前回記事(H. jansenvillensisとその近縁種の分類について(1/2)の続きとなります。

上記の記事から先にお読みください。



「H. jansenvillensisとその近縁種の分類について (2/2)   林 雅彦




進化上の推定


ところで質問のH. jansenvillensisの 仲間が生育する大カルーが乾燥化したのは最終氷期以降です。大カルーは氷河期にはイネ科草本が卓越した湿潤冷涼草原であったことがこの地域の乾湖湖底の花 粉分析からわかっています。花粉分析からは氷河期が終わるとイネ科草原はメセン類やプロテアなどの耐乾性植物に置き換わっていき、乾燥化と温暖化が始まっ たことも判明しています。現在ではさらに乾燥化が進んで植生のまばらな半砂漠になっています。


ハオルシアが放散を始めたのは東ケープ地方ですし、湿潤冷涼なイネ科草原にハオルシアが生育していたと考えるのも困難ですから、ハオルシアが大カルーに進出したのはごく最近、つまり最終氷期以降(今から1万年前以降)、大カルーが乾燥化した後、おそらくヒプシサーマル(hypsithermal)期以降だろうということになります。なおH. jansenvillensisの仲間はH. xiphiohyllaからH. flavidaを経て進化したもので、同じくH. xiphiohyllaからH. stiemei (Kirkwood)を経て進化したH. decipiensの仲間とは兄弟系統です。


分布域の広がりから見ると、大カルーの乾燥化後に最も早く進出したのはH. teneraから進化したH. vittata (blackbeardiana)の仲間で、大カルー中部にまで達しています。次がお尋ねのH. jansenvillensisの仲間、最後がおおむね大カルー南部に限定されるH. dicipiensの仲間です。


したがってH. decipiensは非常に若い種であって、現在も進化中だと推定できます。そのため現在進行中の種分化過程を反映して大きさや形が群落ごとに微妙に違います。H. jansenvillensis H. vittataの仲間はもう少し種分化が進んでいますが、それでも多くの群落は種分化途上で、分類は相当難しいです。

 

種分化途上の種の整理


問題は大きさや形が微妙に異なるこれら種分化途上の群落をどう整理するかですが、これまで議論してきた点をまとめると、同一亜属のある群落ABを比べた場合、私は

(1)形質的に80%以上の個体が識別可能なら別種。

(2)標準的開花期が重ならなければ別種。

(3)群落間の距離が10km以上離れていて、その中間に類似群落がなければ別種。

(4)群落間の距離が1km以上離れていて、群落間に形質上の差が認められる場合は別種(ただし多くの個体は形質上必ずしも識別できない)。

(5)生態上の立地条件が異なる場合は別種。


などの基準で判断しています。

 

(1)、(2)、(3)の基準は比較的明瞭ですが、(4)と(5)については若干補足が必要でしょう。

群落間の距離がある程度離れていて、形質にも若干の違いがあるが、その違いは必ずしも明瞭ではない、という例は非常にたくさんあります。お尋ねのH. jansenvillensisの仲間を始め、H. decipiensH. semivivaH. vittata (blackbeardiana)H. cooperi (H. specksii)など、大カルーや東ケープ州の内陸部に展開している多くの種群がそうです。


こ れらはいずれも非常に若い種であって、群落間の形質的分化が十分進んでいません。またいずれも非常に広い分布域を持っていますが、すでに議論したように、 平坦な地形が多い大カルーにおいても花粉や種子散布による頻繁な遺伝子相互流動が各群落間にあるとは思えません。各群落の形質が良く似ているのは、遺伝子 プールを共有しているからではなく、近い過去において共通の祖先群落から風によって運ばれた種子により形成された子群落や孫群落であるため、と思われま す。


つまり地理的には生殖隔離が成立しているのに、形質上はまだ類似している、というわけです。しかしこれら群落はおそらく将来的には親群落とは異なった形質を発展させ、あるいは近隣の別種からの浸透交雑が進み、いずれ別種へと進化していくと予想しています。


したがってこのような群落はとりあえず別種として命名しておき、将来中間群落が見つかったり、群落が連続的であることが発見されたりして、同一種であると判明したらその時点で当初の別種名を異名とすればよい、というのが私の方針です。


同様に生態的立地条件(岩場立地、平坦地立地、沼沢地立地、アルカリ土壌立地、砂質土立地など)が異なる群落も、その群落の生理的特性の違いを表わしている場合が多いので、別種とすべきと考えています。シダのオオタニワタリでは形態的にほとんど同じなのに、生態的に立地が異なるいくつかの型(着生樹の上方、下方、中間など)が認識されていましたが、DNA分析などの結果、それぞれが生殖隔離のある別種だということがわかったという例もあります。

 

Jansenvillensis類の分類


ようやく本題に戻って、H. jansenvillensisの仲間の分類ですが、H. jansenvillensis H. regalisのタイプ産地は同じで、Jansenville近郊の小さな丘の上です。非常に大型で豪壮な鋸歯を持ちますが、若い個体はより軟質で鋸歯も小さいです。またすべての個体が豪壮になるかは疑問です。H. eminensはやはり非常に大型で豪壮ですが、こちらは平坦地性です。H. regalisH. eminensの産地は今のところ各1箇所だけです。


H. reginaは平坦地性で、H. regalisより小型で軟質です。群落数は非常に多く、KlipplaatからJansenville、さらにその東50km以上離れた平坦地にも複数の群落があり(おそらく別種)、北はAberdeenまで生育しています。西はWillowmoreの北でH. fukuyai (山地性) となり、南方ではObtusaまたはLapis系統の浸透を受けて窓が大きくなり、H. stewartaMt. Stewart, H. waaiensis n.n.((Waaipoort、渓谷性)などとなります。いずれも微妙な差ですが、産地や生態的特性が判れば今後さらに別種に分離される可能性のある群落も多いです。


H. kemariJansenvilleの北10kmほどのところにまばらな群落を作っています(川沿い立地)。形質の由来は不明ですが、この仲間にしては窓が大きく、非常にきれいな個体があります。また中にはH. regalisに似て、豪壮に育つ個体もあります。H. molisH. reginaに似ていますが、より軟質です。おそらくH. flavidaから進化してきたこの仲間のもっとも原始的な形態の種です。H. virellaは小型のH. eminensといった感じの硬質細葉の群生性種で、窓が全くありません。Jansenvillensisの仲間で群生性の種はH. virellaだけです。


またJansenvillensisの仲間はおそらくH. fukuyaiから小カルーにも進出し、H. angirasS. Calitzdorp)やH. regens n.n.Springfontein, IB 14643)など、非常に強い鋸歯の種になっています。その一部は強鋸歯型のH. venteriなどにも遺伝子浸透しています。