日本ハオルシア協会 Official Blog

ブログデザイン改修しました。

March 2017

こちらでハオルシアフェスタの前の最後のブログ記事になります。

ハオルシアフェスタ2017は、4月23日(日)開催の予定です。詳細は近日中にまたお知らせします。

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H. crystallina Hayashi  'Nata de Coco' (ナタデココ)  DMH

H. crystallinaは2005年にH. rooibergensisとして輸入された群落標本(7本)をH. rooibergensisとは別種であるとして記載したものです。H. rooibergensis (写真1)より窓が大きく、鋸歯が小さく、かつ葉が硬いことが相違点です(写真2)。産地的には非常に近いようです。

写真1 H. rooibergensis
 写真-1 H.  rooibergensis 径7.5 cm

H. rooibergensisは系統的にはH. villosa (Joubertskraal, Jubertina)やH. erii (Doornkloof, East of De Rust)の子孫と推定されます。軟質で大きめの窓と繊細な鋸歯を持ち、単頭性であることなどが共通です。

写真2. H. crystallina
 写真-2 H.  crystallina  径8 cm

ところがその後H. rooibergensisやH. crystallinaとして輸入されるものの中には標準的なH. crystallinaよりさらに鋸歯が小さいものがあり、中にはほとんど全縁(鋸歯がない)ものもあります(写真3、4、5)。

写真3 H. crystallina ‛ナタデココ’'
 写真-3 H. crystallina ‘ナタデココ’ 径8.5 cm

写真4 H. crystallina ‘ナタデココ’
 写真-4 H. crystallina ‘ナタデココ’ 径 8 cm

写真5 H. crystallina ‘ナタデココ’
 写真-5 H. crystallina ‘ナタデココ’ 径 6 cm

これらがH. crystallinaとはさらに異なる新種なのか、それともH. crystallinaの群落内の個体変異に過ぎないのかは現地調査をしてみないとわかりません。別群落を形成していれば別種、同一群落内に混生していれば同一種内の個体変異ということになります。

いずれにせよ、これら鋸歯の少ない個体は標準的なH. crystallinaより葉が太く、窓が大きく透明で、かつ葉質が硬いので透明窓の屈折率が高く(この点はH. crystallinaと同じ)、非常に魅力的です。写真5の個体などはほとんどオブツーサ類のような感じです。

分類学的にH. crystallinaと同一種かどうかは別としても、少なくとも園芸的には区別されるべきだと思いますので、写真3~5のような個体群を‘ナタデココ’と呼ぶことにします。種としてはとりあえずH. crystallinaのままです。

今回の記事は、ハオルシアからは離れますが、会員の方からの寄稿を特例として掲載します。

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【島津亜矢研究―2     セイレーン】

 私は音楽理論や音響学には全くの素人で、大脳生理学や神経生理学の専門でもありません。以下の議論も基本的にネット上の情報に基づく素人の見解ですから、基礎知識の欠如や誤解があるかもしれません。そのような場合は遠慮なく指摘してください。

 さて島津亜矢が他の女性歌手と比べ、圧倒的に多くの聴衆に感動を与えているということが『島津亜矢研究―1』の表1から明らかになったわけですが、ではどうして彼女の歌はそれほど聴衆に感動を与えるのか、が今回のテーマです。

A. 聴覚と感動の仕組み
 聴覚の仕組みはご存知の方も多いと思いますが、内耳の蝸牛管の中にある基底膜という膜が特定の高さの音に共鳴し、振動すると、その上にある有毛細胞という感覚細胞が押し上げられます。その結果、細胞上に生えている毛が蓋に当たって曲げられ、その情報が神経パルスとして聴神経から脳の聴覚中枢に送られて音として感知されます。音の高さは反応した有毛細胞の位置、音の大きさは発生する神経パルスの頻度として情報が伝えられます。
 神経細胞の応答間隔はおおむね1ミリ秒です(1/1000秒)。したがって1000ヘルツ以下の音なら、例えば通常の女性の会話音の500ヘルツなら1秒に500回信号が送られることになります。より高い歌声の1000ヘルツ(おおむねB5の超高音)なら1秒に1000回信号が送られますから、こちらの音の方がより強く聞こえることになります。応答間隔以上の周波数の音に聴神経がどう反応しているかはわかりませんが、人間の耳は3000~4000ヘルツあたりの音が最も強く聞こえるとされています(等ラウドネス)。
 このことから歌のサビが高音な理由は、物理的に同じ音量(デシベル)だとしても高音の方が耳に強く響き、脳に大きな信号を送れるからだと言えます。したがって歌唱においては高音部の音質と声量が特に重要になります。

