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November 2017

一昨年(2015年)8月13日未明に起きた中島氏温室の盗難事件の犯人として捕まった中国人の鮑被告(35)に対する判決公判が11月22日に静岡地裁富士支部で開かれました。國井香里裁判長はこの事件が鮑被告の犯行によるものと認め、求刑の懲役3年に対し2年6月の実刑判決を言い渡しました。ただし未決拘留期間480日を算入するとしたため、鮑被告の残りの収監期間は432日(約1年と2ケ月)となります。

被告は事件に関与していないと一貫して主張し、犯行時に植物を抜き取った後の空鉢から検出された鮑被告の指紋もビッグバザールなど他の機会についたものであるとか(事件前、鮑被告が中島氏温室に行ったことはない)、事件当日富士宮市内にいたのは別件で関東に行く途中、富士山を見たくなったので立ち寄ったため(別件の目的地には結局行っていない)、とか、あるいは逮捕後彼の携帯電話に残っていた、鉢から抜いた大量の万象が彼の岡山の倉庫の床に並べられていた写真についても、自分の万象であり、根が腐ってきたので鉢から抜いて乾かしていた、などと弁解していました。

裁判所はこのような被告の主張、反論について一つ一つ丁寧に検証し、結論としていずれの主張も抽象的可能性や不合理な弁解の域を出ず、合理的根拠のある主張とは認められないとしています(ただし判決の中では被告の携帯電話に残っていた、倉庫の中の大量の万象の写真については触れられていません)。また盗難品がその後国内では一切見つかっていないことから、犯行はもっぱら(海外への)転売目的であったと認定しています。

被害額についてはハオルシアの価格はもっぱらオークションなどで価格が決定されるため価格が一定せず、被害額を確定することはできないものの、盗難品のうち写真が残っていた万象12点については根拠のある鑑定が可能であるとしてその鑑定結果からこの12点で少なくとも265万円はしたと認められるとし、これから全体の被害額は相当多額に上るとしています。

その上で、深夜温室に侵入し、転売目的で大量の植物を盗み出す手口は大胆かつ悪質であり、裁判においても不合理な弁解に終始して反省の色が全く見られないなど、前科のないことを勘案しても、酌むべき情状は全くないとして実刑判決を言い渡しています。


この事件は対象が趣味の植物ですし、裁判長はハオルシアについてはもちろん素人ですから、当初は栽培や売買価格の実態についてどの程度理解してもらえるか、不安もありました。しかし判決を聞いた限りでは、非常に丁寧に一つ一つの証拠や被告の反論を吟味し、合理的で説得力のある結論を出してもらえたと感じました。
被告が控訴するかどうかはわかりませんが、控訴されても高裁での再審理に十分耐えられるだけの証拠調べや合理的判断がなされているのではないかというのが私の感想です。

また検察官も事件が趣味園芸の世界の事案であるにもかかわらず、非常に熱意を持って取り組んでいただきました。検察官はハオルシアについてはもちろん素人ですが、栽培や売買の実態についてもよく調べていただいたと感じています。また被害者中島氏の処罰感情や犯罪抑止上から厳罰を望む当会の要望なども考慮していただき、この種事件としてはおそらく目いっぱいであろう懲役3年を求刑していただいたことで、2年半という実刑判決が得られたと理解しています。

大久保氏温室で捕まった中国人の田被告は現行犯ということもありますが、犯行を認めた(共犯者名などを白状した)ために執行猶予がついて国外追放(強制送還)となりました。しかし初犯だからと言って執行猶予が付いて強制送還では事実上無罪放免です。これでは外国人に対し「日本に行ってハオルシア泥棒をして捕まっても強制送還になるだけだ」と誤ったメッセージを送ることになり、却って外国人犯罪者を呼び寄せることになってしまいます(事実その後も外国人によると見られるハオルシア盗難事件が続発しています)。
ハオルシア泥棒に限らず、来日して犯行を行う外国人犯罪者に対しては執行猶予を付けず、必ず実刑を科すなどの厳罰化が必要だと感じます。あるいは強制送還の上、出身国で収監するなどの制度も検討すべきだと思います。(日本の刑務所は待遇が良すぎて、アジア系外国人にはあまり苦痛にならない。また出身国で収監する場合には未決拘留期間を刑期に参入しないなどの処置 (収監期間はより長くなるので犯罪者にとって強制送還が不利となる)も必要。)

