組織培養なら最終的には100本、1000本単位で繁殖されますので、いずれ価格は下がります。その苗を待った方が確かです。

 偽タージマハル(ホワイトサミット)も相当白い株なので、小苗の内は識別が困難です。小苗でもある程の大きさになれば白点の密度や艶で識別できますが、鑑定には相当な経験が必要ですし、鑑定間違いも当然あるでしょう。リスクを冒してそのような苗を焦って買う必要はなく、いずれ安く出回るようになりますから、それまで待つことをお勧めします。

 なお、今回ヤフオクに出品された苗は当会が出品者に商標の無断使用の警告を出したので、出品者が自主的に出品取下げをしました。警告の内容はヤフオクの質問欄に出ています。

タージマハルという商標は現在特許庁で審判中ですので、無断使用すると登録後に損害賠償を請求されます。特許庁、高裁、最高裁などで最終的に登録が認められなければ損害賠償の請求はできませんが、もちろん当会としては当然登録されると考えています。

 またタージマハルという商標の使用は現在、中島氏と奈良多肉植物研究会にのみ許可しており、その他の誰にも許可していません。中島氏や奈良多肉植物研究会から買った苗でもそれ以外の人がヤフオクなどで販売する場合は別途許可が必要です。

 タージマハルに関してはこれまでに3名の方に無断使用の警告を出しており、当面他の方に使用許可を出すことは予定していません。ただし業界優先名など、消費者に大きな迷惑となる異名の使用を推奨する業者らに対する訴訟を現在準備中ですので、裁判開始後に下記条件で包括的使用契約の受付を始める予定です。

包括的使用契約は登録(契約)すればタージマハルも含め、当会のすべての登録商標や審査中の商標の使用ができるものです。前記裁判開始後に正式な使用条件をご案内しますが、大部分の会員は登録すれば当会のすべての登録商標が無料で使用できます。

包括使用料

使用許可条件は国際栽培植物命名規約の遵守(異名や重複名を使わないことを含む)。
新規でも入会すれば既存会員と同じ条件で当会の登録商標が使用できる。
無料使用でも使用許可にはヤフオクなどの出品者IDの登録が必要。
業界優先名などの異名を使う人には損害賠償を請求します。

☆コメントは承認後に公開されます。
☆品種等の質問はハオルシア協会会員に限定します。

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