脳での情報処理は非常に複雑ですが、歌を聞くことに関して私のごく簡略化した解釈では次のようになります。脳の聴覚中枢では耳から送られてきた情報を分析し、それが言語であればさらに言語中枢に情報が送られ、意味が解析されます。そしてその意味が感動的なものであれば大脳基底核の尾状核や側坐核などの感情や感動の中枢に情報が送られ、そこから伸びるA10神経を興奮させます。
A10神経は快楽神経とか快感神経とか呼ばれ、大脳皮質に広く枝を伸ばしています。これが興奮するとその神経末端から脳の多くの部位にドーパミンが放出されます。ドーパミンは快楽ホルモンとも呼ばれ、快感や意欲を起こさせます。A10神経が興奮してドーパミンが放出される現象が感動するということの正体です。(感動してA10神経が興奮するのではなく、A10神経が興奮することそのものが『感動』)
したがって大きな感動があると大量のドーパミンが放出されそれがさらに周囲の神経を刺激して運動神経などに影響します。感動で鳥肌が立ったり、涙が自然にあふれてきたりするのもそのためです。さらに大きな感動なら体が痺れて思うように動けなくなることもあり得るでしょう。
また大量のドーパミンの放出は強い快感を生むので一種の中毒症状を引き起こし、脳はその快感を得るために何度でも、毎日でもその快感(=感動)を得ようとします。恐らくかなりの数の島津亜矢ファンの方がこのような症状を経験されていることと思います。

B. 島津亜矢の感動を引き起こす力
(1)優れた歌唱技術
プロの歌手であれば音程やリズムの正確さなどの基本的歌唱技術に優れているのは当然ですが、島津亜矢の場合、それに加えて多彩な発声や絶妙なビブラートが歌の表現力を非常に豊かにしています。
① 多彩な発声
 演歌の場合、小節や唸りなど、独特の発声法が歌唱表現に多彩さを加えていますが、島津亜矢は声色(こわいろ、音色)をかなり自由に変えることができます。特に他歌手のカバー曲の場合、例えば「青い珊瑚礁」(松田聖子)や「聖母たちのララバイ」(岩崎宏美)などは動画を見なければ本人歌唱と錯覚するほど声を似せて歌っています。(この3人はもともと声質が似ていますが、松田聖子がより甘い声、島津亜矢が温かい声、岩崎宏美はよりシャープな声です)。
一方、失礼ながら秋川雅史の歌はどれも皆同じに聞こえます。声色が全く同じだからですが、声を大きくするために喉の奥で出す不自然な発声をするために声色が変えられないのだろうと思います。多分唸りなどは全く出せないでしょう。森麻季などの声楽科出身の歌手は大同小異皆同じ声で、美声でありながら声楽系の歌手があまり成功しないのはおそらくこのため(多彩な発声ができないため)です。

② 効果的な裏返り声
 島津亜矢は裏返った声を悲しい歌や哀愁を帯びた歌で非常に効果的に使っています。裏返った声とは裏声(ファルセット)ではなく、泣くときに出すような甲高い声です。「帰らんちゃよか」(LuxmanさんUP)の終わりの方の『心配せんでよか』(3分44秒)や『帰らんちゃよか』(3分58秒)の『よか』の《か》音、「戦友」の『死んだら骨を頼むぞと』(6分34秒)の部分やその他多数カ所、また「大利根無情」でも多数カ所で効果的に使っています。
 この裏返り声は他の歌手はほとんど使っていないようですが、悲しい場面や哀愁を歌う際には非常に効果的です。

③ 絶妙なビブラート
島津亜矢はビブラートが極めて自然です。美空ひばりや天童よしみのビブラートは大きくてやや不自然です。不自然さは感動に大きなマイナス要因となります。その点島津亜矢のビブラートは程よい大きさで大変自然に聞こえます。また語尾の長音だけでなく、時にはフレーズの初めから、短い音にもかけられているような場合があります。「ニコラ」などは全曲通して絶妙なビブラートを堪能できます。
なお、ビブラートをかけて音(声)を上下させると上下させた音のそれぞれの高さに対応した聴神経が反応し、それぞれの細胞が脳に信号を送りますから、ビブラートをかけない時と比べ、聴覚中枢により多くの信号が送られ、聴覚中枢がより強く刺激されることになります。恐らくこれがビブラートをかけると歌がうまく聞こえる理由です。