鮑被告の場合も初犯ですから犯行を認めて反省の情を示せば執行猶予となった可能性が高いですが、犯行を認めると共犯者の名前や盗品をどこへ売ったのか、などを白状しなければならず、それを避けるために不合理な弁解を並べたててまでも無罪主張を押し通そうとしたものと思われます。つまり彼は執行猶予がつかなくなる危険性を冒しても共犯者や盗品販売組織を守ったのではないかとも考えられます。
判決はまだ確定ではありませんから、控訴審や最高裁で無罪が認められる可能性も残っていますが、指紋の検出状況などを見れば彼が犯人であることは覆らないと見ています。(検出された指掌紋11個のうち、照合可能なのは2個だけで、そのいずれもが被告の指掌紋と一致しており、一方で指紋の付く可能性がより高いと思われる中島氏の照合可能な指紋は一つもなかった。よほど強く鉢を掴まなければ指紋は残らないようで、このことは防犯カメラの犯行映像とも符合し、一方でビッグバザールなどの折に被告の指紋が付いたのではないかという被告の主張を否定する。)

被告が一貫して無罪を主張していることや、犯罪歴がないことなどから有罪(犯人)だとしても執行猶予が付く可能性はかなりあり、その点を危惧していたのですが、犯行が大胆かつ悪質であること、被害額が相当額に上ると推定されること、さらに決定的だと思われるのが裁判において証拠のそれぞれに対して不合理な弁解を並べ立てたことから、反省の情が全くなく、情状酌量する余地はないと判断されて実刑判決になったのでしょう。

しかしこの実刑判決によって、ハオルシア泥棒をして捕まり、犯行を認めなければ(共犯者などを白状しなければ)、初犯でも実刑判決が下されるという前例ができたことになり、今後の犯罪抑止上大きな効果があると思います。


とはいうものの、これ以降の事件では犯人は指紋を残さないよう手袋を必ず着用しており、また防犯カメラの映像からも顔を特定されないよう、帽子やマスクを着用するなど、逮捕に至る決定的証拠を得ることはなかなか難しくなっています。
したがって自衛するしか方法はないので、ハオルシアに限らず、価格高騰しているメセンなど高額植物の愛好家は一層の防犯対策を心がけてください。

何度も指摘していますが、防犯対策は盲点がないようにし、かつ効果的なものでなければ役に立ちません。周りに人家がないところで大音響のベルなどを設置しても単なる子供だましにしかなりません。壊されておしまいです。(最近の被害者、奈良県のMなどは防犯対策をしてあったと言っているそうですが、有効な防犯対策であれば一晩中居座られて根こそぎ植物を盗まれてしまうことはないですから、もちろん有効なものではなかったでしょう。有効なものでなければ防犯対策がしてあるとは言えません。)

また防犯カメラには必ず無停電装置をつけてください。無停電装置があれば、電源を切断されてもしばらくはカメラは作動し、侵入者の映像もスマホなどに送られ続けます。もちろん電源が遮断されたという緊急警報は電源遮断後もスマホなどに送られ続けます。さらに自宅寝室にも防犯カメラの映像が映るモニターを設置し、深夜でも常時温室内を監視できるようにすると効果的です。人感センサーなどが作動してもモニターを見れば直ちに侵入者の有無をチェックできます。

なお、最近の事件はいずれも防犯対策をしてないか、してあっても不十分な温室が狙われています。著名収集家や、業者の温室はかなり防犯対策がされていますので、今後は警戒の薄い、地方や小規模な趣味家が狙われると予想されます。とくに著名収集家の繁殖品が置いてある温室は、繁殖品だから盗まれても大きな被害ではない、として防犯対策をしない傾向がありますが、繁殖品でも著名収集家の温室なら相当額の植物が入っています。例えば被害額が300万円程度だとしても、中国や東南アジアの田舎ではおおよそ10倍くらいの貨幣価値がありますから、泥棒にとっては十分価値のある稼ぎになります。そしてそのような成功話が裏社会に伝わり、それを伝え聞いた泥棒達がまた新たに来日して荒稼ぎをするということになります。
「ハトに餌をやらないでください」というのと同じように、繁殖品だから取られてもよい、という対応ですと、エサがあるうちは泥棒達も繰り返し犯行を重ねることになり、他の収集家が大きな迷惑を受けることになります。繁殖品しか置いてない温室でも、泥棒達にエサをやらないために、しっかりとした防犯対策を取ってください。

