園芸植物の品種名は国際園芸学界が制定した国際栽培植物命名規約が世界標準となっています。これにより、園芸植物の品種名がどの国でも同じ名前で流通するようになり、園芸業者や消費者(愛好家)の利便性が大きく向上しました。日本ハオルシア協会も消費者の利便向上と、国際化を目指して同規約に基づくハオルシア品種名の整理統一に長年取り組んできました。当会発行の『ハオルシア品種名総覧』は明治以降に日本で出版されたハオルシア品種名のすべてを同規約に基づいて整理、網羅したリストで、品種名リストとしては世界的にもトップクラスのものです。

 これが評価されて当会は国際園芸学界からハオルシアの国際栽培品種登録機関に指定されています。国際栽培品種登録機関はその植物群の全世界の品種名を整理統括する国際機関で、現在バラやランなど主要園芸植物群のほとんど(約80グループ)にこれが指定されています。その植物群では全世界で1機関だけが指定されますが、日本にある国際栽培品種登録機関は当会だけです。
 しかし日本のハオルシア園芸界を見ますと、品種名の整理統一に反対する一大勢力が存在し、また背景を良く知らずにその勢力に協力する動きもあるなど、いくつかの大きな問題点が見受けられます。品種名を詐称して初心者をだます悪質な業者やネット販売者も後を絶ちません。ここではそれらの問題状況について解説します。

【サボテン業界の悪慣行】
 まず、日本のサボテン・多肉植物の業界では以前から、例えば海外から苗を輸入して販売する際、競合他社が同じ苗を輸入できないよう、種名を隠して別の日本語名(和名)だけを付けて販売することが普通に行われていました。産地データなどはあっても公表しません。業者ごとに勝手に名前をつけるため、同じ種でも業者によって異なった和名がつけられている場合が多く、整理しようにも産地データがないため、極めて不十分な整理しかできませんでした。
 サボテン業界ではこのような入手元のデータを隠し、別名を付けて販売するという類の悪慣行が現在も続いています。したがって、すでに流通していたハオルシア品種を業者が新たに売り出す時にはそれぞれの発売業者が別名を付け、あたかもその業者が開発した新品種であるかの如く偽装して売り出すといった事例に事欠きません。以前掲示板に質問があったように、関東の‘紫ダルマバディ’が関西のY園では”チョコバディア”、N園では”チョコバー”と名前を変えて発売されたのはその典型例です。消費者にとっては非常に迷惑な悪慣行で、いわば食品の産地偽装と同じ類の犯罪行為(不正競争防止法違反、混同惹起)です。
 消費者保護の時代に逆行するこのような悪慣行を是正するには、他のほとんどの園芸植物で国際標準となっている国際栽培植物命名規約に基づき、業者間でバラバラになっている品種名を統一する必要があります。国際栽培植物命名規約にはどれを正名とすべきか、品種名の発表もどのような出版が有効な出版と認められるか、などの詳細な規定があり、業者間の力関係ではなく、公平な基準によってそれらを整理できるからです。

【品種名統一に反対する業者】
 ところがハオルシアを中心的に扱う大手サボテン業者の中には国際栽培植物命名規約に公然と反対し、または無視を宣言する反社会的業者がいます。例えばカクタスニシではホームページの冒頭に 『品種別カタログ掲載の植物名は、当園のオリジナル商品名につき、他店の同名植物と同じ物とはかぎりません。』 と表示し、国際栽培植物命名規約に従って品種名を是正したりはせず、自園の独自名で押し通すと宣言しています。

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カクタスニシ ホームページのトップページより (2016年9月14日)