(2)感情移入の強さ、感情表現の素晴らしさ
 『島津亜矢研究―1』の表7には島津亜矢の歌の内、感動コメントの多い順に20曲が並んでいますが、この内感動の主な理由がはっきりしているのは、家族愛や友情などを歌った歌です。「娘に」、「帰らんちゃよか」、「かあちゃん」などで、これらは歌詞そのものに感動の主な理由があります。
しかし家族愛や友情などの歌詞に感動する場合でも感情表現や感情移入が伴っての感動であることは言うまでもありません。以前度胸船様から島津亜矢の歌は台詞が違うのだ、というご指摘を受けたことがありますが、これも台詞に込めた感情移入の素晴らしさを指されているのだと思います。
私は歌の世界に詳しくないのですが、島津亜矢ほど舞台上で涙する歌手は珍しいのではないかという気がします。吉幾三との感動的な「娘に」や「戦友」、「おさん」などでは確かに涙していますし、LUXMANさんUPの「感謝状」では感情移入が強すぎて声を詰まらせ、半分泣きながら歌っています。「飢餓海峡」も確認できないものの恐らく同じでしょう。

感情表現の素晴らしさの良い例が「津軽のふるさと」です。「津軽のふるさと」は歌詞が特に感動的というわけでもないのに、島津亜矢が歌うと非常に感動的で、genngo 2015の動画では司会者も感動で思わず涙しています。歌声に込められた情感が聞く人の心に響くのでしょう。この歌に関しては島津亜矢は完全に美空ひばりを超えていると思います。
余談ですが、美空ひばりの真骨頂は歌唱技術もさることながら、「車屋さん」や「お祭りマンボ」に見られるような表現(目の表情、品(しな)、身のこなし)や舞台パフォーマンス(特に「美空ひばり名曲メドレー6」における「お祭りマンボ」とそのリズム感)ではないかと思います。島津亜矢もこれらの曲に挑戦していますが、この2曲に限ってはまだ美空ひばりにはかないません。(もっともこれは美空ひばりの個性ともいうべきもので、敵う必要は全くないです。)

感情表現で定評のあるのはちあきなおみで、特に夜の女の哀愁表現では右に出るものがないほど優れています。「かもめの街」などは島津亜矢もカバーし、相当うまく歌っていますが、島津亜矢は声に力がありすぎて基本的にこの手の歌には向いていない感じがします。島津亜矢が歌っているような男歌をちあきなおみに歌わせるようなものです。
また島津亜矢はちあきなおみの「紅トンボ」もカバーしていますが、これを「うまいけど今日で店じまいには思えない」と評した人がいます。この歌(392kidさんUP、2010)を歌い終わった後、ちあきなおみが泣き出しそうになるのを必死にこらえている姿はファンならずとも感動します。いくら島津亜矢が感情移入の名人だといっても、現実にこれを歌い終わったら引退すると決めている人の歌唱と比較するのは無理というものでしょう。

(3)素晴らしい美声
さてしかし感動コメントの多い「望郷じょんがら」や「山河」、「熱き心に」などはいったい何に感動したのでしょう?表8の「哀愁列車」や「ジェラシー」、「夕焼雲」も同じです。これらの歌詞はもちろん素晴らしいのですが、歌詞や望郷の念が感動的かと言うとそれほどではないのは明らかでしょう。また感情表現が特に優れていて感動的なのかというわけでもなさそうです。
これらの歌に共通するのは高音で朗々と歌い上げる部分があるという点です。島津亜矢の本領はまさにこの点、高音を美声で楽々と歌い上げることのできる点にあります。北島演歌や三波春夫の歌謡浪曲、あるいは村田英雄の「無法松の一生」などをご本家以上に歌いこなせるのはこのためです。島津亜矢の一番の特徴はその高音で美しい声にあります。
しかし日本にもこの研究で比較対象とした夏川りみも含め、美声のソプラノ歌手はたくさんいます。私もそれらの歌手を聞き比べましたが、やはり島津亜矢がもっとも感動的でした。何が違うのか、以下『声』に焦点を絞って議論していきます。

① きれいな高音
島津亜矢の声(歌声)の特徴はまず、澄んだきれいな高音ということです。中低音だけでなく、高音になってもまったくかすれたり濁ったりしません。夏川りみや小鳩くるみも同じくきれいな高音を出せますが、由紀さおりは高音でわずかに濁ります。美空ひばり(もともと高音はあまり出ませんが)や天童よしみは高音で声が割れます。

②大声量の高音
次に島津亜矢は大声量で高音が出せます。大声量で高音が出せる歌手というのは非常に少なく、他にもいるかもしれませんが私の知っているのは夏川りみ、山崎ハコと小鳩くるみくらいです。もっともこの3人とも島津亜矢と比較すればより小さい声量のようですし、山崎ハコはややかすれ声です(これがこの歌手の哀調を帯びた歌の良さになっていますが)。声楽系のソプラノ歌手(森麻季など)も上記3人より声量は小さいように思います。

