新年あけましておめでとうございます。

旧年中は会員の皆様、イベントにご参加いただいた皆様、またこちらをご覧の皆様方、大変ありがとうございました。


本年はハオルシア協会は形式を社団法人とする予定となっており、現在準備を進めている最中です。諸手続きが完了しましたらまたお知らせします。


一昨年は国際栽培品種登録機関(ICRA)の指定を受け、恒例となりましたハオルシアフェスタも例年多数のご参加をいただき盛況となっております。本年は組織替えを行い更なる発展の年となると思います。


本年も何卒よろしくお願い致します。



 さて、BBSにてH. jansenvillensisについてのご質問を頂いていましたので、こちらにて回答します。こちらの内容は後日ハオルシア研究に掲載しますが、その際整理して写真や図を追加する予定です。

 記事の内容が長くなりますので、2回に分けてUPします。


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「H. jansenvillensisとその近縁種の分類について (1/2)   林 雅彦



 分類に関する質問は難しいものが多いです。すぐ答えが出せるようなものなら質問するまでもないので、改めて質問するような問題は難解なものばかりということなのでしょう。この問題もその一つです。


 

種概念


 この問題のむつかしさは『種』というものをどう考えるか、ということにより答えが大きく違ってくることにあります。「『種』とは何か?」という問題は分類学者の間で長く議論されてきました。『種』の定義としてはマイヤーの「生物学的種概念」がもっともよく用いられていますが、その他にも数十もの『種概念』が提唱されています。


 しかし実は「『種』とは何か?」という問題は科学の問題ではなく、哲学ないし形而上学(神学)です。「『種』の定義」も同じです。これは『種』という言葉を『人間』や『生命』に置き換えてみればわかります。このような問題には正解はありません。どう答えても誤りとは言えません。『種』の定義が数十も提唱される理由がここにあります。


 つまりこのような問題の立て方ではどう答えても「反証可能性」(ポパーによる科学の基準)がないので、種の定義の議論は科学ではない、ということになります。では『種』に関してどう設問したら科学の問題になるのか、ということですが、これは数ある『種』の定義の中で、生物学的種概念がなぜもっともよく用いられているかを考えるとわかります。


 生物学的種概念は「種は実際にあるいは潜在的に相互交配する自然集団のグループであり、他の同様の集団から生殖的に隔離されている。」というものです。これを前半の「相互交配する自然集団のグループ」という部分が主文で、後半の「同様の他集団から生殖的に隔離されている」が補足的説明というようにとらえる向きが多いですが、実はその反対です。例えば「種とは実際にあるいは潜在的に相互交配する自然集団のグループである」と前半だけにしてしまうとこの定義は実際の分類にはほとんど役に立ちません。どこまで相互交配していたら同一種といえるかの基準がないからです。


これに対し「種とは他の同様の集団から生殖的に隔離されているグループである」と後半だけにした場合は生殖隔離の有無という明瞭な基準があるので、実際の分類、同一種とするか、別種とするかの判定に使えます。

つまり生物学的種概念は前半の「種の一般的理念」の部分と後半の「種の分離基準」とからなっており、そのうち実際に有用なのは「種の分離基準」の方だということがわかります。前半の「種の一般的理念(概念)」はいわばスローガンであって、実用上はなくてもかまいませんが、後半の「種の分離基準」がないとまったく空虚な言葉の遊びになってしまいます。そして他の多くの種概念は「種の分離基準」を持っていないので、実際には何の役にも立ちません。

問題の初めに帰ると、科学的な「種」の議論(定義)とは、妥当な「『種』の分離基準」とはどのようなものか、ということになります。どのような場合に別種とすべきかという具体的基準の問題です。


種の分離基準


ところで生物学的種概念のように、『種』の分離基準を生殖隔離に置くというのは非常に妥当な基準です。『種』という概念は生物が類似個体の集団からなり、それら集団間には形質に断絶がある、という経験から生まれたものです。このような形質の離散的構造は、各集団が集団ごとに遺伝子プールを共有し、各遺伝子プールの独立性は生殖隔離によって保たれているためである、と説明されるからです。反対にある集団が他集団とは異なった形質的特徴を持っているなら、その集団と他集団との間には何らかの生殖隔離があると推定されます。