 またグランカクタスの佐藤氏はその出版物「ハオルシアアカデミー写真集1(2013)、同 2 (2015)」の冒頭で (ともに②ページ) 『国際命名規約も分かっていますが、本書の場合それらに従って種名(品種名)を編集上変更することはありません。(中略) これらは国際的な命名規約ですので、国内での流通をなんら制約するものではありませんことを付記しておきます。』 と書き、やはり公然と無視することを宣言しています。
 したがってカクタスニシの品種別カタログや上記ハオルシアアカデミー写真集には非常に多くの重複名(異物同名)や異名(同物異名)、さらにはおよそ品種とは言えないような特徴の乏しい個体にまで名前が付けられ、掲載されています。しかもこれら国際栽培植物命名規約に反対する業者間では統一名が使われているというわけでもなく、各業者が勝手に名前を付けあい、混乱に拍車をかけています。カクタスニシでは『統一規格優良苗販売園の加盟店は同じ』と表示していますが、統一規格優良苗販売園の商品を西氏が名前を変えて販売している例もかなりあります(例えば堀川カクタスのピグマエアPG20はカクタスニシのHPG1(ともに正名は’露霜’))。
 その結果、同じxxxという名でも○○園のxxxとか△△カクタスのxxxとか言って区別する必要が出て来ます。ところが次に述べるように、カクタシニシでは同じxxxという名を異なったハオルシアグループの植物に2度も3度も使いまわしていますので、カクタシニシのxxxと言っただけではどの植物を指すのかわからないという事態も起きています。

【品種名混乱の実態】
 当会は明治以降に日本で出版されたハオルシアの全品種名を整理・網羅した『ハオルシア品種名総覧』を2013年に発行しましたが、その表1-D-1には直近5年間に発表された無効名(重複名と類似名)および品種とは言えないものに命名した疑問名が集計されています。これを見ると上記2業者、カクタスニシと日本カクタス企画社(現グランカクタス)が圧倒的に多くの無効名や疑問名を発表しています。また表1-D-2には同一業者が自社の別商品に同じ名前や類似名を付けた具体的商品名を掲げてありますが、カクタスニシが非常に多くの重複名を命名していることが明らかです。

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 これらの表は2013年までのデータですが、彼らはこの指摘にもかかわらず、それを是正しないどころか、その後も多くの異名、重複名を発表し、品種名の混乱に拍車をかけています。さらにカクタスニシの取引相手にはカクタスニシからハオルシア苗を仕入れて転売している多くの業者がいますが、彼らは当然カクタスニシの品種名をそのまま使いますから、混乱はますます拡大するといった状況です。

 品種名の整理統一に反対する業者は「たくさん売ればその名が正名になる」とか、「いずれ自然淘汰されるから、無理に整理する必要はない」とか主張しているようですが、一つの名前に収束するまでには長い時間がかかり、その間に消費者は大きな混乱と迷惑をこうむります。例えば別名なので同じ品種と気づかずに重複して買ってしまったとか、入手したいと思っていた品種とは全く別の(ただし同名の)商品が送られてきた、といった被害が懸念されます。少なくともそれらが同一品種なのか、あるいは別品種なのか確認する必要性が出てくるということだけでも消費者には大きな負担と迷惑です。
 自社の利益を優先し、消費者の迷惑を顧みずに違法な品種名を押し通そうとするこれら業者は、いわば「反社会的業者」と言えます。このような「反社会的業者」を業界から排除することはハオルシアのさらなる普及と国際化には欠かせないことです。
 
【素人だまし商法の蔓延】
 これらのサボテン業者が、正名のあることがわかっているのになぜ別名(重複名や異名等)で発売するのかというと、既に流通している品種でも別名で発売すると特に初心者に何か新しい品種であるかのように誤認させ、売り上げが増える可能性があるからです。また既存品種を別名の新しい名前で発売すると、初心者にはその品種はその業者が育成した新品種であると錯覚する人が多く、商品開発力があるとの評価を受けることが期待できます。さらにおよそ品種とは言えないものに名前を付けて売る行為も、初心者に「名前が付けられているから良いものに違いない」と誤認させ(優良誤認)、注文を受けられる可能性があるからです。いずれも消費者、特に初心者に名前をごまかして商品を売りつける行為で、不正な素人だまし商法と言えます。再三指摘しますように、これらは不正競争防止法(誤認惹起)や景品表示法、あるいはネット販売なら特定商取引法に違反する可能性が大変高いです。