5月末に発売された「多肉植物 ハオルシア」ですが、売れ行き好調で11月10日に増刷版が発売されました。
増刷に合わせて第1刷での印刷ミスが訂正され、また一部追加された文章もあります。

第1刷での印刷ミスは15ページ右上の南アフリカの地図で、地名が一部誤っていたのを今回訂正しました。
また13ページ下の分類表で、第1刷では硬葉系の具体的グループ名が入っていませんでしたが、今回の第2刷では代表的なグループ名を入れました。
他には大きな訂正はありません。

いずれにしろ、発売から半年もたたないうちに増刷されるというのは、ハオルシア人気の高さを端的に象徴しています。

この本はこれまであまり紹介されることがなかったレース系やオブト系、まだら系などに力点を置いて編集されましたが、この仲間が一般市場におけるハオルシア人気の中心であることは、この仲間にスポットを当てた本書の成功でより一層明らかになりました。

サボテン業者や長老マニアたちを中心としたハオルシア趣味家は、高値で取引される玉扇、万象にばかり注目していますが、玉扇、万象を何万円もの価格で取引する趣味家は日本国内でせいぜい300人、どんなに多く見積もっても1000人はいません。中国でも1万人はいないでしょう。

一方、レース系やオブト系、まだら系などが好きな趣味家は主婦やOLなどの女性を中心として日本国内で少なくとも10万人、おそらく30万人はいます。これらの趣味家は1株千円程度、高くても3000円までの苗を買って室内や窓辺などで楽しむ層です。
したがって高額品ばかり出品される趣味家のセリ会などには顔を出しませんし、顔を出してもレース系やオブト系、まだら系などの欲しいものがありません。もっぱらホームセンターや花屋の店頭あるいはヤフオクで物色したり、仲間内で繁殖品を交換し合うという層です。しかしこれらの趣味家が本当に欲しいものがなかなか一般市場に出てこないのが現下の問題点です。

玉扇、万象を中心としたここ10数年のバブル現象もいよいよ終わりが見えてきました。高額品が培養によって大量に繁殖され、値下げ競争になって大幅に安くなっています。例えば万象の'南アの星‘は今年初めには中苗で50万円程度の値がついていましたが、最近では同程度の苗がわずか5万円程度です。1年で価格が1/10になったわけです。他の品種も同じ傾向です。培養を止めることができない以上、この傾向は強まりこそすれ、弱まることはないでしょう。

'南アの星‘のように窓模様がそれほどでもなく、サイズが大きいだけという品種、あるいはドラゴン亜流、雪国亜流のような特徴の乏しい品種は培養が始まれば価格は急速に下落します。一方、白妙やドラゴン、あるいは玄武のような特徴があってなおかつきれいな品種は価格低下すればマニア以外の一般趣味家も買っていきますから、それほど大幅には価格低下しないとみています。

話を「多肉植物 ハオルシア」に戻しますと、レース系やオブト系、まだら系にスポットを当てたこの本が好評だったことは、これらの植物を愛する趣味家が想像以上にたくさんいるということを象徴しています。これまでこの仲間はあまり育種が進んでおらず、知られている優良品種はかなり限られています。市場(一般)に出回る品種はさらに限られています。

しかしこの仲間には全く息をのむほど美しい品種がまだまだたくさんあります。それらの品種を紹介し、育種家の繁殖を後押しして一般市場に供給されるのを手助けすることも当会の大きな役割だと考えています。そのような新品種の一部が次号ハオルシア研究33号にも紹介されます。(33号は12月に発行されます)

なお、この本に対するアマゾンの読者コメント欄にハオルシアの品種名統一に反対する業者やその仲間と思われる人からの否定的なコメントが多数投稿されています。市場に流通している名前にそぐわないとか、林氏の独自名が多いとかいう批判もありますが、この人たちが言う「市場」とはサボテン業者を中心とした狭い趣味家市場であり、はるかに大きい一般市場の話ではありません。

この本の中で、サボテン業者たちが勝手につけた、国際基準に合致しない名前を使わないのは当然です。また監修者の林は国際園芸学会から指定されたハオルシア品種名の世界で唯一の登録人で、新品種名の登録可否を決定する権限や市場で混乱している品種名を整理し、正名を決定する権限を与えられています。したがって林の独自名は国際的な正名になるわけですし、それらの新しい品種名は毎年国際栽培品種登録機関の本部に報告されています。

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