③ 太い高音
第3に大声量ということとも関係しますが、島津亜矢の声は高音で太いです。日本のソプラノ歌手はほとんどが高音だけど細い声ですから、これはかなり珍しい特徴ではないかと感じています。高音で太い声と言うと、マリアカラスが思い起こされますが、この点、島津亜矢はマリアカラスに似ています。声が太いとは一般的には低音を指すのですが、高音で太いとはどういうことかというと、おそらく倍音が多いということだろうと考えています。
倍音が多いと一般的にはにぎやかな音になり、少ないと澄んだ暗い音になるといわれます。フルートなどの木管楽器は倍音が少なく、金管楽器は倍音が多くてにぎやかで派手な音になります。小鳩くるみの声は澄んだきれいな高音で、楽器でいうとピッコロのような音色ですが、島津亜矢はトランペットのような金属的でしなやかな艶のある声です。
一方、夏川りみの声は倍音が多いといわれていますが、聞いた感じでは細い声です。声の太い細いと倍音との関係は正直まだよくわかりません。この疑問はおそらく音響学的に各歌手のサウンドスペクトログラムを採ってフォルマントなどを調べれば、「太い高音」のより科学的な解明ができると思います。
また倍音が多いと当然それぞれの倍音に対応した聴神経が反応しますから、脳に送られる信号も倍音の少ない音(声)より多くなるはずです。つまり聴覚中枢にはより大きな刺激を与えるはずです。これが『太い』と感じることの正体かもしれません。

④ 自然な発声
第4にこれは最初に指摘すべき特徴なのかもしれませんが、島津亜矢の声は大声量でありながらオペラ歌手のような不自然な発声とは無縁の自然な発声です。不自然とは日常会話の発声とは大きく異なるという意味です。
 人の聴覚中枢は人間の声、特に会話音に敏感に反応するよう進化しています。喧噪の中でも脳は人の声を増幅して聞いています。したがって不自然な発声や不自然なビブラートだと人の声として増幅せず、環境音や楽器音だとして一般的な処理しかされない可能性があります。歌に感動するかどうかという点では発声の不自然さは大きなマイナスです。
 もっともオペラが生活に身近であるイタリアなど、ヨーロッパ諸国ではオペラ的発声が脳で不自然とは処理されない可能性があります。日本人と西洋人とで虫の音の脳での処理に大きな違いがあるのと同じようなものでしょう。したがって西洋ではオペラ的発声が必ずしも不自然とは言えないかも知れません。

以上島津亜矢の声の特徴は、①澄んだきれいな高音、②大声量、③太い高音、④自然な発声、にまとめられます。しかしこれらの特徴だけではこれが本当に『感動』の原因なのか、疑問に思われる方も多いでしょう。特段目新しい指摘というわけでもなく、むしろ多くの方がすでにそのような特徴を指摘していらっしゃいます。
ですが、実はこれらの特徴が一人の歌手の声の中に同居した時、驚くような効果が生じる、というのが私の視点であり、結論です。

C. セイレーン効果
(1)セイレーン伝説
この効果を解説するためには『セイレーン伝説』を説明する必要があります。
『セイレーン』とは西洋の伝説上の妖怪で、訳せば『歌怪獣』ならぬ『歌妖怪』とでもなるでしょうか。上半身女の妖怪で海の難所の岩場に住み、船が通りかかると美しい歌を歌い、その歌を聞いた船員は『セイレーン』のところに行こうとして海に飛び込んで溺れ死んでしまい、船は難破する、というものです。ローレライの伝説も同じ類のものです。
これらの伝説の意味するところは、古来素晴らしく美しい歌を歌う女性がおり、その歌声は聞いた者を歌に酔い痴れさせる、あるいは体が痺れて動けなくなるほどの感動を生む、ということでしょう。『セイレーン』が女性であり、サイレンの語源となったことからはこの歌声がソプラノで、かつ海の上で歌って船に届くとされているからにはすごい大声量だったことになります。

