日本ハオルシア協会 Official Blog

ブログデザイン改修しました。

Note

ハオルシア品種名総覧(ハオルシア研究28)の発行が遅れてご迷惑をおかけしています。

 

 特に品種名の命名基準については国際栽培植物命名規約の日本担当の方と様々な点について打ち合わせを行っており、この過程で変更があると全体の表を点検し直す必要があるために最終段階で思いがけず時間がかかってしまいました。

しかし間もなく脱稿の予定で、アマゾンや一般書店でも販売できるように図書コードやJANコードなどの申請も行っているところです。8月早々には印刷会社へ持ち込む予定ですが、収録項目数が5千項目を超えるために、校正にも相当の時間がかかると予想しています。このため、確定的な発行日がまだ発表できません。

 

 お申込みいただいた方からは催促やお叱りのメールをいただいておりますが、発行日が確定しましたら改めてご案内しますので、もうしばらくお待ちください。

Sheilamで売られていた植物で、データの間違っていたもの2例を紹介します。同じころに同じものを買われた方は、植物をよくみて確認してください。

 

H. arachnoidea var. arachnoidea  Advice  JDV 93-23 

   2007123本輸入----H. cooperi 様植物

   2008 2 3本輸入----同上

   2008126本輸入----同上

   2010 1 5本輸入----H. tretyrensis 様植物  

 

2007年~2008年にかけて輸入したものは名前(H. arachnoidea)と現物(ほとんどH. cooperi)とがあまりに違うため、疑問に思って輸入するたびに追加で買っていたものですが、いずれも同じ植物でした。

2010年に再びリストに出てきたので、改めて買ってみたところ、今度はH. tretyrensis のような植物が送られてきました。産地(Stytlervilleの東)や表示名 (H. arachnoidea var. arachnoidea) から考えると、これが正しいJDV 93-23だと考えられます。

しかしそうだとすると、2007~2008年に輸入した植物はデータ間違いということで、原種のコレクションとしては全く無価値になってしまいます。廃棄するしかありません。

 

H. decipiens var. minor Palmietrivier  JDV 97-20

 この名で2003年に売られていたものは実際にはH. ianthina  Vetvlei (N. Uniondale) MBB 6937 との混合です。大型で窓が大きく、透明なものはMBB 6937で、やや小型で窓は小さく、鋸歯の多い型はJDV 97-20です。 中間型はほとんどなく、明瞭にどちらかに区別できますから、雑種ではなく、苗(または種子)が混ざったと考えられます。

 

Sheilamに限らず、原種の輸入時には必ず複数本(最低3本、できれば5~10)注文して、名前や産地から考えて不審な形態でないか、あるいは形態に極端なばらつきがないか、等を確認する必要があります。形態のばらつきが大きくてはっきりと2型に分けられるときは2種の混ざっている可能性があります。交配時に雑交したのなら中間型があって形態は連続的になる場合が多いです。

 

Sheilamではないですが、de Vriesから2006年に売られたH. kingiana VdV 138, Great Brak)の実生も10本ほど買って大きくしてみたらどうも様子がおかしいので問い合わせたら、やはりH. minimaとの雑種だった、ということがありました。この場合はそれまで知っているH. kingianaの形態からは連続的にかつ大きく変化しているので、不審に思ったわけです。H. kingianaに近いものもありますが、全く違う形態のものも出てきます。


なおオランダの
STCで売られているH. kingianade Vriesから入手したものなので、あるいはこの雑種である可能性があります。

 

原種の系統や分類を議論する場合は、議論する対象材料が正しいものかどうかを十分吟味する必要があります。例えばHarry Mak(英国在住の香港系中国人)がH. zenigataH. minimaと同じだと言う論文を発表したことがありますが(Alsterworthia Int. Vol. 3: 32003)、掲載されている写真がどう見てもH. zanigataに見えないし、さらにこの植物は仔吹性だと書いています。論文にはこの植物は日本の大森緋可子氏から入手したとあるので大森氏に問い合わせしたところ、どこかのセリ会で入手し、ラベルにH. zenigataとあったのでそのまま送った、ということでした。


当時大森氏は日本多肉植物の会の編集長でしたが、失礼ながらHaworthiaの種名の正しい同定が出来るとはご本人も思っていらっしゃらないでしょう。電話での問い合わせに対し、「自分はわからないが、そうラベルにあったので、そのままそのラベルを付けて送った。」とのことでした。しかしHarry Makいわく、日本の専門的クラブの編集長が送ってきたのだから正しいもののはずである。(H. Makはどこかでそう書いているのですが、どこでそう書いているか、ちょっと思い出せません。)