 大手サボテン業者がこのような不正な名前の商品を販売し、初心者を半ばだますような商売を大手を振ってしているので、中小の、または新規開店のサボテン業者、あるいは素人のネット販売者の中にはこれに追随し、あるいはさらに悪質な販売を試みる者が後を絶ちません。
例えば、以前当会のブログで警告したように、ヤフオクではおよそオブツーサとは言えないようなものを”オブツーサ錦”と詐称して売ったり、栽培経験のある人なら絶対に買わない全斑のカキ仔を売ったり(確実にすぐ枯れるので本来は捨てるべきもの)、あるいは落札後に掲載写真をすぐ削除してどんな商品だったか確認できないようにして別物を送りつけたりする長野県のAさん(女性)、人気玉扇‘葵四条’の名前を出しながら別物を出品した北海道のBさん(きわめて誤解されやすい表示)、同じく玉扇の”葵北斎”の名で小苗を売った大阪のCさん(親写真は出していませんが、育成者が見て、この小苗は別物と判断しています)、さらには最近では駄ものの万象の種子を1粒5000円~1万円で売っている大阪のDさん、あるいは長野のK園で買った普通品のハオルシアを『NHK趣味の園芸』などと銘うって1万円もの高額で出品している横浜のEさんなどがいます(普通品のハオルシアがK園で1000円以上することはまずありません)。
 種子は信用のある相手から購入することが極めて重要です。例えば1年以上経った古い種子を『今年採取した種子』などと表示されて売りつけられ、全く発芽しなかったとしても古い種子だったという証拠がありません。外見から古い種子だと見極めるのは不可能です。あるいは万象の種子として購入し、発芽して大きくなったら全く別物、例えばセタタだったとしても、それがその人から買った種子から生育したものだという証拠がありません。種子の場合は不良品や偽物を売りつけられても、それが不良品や偽物だったという証拠が全く出せず、だまされたとしても文句がつけられません。 
 確かに種子はネット上ではあまり販売されませんが、それは希少だからではなく、上記のような理由で見知らぬ人から種子を買うことが大変リスキーなので、流通がほとんどないというのが基本的理由です。『希少』などという宣伝文句に乗せられて見知らぬ人から高額種子を買うのは大変危険です。注意してください。万象の種子は超優良品種の種子でも1粒500円が最高クラスで、平均的な品種では1粒200円、駄ものなら1粒10円程度が相場です。

 これらの例はいずれもごく最近のもので、初心者をだまして商品を売りつける素人だまし商法です。ハオルシア人気は拡大の一方なので、初心者は常に大量に存在し、そのために素人だまし商法も絶えることがありません。しかしこのような商法が後を絶たないのには、初心者が大量に存在するという理由だけではなく、前記大手サボテン業者が消費者を半ばだますような違法性の高い販売を行っているので、業界全体のコンプライアンス(法令順守)意識が非常に低くなっているという背景があります。新規参入業者などはそのような先輩業者の行動やそれを許容する業界の体質を見て、それなら多少ずるいことをしても大丈夫と考えて行動するのでしょう。素人だまし商法の蔓延はサボテン・多肉植物業界のコンプライアンス意識の低さにも大きな原因があります。

【日本カクタス専門家連盟】
 サボテン・多肉植物業界には日本カクタス専門家連盟という業界団体があり、ホームページによると会員の親睦とサボテン(多肉を含む)の普及、啓もうを目的としています。サボテンや多肉植物の生産、販売を主な業とする国内73業者の集まりで、主なサボテン業者はほぼすべて加盟しており、小売業者と卸業者がおよそ半数ずつです。関東、関西、信州、東海の4支部があり、加盟業者が生産した苗の月1回の交換会と親睦会が主な業務です。
 以前はあまり活動が活発ではなかったのですが、多肉植物人気の高まりとともに参加業者数や活動も活発になり、関東支部では今年東京で大きな即売会を開催しています。2000年ころカクタスニシや金子カクタス、鶴仙園、それに堀川カクタスらハオルシア販売に力を入れる当時の若手サボテン業者が優仙会という会を立ち上げ、東京で数回即売会を開いていました。今回の関東カクタス専門家連盟による即売会は優仙会を衣替えし、拡大再開したものと見受けられます。これはまた日本ハオルシア協会の主導権争いに敗れた業者達が活動の場を日本カクタス専門家連盟に移し、さらには小林氏主導のビッグバザールに頼らない販売の場を確保しようという狙いがあるものと考えられます。
 
