リビダ(H. livida)は一般に直径5cm以下の小型種ですが、葉の表裏に大きな斑紋があり、それらが繋がって、まだら模様の窓になる美しい種です。産地はWorcesterの東の低い丘陵の斜面に一か所だけが知られています。この丘には他にH. pubescensとH. pallidaが生えています。

H. lividaとH. pubescensは草姿や大きさが非常によく似ているだけでなく、花の形や開花期も全く同じです。一方、H. pallidaの開花期は全く異なり、H. lividaやH. pubescensの開花期とは重なりません。また花の形も全く違います。

Photo 1  H. livida D=5
写真1. H. livida D=5

Photo 2  D=5
写真2. H. livida D=5

写真1~2は最近輸入されたH. lividaです。写真1は一般に流通している平均的な型に近いものですが、斑紋が大きく、ほぼは全体が窓になる非常に美しいものです。写真2もやはり斑紋が多く、それがつながって斑紋というより格子状の窓になり、マガダスカルの水草、レース草を想起させます。葉の半分以上が窓という美個体です。

Photo 3  H. livida D=3.5
写真3. H. livida D=3.5

写真3はH. pubescensとして輸入したもので、当初は窓が全くなく、しかしH. pubescensの特徴である微小繊毛もほとんどない、変な個体でした。ところがこれを育てていたら、写真のように葉に大きな窓が出現し、どうもこれはH. lividaらしいということになりました。しかしよく見ると葉の表面や葉辺に微小繊毛のあることがわかります。H. lividaの場合、葉辺にあるのは微小繊毛ではなく、はっきり鋸歯と判断できる大きさの突起(刺)です。

Photo 4  H. cf. livida D=4
写真4. H. cf. livida D=4

写真4は同じくH. pubescensとして輸入したもので、葉全面に微小繊毛が生え、その点ではH. pubescensと判断してもおかしくはない個体です。しかし輸入当初から葉色が薄く、何か変だなと思っていたのですが、育ててみたら斑紋状の窓が顕著になり、どうもこれもH. lividaらしいです。しかしこの株は葉の葉辺はもちろん、葉の表裏全面に微小繊毛が生え、この点では明らかにH. pubescensです。

写真3と写真4の個体は斑紋状の窓がある点ではH. lividaですが、葉の表面に微小繊毛がある点ではH. pubescensです。つまり両種の特徴が混ざり合った中間型と見られます。

写真2、3,4は同じ時にもう1本のH. lividaと一緒に南アフリカから輸入したもので、輸入時の株や根の形状から見て、実生苗ではなく野生株と思われます。

南アフリカでもH. lividaやH. pubescensの産地を知っているのはごく少数で、相当ハオルシアに詳しい人だけです。同一亜属のハオルシアの産地は例外なく地理的によく分離されており、あるいは産地が近ければ花期によって生殖的に隔離されています。
そうしてみると、これら個体を採集した、ハオルシアに相当詳しい人が種の同定を間違えたということは、この2種は混生しているか、少なくとも産地が分離していないことを示しています。つまりH. lividaはH. pubescensの群落中の有窓の特異個体である可能性がかなり高いと言えます。結論には詳細な産地調査が必要ですが、もしそうならH. lividaは種ではなく、H. pubescensの特異個体群である品種グループだということになります。

このような場合、H. lividaやこれら中間型をどう呼ぶかという問題ですが、H. lividaあるいはH. pubescens、またはH. pubescens var. lividaのいずれの名も種や変種として産地が分離していないなら正確ではなく、集団中の特異個体の品種グループとしてLivida とするのが妥当です(グループ品種名には一重引用符を付けません)。

Photo 5  H. lividioides nom. nud.  D=8
写真5. H. lividioides nom. nud.  D=8

Photo 6  大型 lividioides  D=10
写真6. H. lividioides nom. nud.  D=10

Worcester周辺からNamaqualandにかけてはH. lividaと同じく、葉に斑紋(気泡紋)やそれが繋がったまだら窓のある美しい種が多数あります。比較的よく知られているものではWorcester南のH. maculate、あまり知られていないWorcester東のH. lividioides nom. nud.(写真5、6)、ほとんど知られていないWorcester 北東、Hexrivier西側のH. hexia nom. nud.(写真7、8)があります。

Photo 7  H. hexia nom. nud.  D=9.5
写真7. H. hexia nom. nud.  D=9.5

Photo 8  H. hexia nom. nud.   D=7
写真8. H. hexia nom. nud.  D=7

H. lividioides nom. nud. はH. maculataに近いですが、窓ははるかに大きく、斑紋というより細かな格子状窓になります。葉先1/3から半分近くが窓になる美種です。一般には直径7~8cmですが、直径10cmを超える大型個体(写真6)もあります。

H. hexia nom. nud. はHexrivier東側のH. limbataと近縁ですが、鋸歯はより弱く、斑紋はより多く、写真の個体のように美しいまだら窓になるものも稀ではありません。窓の大きな個体では薄い赤褐色に色づく場合が多く大変きれいですが、Kanetvlei(2010年にSheilamからH. cf. nortieriとして発売された)など産地によっては窓が小さく、全く色づかない場合もあります。

Photo 9  H.  citrina nom. nud.  D=8
写真9. H. citrina nom. nud.  D=8

Photo 10  H. citrina nom. nud. D=9.5
写真10. H. citrina nom. nud.  D=9.5

H. hexiaから北に100kmほど行ったところには、おそらく全く知られていないH. citrina nom. nud.(写真9、10)があります。距離は離れていますが、間違いなくH. hexiaに近縁です。写真の個体は見事な橙色(オレンジ色)ですが、平均的にはより淡色の黄橙色なので“citrina”と名付けました。

地理的にはH. nortieriに近いのですが、形態的にはむしろH. dimorphaに近く、オレンジ黄色のH. dimorphaといった感じです。なお写真の植物はいずれも87.5%遮光下で栽培されているものです。冬でも色はさめませんが、H. hexiaと同じく、夏でもほとんど色づかない個体もあります。
H. livida自身も含め、これらの近縁種はいずれも初夏(6月)咲きです。