Sheilamで売られていた植物で、データの間違っていたもの2例を紹介します。同じころに同じものを買われた方は、植物をよくみて確認してください。
H. arachnoidea var. arachnoidea Advice JDV 93-23
2007年12月3本輸入----H. cooperi 様植物
2008年 2月 3本輸入----同上
2008年12月6本輸入----同上
2010年 1月 5本輸入----H. tretyrensis 様植物
2007年~2008年にかけて輸入したものは名前(H. arachnoidea)と現物(ほとんどH. cooperi)とがあまりに違うため、疑問に思って輸入するたびに追加で買っていたものですが、いずれも同じ植物でした。
2010年に再びリストに出てきたので、改めて買ってみたところ、今度はH. tretyrensis のような植物が送られてきました。産地(Stytlervilleの東)や表示名 (H. arachnoidea var. arachnoidea) から考えると、これが正しいJDV 93-23だと考えられます。
しかしそうだとすると、2007~2008年に輸入した植物はデータ間違いということで、原種のコレクションとしては全く無価値になってしまいます。廃棄するしかありません。
H. decipiens var. minor Palmietrivier JDV 97-20
この名で2003年に売られていたものは実際にはH. ianthina Vetvlei (N. Uniondale) MBB 6937 との混合です。大型で窓が大きく、透明なものはMBB 6937で、やや小型で窓は小さく、鋸歯の多い型はJDV 97-20です。 中間型はほとんどなく、明瞭にどちらかに区別できますから、雑種ではなく、苗(または種子)が混ざったと考えられます。
Sheilamに限らず、原種の輸入時には必ず複数本(最低3本、できれば5~10本)注文して、名前や産地から考えて不審な形態でないか、あるいは形態に極端なばらつきがないか、等を確認する必要があります。形態のばらつきが大きくてはっきりと2型に分けられるときは2種の混ざっている可能性があります。交配時に雑交したのなら中間型があって形態は連続的になる場合が多いです。
Sheilamではないですが、de Vriesから2006年に売られたH. kingiana (VdV 138, Great Brak)の実生も10本ほど買って大きくしてみたらどうも様子がおかしいので問い合わせたら、やはりH. minimaとの雑種だった、ということがありました。この場合はそれまで知っているH. kingianaの形態からは連続的にかつ大きく変化しているので、不審に思ったわけです。H. kingianaに近いものもありますが、全く違う形態のものも出てきます。
なおオランダのSTCで売られているH. kingianaもde Vriesから入手したものなので、あるいはこの雑種である可能性があります。
原種の系統や分類を議論する場合は、議論する対象材料が正しいものかどうかを十分吟味する必要があります。例えばHarry Mak(英国在住の香港系中国人)がH. zenigataはH. minimaと同じだと言う論文を発表したことがありますが(Alsterworthia Int. Vol. 3: 3、2003)、掲載されている写真がどう見てもH. zanigataに見えないし、さらにこの植物は仔吹性だと書いています。論文にはこの植物は日本の大森緋可子氏から入手したとあるので大森氏に問い合わせしたところ、どこかのセリ会で入手し、ラベルにH. zenigataとあったのでそのまま送った、ということでした。
当時大森氏は日本多肉植物の会の編集長でしたが、失礼ながらHaworthiaの種名の正しい同定が出来るとはご本人も思っていらっしゃらないでしょう。電話での問い合わせに対し、「自分はわからないが、そうラベルにあったので、そのままそのラベルを付けて送った。」とのことでした。しかしHarry Makいわく、日本の専門的クラブの編集長が送ってきたのだから正しいもののはずである。(H. Makはどこかでそう書いているのですが、どこでそう書いているか、ちょっと思い出せません。)
この問題は大森氏に責任があるわけではないでしょう。彼女はおそらく善意で材料を送ったのでしょうが、問題はHarry Makが送られてきた材料が正しい名前のものかどうか確認せずに、頭から正しいとして議論し、それも批判論文を書いたことにあります。
しかし仔吹性のH. zenigataなど見たことも聞いたこともありません。おそらく大森氏が送ったのはH. minimaの1タイプかH. minimaの雑種なのでしょう。私はその後Harry Makに正しいH. zenigataを送ってやり、H. minimaと比較するように伝えました。今日ではH. zenigataがH. minimaやH. kingianaとは異なる、全くの別種であることは広く認められています。H. zenigataに関するHarry Makのこの論文は不正確な材料を基にした誤った議論の典型として長く戒めの見本になることでしょう。
分類的議論をする際には正しい材料を入手することは大前提です。正確を期すには1個体だけではなく、産地別にそれぞれ複数個体入手し、群落ごとの変異の幅も把握する必要があります。国内業者からたまたま入手した1、 2個体を基に分類論議する人もいますが、『変異の幅』という概念を頭に入れておかないと見当違いの議論になってしまいます。外国から原種を輸入する時も同じで、複数個体輸入して変異の幅を把握するようにしてください。
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なお記事とはあまり関係ないですが、写真がないとさみしいのでいくつか。
H. cineraria n.n. Apieskloof 青緑色の美しい植物。H. inconfluens等の祖先らしい。
写真1 H. cineraria 04-26-1 D=6 Apieskloof JDV 91-81
写真2 H. cineraria 04-122-2 D=6 Apieskloof JDV 91-81
写真3 H. cineraria 07-25-2 D=6 Apieskloof JDV 91-81
数年にわたり複数個体を3回輸入し(MH番号参照)、おおむねこのような形態で安定しているので、これがこの植物の標準的形態だろうと考えられます。
ただしより鋸歯の多い個体もあるようです。(空中庭園ブログ参照)
H. caerulea Helspoort
写真4 H. caerulea 04-27-1 D=5 Helspoort MBB 6614
植物自体は珍しくもないが、中には写真のように非常に窓の透明な、美しい個体があります。
Dr. M. Hayashi
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