さて2つのグループを比べて、それらグループ間に有意な差があるかどうかは分散分析という統計的な検定法があり、それで判断できます。しかし類似度や連続性は今のところこれを検定する方法がありません。つまりどの程度違っていたら2つのグループが別の集団だと判定されるかという科学的、統計的基準はありますが、どの程度似ていたら(または連続していたら)2つの集団が同じ集団だと判定できるような科学的基準はないのです。


これを分類にあてはめると、形態的類似性や連続性を基準にした合理的な分類は不可能で、グループ間の(有意な)差異を基準にしなければならない、ことになります。


グループ間の差の有意性に関しては集団内のばらつきの程度と集団間の差の大きさの比で判定します。ばらつきが大きければ集団間の差が大きくても差が有意とは言えず、反対にばらつきが小さければ集団間の差が小さくてもその差は有意だということになります。これは2つの集団を比べるときには誰でも直感的にしている比較法ですが、これを統計的に整備した手法が分散分析というわけです。


しかし集団内のばらつきの程度と集団間の差の比(=分散比)がどの程度大きければ有意とするかは、実は人間の経験に基づく合意です。例えばよく使われる99%有意というのは、集団間の差が有意であると判断してそれが誤りである確率が1%という概略的意味ですが、一般的には99%95%の有意水準をもって「集団間に差がある」と判断します。経験的にそれくらい確かなら差があると判定しても良いだろう、という合意です。しかしどの水準の有意性ならその判定を妥当と認めるかはまったく人間の経験的主観の問題で、科学的、統計的な根拠があるわけではありません。


そこで具体的分類の場合ですが、2つの集団(群落)の個体をランダムに並べて、それがどちらの集団に属するか判定するとします。例えば各集団から50個体、合計100個体を混ぜて判定するとして、それらがすべて正しく元の集団に再分離できればそれら集団間の差は100%(有意の)水準で有意だということになります。昆虫や脊椎動物など、交配相手を識別する生物では専門家が鑑定すればこれに近い水準で判定(再分離)できます。


ところが、植物など、交配相手を識別できず、かつ雑種の稔性も高い生物ではこの水準は大幅に低くなり、近似種の間では10%か20%くらいの個体は判定困難か、または誤って判定される場合が多いです。そこで私は20%以下の個体が識別困難なら、つまり80%以上の個体が識別可能ならそれら集団は別種であるという基準を設けています。ただし80%以上識別可能という基準は私が植物の分類において妥当と考える数字で、他の分類学者が賛成するかどうかは判りません。


地理的隔離


ところがこの基準は産地データ抜きの形質情報だけを考えた場合のもので、実際にはこれに産地情報を加味しなければなりません。


生物学的種概念のところで、同一種に属する各集団(群落)内の個体が互いに似た形質を持っているのは遺伝子プールを共有しているからだと説明しましたが、実は2つの集団が類似した形質を持っている理由には他に直近の祖先を共有しているのが原因という場合があります。たとえば種子が強風で遠くに運ばれ、そこで新しい群落を作ったとして、新群落は元の群落とは遺伝子交換ができない場所にあるという場合が想定されます。


この場合、2つの集団間には地理的に生殖隔離があることになりますが、形質上はほとんど区別できないでしょう。もちろん長い間には各集団で別々に進化が進み、やがて形質も違ってくるでしょうが、それまでの間は形質上は区別(識別)できません。このような実際上生殖隔離はあるが形質上は区別できない集団を分類学的にどう扱うか(別種にするか、変種にするか、あるいは同一種とするか)は、まだ分類学者の間で合意された方針がありません。


ただ保全生物学などでは、同一種でも異なった場所の群落は分けて扱うべきだという合意があるようです。このような集団間では、表面上の形質は同じでもDNAレベルではすでに分化(変化)の始まっていることが多くの研究で示されています。またこのような視点から、道路工事などの植栽でもその地域の群落から繁殖された植物を使うことは今や常識になっています。

 

開花期


さて生殖隔離をもたらす要因には種々ありますが、ハオルシアの場合、開花期の相違、花粉が運ばれる距離、それに種子散布の範囲、が重要です。

まず開花期の相違ですが、異なった種が同一地域、またはごく近接して群落を作っている場合、その多くは開花期が異なり、それにより生殖隔離が生じます。しかし同じ亜属の種ですと交配後隔離機構がほとんどないので、稀に起こる狂い咲きにより、これら群落間には相当程度遺伝子流動や相互的な遺伝子浸透が起こり、最終的には融合して同一種へと変化してきます。


