(編集者註:記事容量が大きいため3つに分割しました、1/3から順番にお読みください)


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 昨年秋にH. blackbeardianaH. specksiiとの違いについて質問があり、私も気になっていたので調べてみました。思った以上に錯綜した仲間だったので、時間がかかりましたが、以下のように整理しました。

 

 まず最初に説明しておかなければならない点は、ハオルシアの花粉媒介昆虫のことです。最近この問題を現地で精力的に調べている若手研究者のGrenier氏によれば、ハオルシアの主な花粉媒介昆虫はミツバチではなく、beeflyと呼ばれているハチに良く似たハエだということです。このハエは私もハオルシアの群落で良く見かけましたし、一方でミツバチはあまり見かけませんでしたから、Grenier氏の指摘はおそらく正しいでしょう。

 ミツバチは花粉媒介昆虫の中では最も飛翔力が高く、その活動範囲は巣を中心に直径8 kmと言われています。これに対し他のアブやハエの活動範囲は直径1km以下とされています。しかし巣に戻る必要がないので、風に流されれば数kmは移動するでしょう。日本でも標識を付けた小型のチョウが10 km先で再捕獲されたという記録があるということなので、これらの小型昆虫は最大10 km程度は移動すると見て良いでしょう。

 ただしこれらの小型昆虫が10 km離れた2つのハオルシア群落の花粉を頻繁に媒介(交換)するわけではありません。あるハオルシア群落の花粉を付けた小型昆虫が風に流されて、途中他の植物のどの花にも停まらずに10 km先のハオルシア群落にその花粉を運ぶ確率は極めて低いでしょう。また仮にそのようなことがあったとしても、その程度の頻度では遺伝子の頻繁な交換、すなわち遺伝子プールがその2つの群落間にあるとは言えません。

 このような現象は浸透交雑の原因にはなりますが、種の同一性保持(遺伝子プールの共有)には役立ちません。したがってbeeflyなど、ミツバチ以外の小型昆虫が頻繁に花粉媒介できる範囲はせいぜい数kmの範囲と考えてよさそうです。

 同じことは種子散布でも言えます。ハオルシアの種子は軽いので強風に乗れば10 km以上移動すると考えられます。しかし10 km以上離れた2つの群落が遺伝子プールを共有していると言えるほど頻繁にそのような事象がおこることはないでしょう。

 つまりハオルシアの場合、途中に同種の群落がなければ、ある種の地理的な範囲(頻繁な遺伝子交換が可能な範囲)はおおむね直径数km以下と考えて良いということです。

  またもう一点、私の分類では産地間に数km以上距離があり、群落間に形態上差が認められる場合は、とりあえず別種として名前を付けると言うのが基本方針です。その後中間的群落が見つかったり近隣の種と連続的であることが分かった結果、近隣種と同一種であると訂正されることはあり得ますが、まずは名前がなければ議論に不便です。産地名と採集番号で議論するのは全く煩雑ですし、もし後に同一種だとなっても、その名前は群落を区別したり、品種名として使うことが出来ます。便利さも分類学の重要な要素です。

 さてH. blackbeardianaグループの場合、Cradockの南からAliwal NorthQueenstown北方)までおおよそ150 kmに渡り分布しており、これらの範囲すべてで数kmごとに同類の群落があるとは考えられません。そこには当然複数の遺伝子交換可能な群落の集合=種が存在すると見られます。

 一方で、この地域には質問にもあったH. blackbeardianaH. specksiiのように、形質がかなり異なった種もあり、これらが同じ系統の種なのかという疑問もありました。

 そこでこれまでH. blackbeardianaH. specksiiとされてきた群落を中心に、系統を大きく整理すると、次の図のようになります(赤字は未記載種)。まずH. teneraの系統です。




table1-blackbeardiana
(図表はクリックすると拡大します)



H. blackbeardianaH. teneraからH. pringleiH. vittataを経て内陸で大型化した種で、この仲間は軟質な葉と鋸歯、薄緑~黄緑の葉、不透明で濁った小さな窓などが共通です。窓の葉脈は表皮の延長で、ガラス質の中に沈み込みません。

 近縁の系統には、H. blackbeardianaLapis系の紫色を帯びた種群(H. sabrina n.n. Kommadaggaなど)が浸透したViolacea系があります。Cathcartの東の紫味を帯びた群落はすべてH. malvina n.n.です。しかしH. malvinaはその祖先と見られるH. violaceaCradockの南)やH. turcosaSheldonの東)からは100km以上離れており、おそらくこの間にはこの系統の未発見種が複数あると予想されます。なおH. innocens n.n.  Tafelberg, MiddelburgH. malvinaとは別方向へ分岐した種と見られます。


(編集者註:記事容量が大きいため3つに分割しました)