この問題は大森氏に責任があるわけではないでしょう。彼女はおそらく善意で材料を送ったのでしょうが、問題はHarry Makが送られてきた材料が正しい名前のものかどうか確認せずに、頭から正しいとして議論し、それも批判論文を書いたことにあります。

しかし仔吹性のH. zenigataなど見たことも聞いたこともありません。おそらく大森氏が送ったのはH. minima1タイプかH. minimaの雑種なのでしょう。私はその後Harry Makに正しいH. zenigataを送ってやり、H. minimaと比較するように伝えました。今日ではH. zenigataH. minimaH. kingianaとは異なる、全くの別種であることは広く認められています。H. zenigataに関するHarry Makのこの論文は不正確な材料を基にした誤った議論の典型として長く戒めの見本になることでしょう。

 

分類的議論をする際には正しい材料を入手することは大前提です。正確を期すには1個体だけではなく、産地別にそれぞれ複数個体入手し、群落ごとの変異の幅も把握する必要があります。国内業者からたまたま入手した1 2個体を基に分類論議する人もいますが、『変異の幅』という概念を頭に入れておかないと見当違いの議論になってしまいます。外国から原種を輸入する時も同じで、複数個体輸入して変異の幅を把握するようにしてください。


* * * * * * *


なお記事とはあまり関係ないですが、写真がないとさみしいのでいくつか。


H. cineraria n.n. Apieskloof 青緑色の美しい植物。H. inconfluens等の祖先らしい。


写真1 H. cineraria 04-26-1  D=6 Apieskloof JDV 91-81

写真1 H. cineraria 04-26-1  D=6 Apieskloof JDV 91-81


写真2 H. cineraria 04-122-2  D=6 Apieskloof JDV 91-81

写真2 H. cineraria 04-122-2  D=6 Apieskloof JDV 91-81

写真3 H. cineraria 07-25-2  D=6 Apieskloof  JDV 91-81

写真3 H. cineraria 07-25-2  D=6 Apieskloof  JDV 91-81


数年にわたり複数個体を3回輸入し(MH番号参照)、おおむねこのような形態で安定しているので、これがこの植物の標準的形態だろうと考えられます。

ただしより鋸歯の多い個体もあるようです。(空中庭園ブログ参照)

 


H. caerulea Helspoort


写真4 H. caerulea 04-27-1  D=5 Helspoort MBB 6614
写真4 H. caerulea 04-27-1  D=5 Helspoort MBB 6614


植物自体は珍しくもないが、中には写真のように非常に窓の透明な、美しい個体があります。


Dr. M. Hayashi



シェーラムナーセリーは南アフリカの老舗サボテン園で、ロバートソンという小さな町の郊外にあります。ケープタウンから車で2時間ほどの距離です。


Sheilam Nursery

写真のように広いサボテン畑に金シャチなどが地植えされており、ハオルシアは大部分が温室内に鉢植えですが、硬葉系など一部は地植えになっています。


シェーラムナーセリーというとサボテン園のイメージが強いですが、ここは元来は良質なワイン用ブドウ園で、サボテン園は面積的にも売り上げでもそのほんの一部にすぎません。つまりシュベーグマン一家(Schwegman シェーラムナーセリー経営者の名字)の本業はブドウ園経営で、サボテン園は副業というわけです。


先代の名物女主人(Mrs. Winny Schwegman)はしばらく前に亡くなり、後を息子夫妻が継いでいます。息子さんはブドウ園経営に専念されているようで、サボテン園はもっぱら奥さんのMrs. Minetteさんが切り盛りしています。ブドウ農場にはたくさんの労働者が住み込みで働いていますが、その奥さん連中の一部はサボテン園でも働いています。

 

ハオルシア専用温室は30坪程度のものが4~5棟あり、実生苗などがロットごとに浅い角鉢に植えられています。各鉢には採集番号などのラベルが立てられており、注文があるとMinetteさんが注文票を見ながら苗を抜いて小さな紙箱に1種1箱づつに入れていきます。苗を抜き終わるとそれを入れた箱を作業室にもっていき、そこで前記の女性労働者が包装し、箱詰めするわけです。