良い例がJoubertskraalN. Joubertina)のH. villosaで、H. gordoniana系統の窓の大きな(葉裏に繊毛のない)大型個体と、H. pilosa系統の葉裏に繊毛のある小型個体とがあり、開花期は1か月近くずれています。しかし大型個体最後の花と小型個体最初の花とはかろうじて開花が間に合い、交配できます。恐らくこの2型は本来別種だったのが、開花期が一部重なるので融合が進み、単一種になったと思われます。なお、H. pilosa系統の繊毛のある小型種はごく近くに独立した群落があり、H. tomentosaIB13745Joubertskraal)と命名される予定です。


一方、別亜属間には交配後隔離機構があると思われ、Haworthia亜属の種とParviflora亜属の種 (H. minimaなど) はよく同一群落ないしごく近傍に生育していますが、両種間の雑種はほとんどありません。H. viscosaも同じです。これらは花期が重なっても交雑しにくいので、同じ場所に生育していても独立した種として存在しているのでしょう。Oligonodes亜属の種間ではH. viscosaはしばしば、例えばH. longianaなどと雑種を作っています。H. pungensなどはこれら雑種集団の形質が融合して均一になり、種として安定したものだと思われます。


花粉の移動距離


花粉が運ばれる距離は花粉媒介動物の種類によります。ハオルシアなど小型の白い花は、主に小型の飛翔昆虫によって花粉が運ばれると考えられます。(アロエなど、赤や黄色の目立つ、大きな花を付けるものは小型の鳥が主な媒介動物です。)花粉媒介昆虫の内、ミツバチは最も活動範囲が広く(巣から半径4km)、かつ個体数も圧倒的に多い(1巣で平均4~8)ので、多くの植物で主要な花粉媒介昆虫になっています。

しかし最近の研究によると、ハオルシアの花粉を媒介しているのは主にBee-flyHorse-flyと呼ばれるハエの仲間だということです。これらは活動範囲がミツバチよりずっと狭く、せいぜい直径1km程度の範囲らしいです。そうなるとハオルシアの花粉が運ばれる範囲、つまり花粉による遺伝子交流の範囲、は最大この程度だということになります。


ミツバチやマルハナバチなどのミツバチ類が主要な花粉媒介昆虫なら、花粉の運ばれる範囲はおおむね直径10km(半径4km+α)程度で、種子散布範囲がこれ以下ならこの距離が種の境界の基準となります。つまりある群落とある群落とが10km離れていてその間に同じグループの群落がなければ、2つの群落間で花粉が他群落に運ばれることはない、すなわち花粉移動の地理的隔離があることになります。

ハオルシアのようにハエ類が主要な花粉媒介昆虫ならこの距離はせいぜい1kmとなります。つまり2つの群落が1km離れていれば、その間に遺伝子交流はない、すなわち別種である可能性が高いと言えます。Poelnitzia属のように花の開口部が非常に狭い植物なら、花粉媒介昆虫はおそらく小型のアリで、この場合の種の範囲はせいぜい数百mとなります。


さらにミツバチ類の場合、あるハオルシア群落Aで密や花粉を収集した後はまっすぐ巣に帰り、その後別のハオルシア群落Bに密などを採集しに行けば、Aの花粉はBの群落まで運ばれ、そこに遺伝子流動が起こります。しかしハエ類では巣がないのでこのような行動はとらず、あるハオルシア群落Aで密を採餌した後はおそらくすぐ近くのハオルシアではない別属の植物の花に行って採餌し、次も近くのハオルシアではない別の植物の花に行き、という次第で、群落Aの花粉はそのハエの吻や足からは次第に脱落していきます。そして数kmも先の次のハオルシア群落Bにたどり着くころには群落Aの花粉はハエの体からはほぼ完全に無くなっているでしょうから遺伝子流動は起こりません。


したがってハオルシアの場合、ハエ類による群落間の花粉の移動はほとんど起こらず、もっぱら同一群落内の移動になると見てよいでしょう。つまりハエ類が主要な花粉媒介昆虫なら、花粉による遺伝子流動はほぼ同一群落内に限定されるだろうと推定されます。ミツバチ類がハオルシアの花を訪れた場合は他群落と遺伝子交流が起こりますが、それが遺伝子プールを形成しているといえるほど『頻繁』な相互交流である可能性はかなり低いと見ています。