 日本カクタス専門家連盟はサボテン(多肉を含む)の普及と啓蒙を目的に掲げているにもかかわらず、そのために絶対必要なはずの品種名の整理統一などの活動は全く行っておらず、また別名等を勝手につけて初心者をだますような業界の悪慣行の是正指導なども一切行っていません。なぜならこの会ではハオルシア品種名の統一に反対し、勝手に別名を付けて販売するなど業界の悪慣行を先導している張本人たちが中心メンバーの主体となっているからです。
 日本カクタス専門家連盟内ではカクタスニシの西雅基氏(2年前にこの会の会長だった)とグランカクタスの佐藤勉氏(息子の佐藤大地氏はこの会の事務局担当)、およびカクタス長田(おさだ)の長田清一氏(毎年沼津で開かれる総会(新年会)の幹事役。息子の長田研氏はNHK趣味の園芸の多肉植物担当)、それに西氏と親しい鶴仙園や金子カクタスなどが大きな力を持ち、中心的メンバーとなっているようです。旧優仙会のメンバーが中心ですが、当時優仙会とは対立していたグランカクタス(当時は日本カクタス企画社)が中心メンバーに加わったのが注目点です。反ハオルシア協会、反品種名統一という立場で利害が一致したのでしょう。

【ハオルシア園芸主導の願望】
  これら中心的メンバーはハオルシア園芸全体を業者や業界団体が主導したいという願望を共有しているようです。
ある園芸分野全体を業界団体が主導して開拓したり、拡大していくことは新興園芸植物ではよくあることです。しかしそのためには商品開発や販売促進だけでなく、品種名を整理統一したり、業界の悪慣行、特に初心者をだますような商習慣を是正し、消費者が安心して商品を購入できるような環境整備にも力を入れる必要があります。そのような努力を全くしないどころか、反対にそれら悪しき商習慣を批判する消費者団体を敵視し、これを潰してしまおうと画策するなど、消費者保護意識が高まっている今日では考えられない異常な事態です。悪しき商習慣を先導する業者が中心となっている業界団体がその園芸分野全体を主導するようになったらどうなるか、考えてみてください。

  これら業者が品種名の整理統一に反対するのは、自分が販売している商品名の変更を余儀なくされたり、品種名を勝手に変えて消費者をごまかすといった商法が継続できなくなるからだけではありません。より大きな理由は、品種名の整理統一はハオルシアの国際栽培品種登録機関である当会が最終的な判断権限を持っていますから、品種名という園芸植物の根幹部分で業者や業界が主導権を握れないからです。これら業者は人気拡大が続くハオルシア園芸全体の主導権を何とかして握りたい意向ですから、彼らにとって当会は極めて邪魔な存在となっており、品種名の整理統一に賛成することは絶対にできないと考えているようです。
 しかし品種名の整理統一は消費者にとって大変大きな利益と利便をもたらす歓迎すべき事柄です。主導権争いのために、あるいは勝手に品種名を変えて消費者をごまかすといった悪慣行を維持するために、これに反対するのは全く自分勝手であり、今日の消費者保護の流れに掉さす時代錯誤もいいところです。
 品種名の整理統一に反対する勢力が力を持っている現状では、日本カクタス専門家連盟が良識ある業界団体として消費者保護のために品種名の整理統一を推進したり、品種名を勝手に変えて素人をだますような悪慣行を是正したりと言った活動は全く期待できません。業界内の良識派が声を上げてくれることに期待したいものです。

タージマハル
 H. splendens 'Taj Mahal' (タージマハル)

(品種名統一の問題状況2 へ続く)