問題は包装作業で、紙につつむ際に落としたりすると、下にある箱のどれかに入ってしまい、少し似た種だと分からなくなってしまいます。そこでそれらしい苗を適当に選んで他の苗と一緒に包むわけですが、もしそれが違っていたら、ちょうど1本づつ入れ替わることになります。

複数本づつ注文するとどうもこのようにして入れ替わったのではないかというケースがしばしばありますから、要注意です。


また先代のWinnyさんも今のMinetteさんもハオルシアの分類に詳しいというわけではなく、名前(ラベル)の管理はBayerが時々来て行っています。したがって植え替えなどでラベルを間違ってもBayerがそれに気がつかなければそのまま売られてしまいます。

名前はセタタ系なのに、注文したらまったくクーペリーみたいな苗が来たという場合もしばしばあり、そのようなときは何年かおいて複数回同じ採集番号のものを注文してみないと本当にその番号の植物かどうか確認できないということもあります。


さらにBayer自身が実生のときに種子を混ぜてしまったか、小苗の植え替え時に誤って一緒にしてしまったか、同じ採集番号なのに明らかに別種がミックスされて売られていたケースもありました。


このような問題はシェーラムに限りませんが、原種の輸入にあたってはその苗の採集番号が本当に正しいか、十分注意してください。


Dr. M. Hayashi


HP管理者(補助員)募集のお知らせ


日本ハオルシア協会では現在の担当者が多忙のため、HPの管理者または補助員を募集しています。ハオルシアに関心があり、HP作成、管理の知識、経験のある方で当協会のHP管理を手伝っていただける方がいらっしゃいましたら、自薦、他薦を問わず事務局(info@haworthia.net)までご連絡ください。

日本ハオルシア協会の会員でなくても可能ですが、担当をお願いする場合はなるべく会員になっていただくようお願いします。謝礼は原則出ませんが、ハオルシアの苗で良ければなるべくご希望に沿うようにします。


《4月19日追記》

新管理者が決定しました。上記募集は終了させていただきます。

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H.cummingii 単頭性個体 このような株は全体の30%程度。

例えばH.cummingiiなら①のような写真が掲載されることが多い。産地を訪れた人は被写体としてこのような立派な株を探して写真を取るから、それらの産地写真を見て多くの人がH.cummingiiは単頭性で結構大きくなる植物だと思うであろう。

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  H.cummingii 分頭性個体 この程度の群性株が最も多い。


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H.cummingii 分頭性個体 大群生。たぶん複数クローンが生えている。

ところが産地では実際には②や③のように分頭して大群生になっている株が半分以上を占める。

現地株を採集して繁殖する場合、単頭性の株はなかなか仔吹きをしないが、分頭性の株はそれゆえに良く繁殖し、その結果、SheilamでもEdenでも販売されるのはほとんどが小型ですぐ分頭する植物ばかりとなる。H.cummingiiの場合、そのような株は1頭がせいぜい直径5~6cm程度にしかならない。しかし単頭性のH.cummingiiは直径12~13cm以上になり、見事である。

同じく単頭性の立派な株の写真が良く掲載されるH.davidiiでも半分くらいは仔吹性で、したがって繁殖されて販売されるものの多くは仔吹性である。


反対に仔吹性だと思われている例えばH.bellaでも`青い妖精’は仔吹性だが、`白い妖精’はなかなか仔吹しない。そして最初にSheilamから買った10株近い個体の中にはやはりほとんど仔吹せず、単頭のまま大きくなる個体がある。(Sheilam等では初めは山取り個体をそのまま売っていることが多く、単頭性の株も混じっているが、後になると仔吹性の株から繁殖したものばかりになる。)

同様に群生性だと思われているH.ikraH.kubusieでも中にはほとんど仔吹せず、単頭のまま直径6~7cmくらいまで大きくなる個体があり、H.obtuseと見間違えるほどである。


収集家としては当然単頭性の株が欲しいわけだが、一般に市販されているカキ仔繁殖品はそれから実生してもやはり分頭性や群生性の個体が多い。一方、単頭性の大型株同士から実生したものはH. cummingiiの場合など、半分以上が単頭性らしい(単頭性株は花茎が1本しか上がらないが、分頭性株は2本以上上がる)。

したがって単頭性の株を繁殖するには単頭性株から葉挿しなどで無性繁殖するか、単頭性株同士から実生するしかない。



幸いH.cummingiiH.bellaなどでは単頭性株から実生が多少できているので、今度のハオルシアフェステバルで販売する予定。

Dr.H

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