このような、花粉の移動による群落間の『頻繁』な遺伝子流動はハオルシアの場合ほとんどないだろう、という見解は、既存種のごく近くに同亜属の別種が独立して生育している、という最近の多数の発見により裏付けされます。例えばH. groenewaldiiH. joleniaeH. hammeri n.n.、それにMorning Star農場(Heidelberg)の3種(いずれも未命名)などがあります。

 

種子散布距離


花粉による遺伝子流動があまりないとすると、種子の散布による群落間の遺伝子流動がどの程度あるかが次の問題です。アロエやペラルゴニウムなど、種子に翼や冠毛のある植物では種子の散布能力が非常に高く、種の範囲はおおむね種子の移動範囲で決定されます。一方ハオルシアなどでは種子は基本的に重力散布ですから、大部分の種子は親株の周囲に散布されます。しかし時には風に乗って数km、あるいは数十kmも移動しますが、それがどの程度『頻繁に』起こる事象であるかが問題です。


東ケープ地方のBaviaanskloofZuurbergのような隆起準平原の山地では山の高さの割に谷が深く、風も弱いので谷沿いに生育するハオルシアの種子が風に乗り、谷を越えて移動することは困難です(花粉媒介昆虫も同じです)。したがってこれらの地域では谷一つ一つが他の谷から隔離された環境となり、山地全体としては非常に多数の種が分化可能と見られます。これがこれら地域が種分化の中心地となった理由の一つでしょう。


一方、大カルーでは植生がまばらで平坦地が大きく広がっているので、ハオルシアの種子は風に乗って数十kmも移動することがかなりの頻度で起こり得ます。そのような種子=遺伝子の移動が頻繁に起こると、ある広い地域一帯が共通の遺伝子プールとなります。


ところでハオルシアは非常に群落性が高く、小カルーや南部海岸地方ではわずか数メートル四方からせいぜい数百メートル四方の範囲に数十から数千個体、時には万単位個体が密生し、そこから外れると全く孤立個体はなく、次の群落は数kmから数十km先であるということがほとんどです。大カルーでも似たような状況で、群落の大きさはやや大きくなりますが、数百m四方から1km四方程度、次の群落はやはり数kmから数十km先という場合が多いです。


つまりハオルシアは同じ地域の他の多肉植物などと比べ、単位面積当たりの群落数が非常に少なく、かつ群落の大きさも非常に小さいといえます。群落内には多数の個体が密生して生育しますが、例えば10平方kmにいくつ群落があるか見ると非常に少ないわけです。


このような状況ですと、風に乗って種子が遠くまで散布されたとして、それが数kmから数10km先の次のハオルシア群落の中、または近くに落ちる確率はかなり小さいと推定されます。そうなるとそのような現象が相互に起こる、つまり頻繁な遺伝子交流が起こる可能性も相当小さいと考えられます。稀に起こる種子の群落間移動により、遺伝子流動(遺伝子浸透)は起こりますが、遺伝子プールを形成するほど頻繁な遺伝子流動は起きていないと私は見ています。


例えばCalitzdorpには個体数数万以上という、万象の大きな群落がありますが、その周辺には万象の群落はまったくありません。しかし農場主が万象の種子を周囲の適地と思われる場所に散布したところ、そのいくつかで新しい群落が形成されたということです。このことは周辺の適地に万象の種子がほとんど散布されておらず、種子が到着したら新しい群落が生育できる適地がCalitzdorpにはまだ多数残っていることを示しています。


ハオルシアの産地を実際に歩いた人がみな感じる疑問は、「あそこに群落があるのに、どうしてここにはないのか、条件は同じように見えるのに。」ということです。もちろんこちらが気がついていない微妙な条件の違いもあるでしょうが、ハオルシアが基本的に栽培容易な植物であることを考えると、その答えは「そこにまだ種子が到着していないから。」だと考えられます。つまりハオルシアの種子が風に乗って周辺や遠隔地の適地に運ばれる確率は相当低いということです。


このことはまた、ハオルシアの群落は境界が非常にはっきりしていて、境界内には多数の個体が生育しているのに、境界を1歩出るとまったく生育していない、という観察によっても裏付けられます。もちろん、その土地の土壌条件や水分条件、傾斜度、日陰条件などにもよりますが、風で種子が多数散布されるなら、個体密度は群落を離れるに従い徐々に低下していき、群落の境界が視認できるほど明瞭、という現象は起こらないでしょう。

したがって、ハオルシアの種子は風に乗って他の群落にもまれに移動しているでしょうが、大部分はもっぱら同一群落内に散布されていると考えられます。