(2)セイレーン効果
ところで通常の歌なら感動は歌詞の意味を通じて、つまり言語中枢を経由して生じます。感情表現の素晴らしさも歌詞の意味を強化するもので、感動が言語中枢を通じて生じる構図に変わりありません。したがって歌詞の意味がわからない外国人には感動は生じないでしょう。ところが先にあげた島津亜矢の歌声の主な特徴がそろうと言語中枢を経ないで聴覚中枢から感動中枢に音(声)として直接刺激が伝達され、感動が生じるようです。
良い例が島津亜矢の「I will always love you」で、先のYoutubeの感動コメントの比較ではキーワードがあまり含まれていなくて順位は低かったですが、2015年2月3日にNHKの歌謡コンサートで歌った時には歌い始め後「あやちゃんでツイッター」に2時間で約260もの称賛コメントが寄せられ、内20件(7.7%)が感動コメントです。「涙が出た」とか「鳥肌が立った」などのキーワードの含まれていないコメントでも、ほとんどの人が絶賛しています。
私もこの歌に感激した一人ですが、かといって歌詞の内容に感激したわけでもありません。歌詞の意味は一応わかりますが、英語で生活していない者にとっては、英語の詩が良いかどうか、感動的かどうかはおそらく判らないだろうと思います。
それでもかなりの聴衆が感動したのはまさに歌詞の内容ではなく、大声量かつ美しい高音の歌声が言語中枢を経ずに聴覚中枢から感動中枢を直接刺激しているからだと推定できます。したがってきれいな澄んだ高音を大声量で歌い上げている歌、例えば「望郷じょんがら」「ジェラシー」「思い出よありがとう」などは、日本語の分からない外国人にも一定の感動を与えるはずです。

島津亜矢研究―1の表2から表8を見比べていただくとわかりますが、他の歌手と比べ、島津亜矢の感動コメントの分布には大きな特徴があります。それは数が多いと言うだけでなく、非常に多くの歌にまんべんなく感動コメントが寄せられている、という点です。
美空ひばりやちあきなおみでも感動コメントが寄せられた歌は20曲以下、他の歌手ではさらに少ないです。それに対し、島津亜矢の場合は実に70もの歌に感動コメントが寄せられています。そして悲しい歌、うれしい歌など歌詞の内容にかかわらず感動したというコメントがたくさんあるということは、感動の主な原因が歌詞や感情表現ではなく、彼女の美声によるものだ、ということを強く示唆しています。

以上、島津亜矢の歌が多くの聴衆に感動を与えている最も大きな理由はその歌声が①きれいな高音、②大声量、③太い高音、④自然な発声、であるために聴覚中枢に大きな刺激を与え、その刺激が非常に大きいために刺激が言語中枢を経ずに感動中枢を直接揺さぶるからだというのが私の主張であり、結論です。
このように美しい歌声が言語中枢を経ないで感動中枢を直接刺激し、大きな感動を生む現象は伝説のセイレーンを想起させるものであり、そのような現象を生じさせる歌唱力をセイレーン力と呼びたいと思います。
もちろん島津亜矢の場合、このセイレーン力に、先に述べたような優れた歌唱技術と感情表現が合わさってさらに感動を大きくしていることは言うまでもありません。
また島津亜矢研究―1の表1で明らかな様に、島津亜矢に対する感動コメントは数、割合とも他の歌手を大きく引き離しており、感動コメントの数と割合でこの中間に位置する歌手はいません。このことはセイレーン力はあるかないかという状態しかなく、あれば曲の内容にかかわらず多くの曲で聴衆に感動を与えることができ、なければ悲しい曲など特定の内容の曲だけが聴衆を感動させる、ということを強く示唆しています。
このことはおそらく聴覚中枢から感動中枢に興奮を伝える神経の閾値に関係しているだろうと推定できます。

D. 歌唱力の内容
 セイレーン力は感動力とも言えますが、感動力とはセイレーン力も含め、基礎的技術力や表現力を合わせた総合的概念だと思います。つまり感動力とは歌唱力と同義だと言えます。しかしこれまでセイレーン力を持った歌手が非常に少なかったため(日本では恐らく島津亜矢が最初)、その観点から歌唱力の内容を検討した議論はほとんどなされてこなかったように思います。
そこでこれまでの議論を整理する意味でも、歌唱力の内容を改めてまとめてみました。
表9がセイレーン力という観点から歌唱力の内容を整理したものです。

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E. セイレーン力を生かす道
 島津亜矢はおそらく世界的にも稀な、セイレーン力を持った歌手です。しかし残念ながら、その力は十分発揮されていないように思います。
 まず、彼女の歌声の最も大きな特徴であり、アピール点でもある美しい高音を十分生かした曲が彼女の持ち歌の中にありません。すべての持ち歌が日本人歌手の標準的な音域の中で作曲されています。しかし彼女は「I will always love you」(最高音F#5=740ヘルツ。www41.atwiki.jp/saikouon_dokoda/pages/388.html)や「Unchained Melody」(同C#5=554ヘルツ。www41.atwiki.jp/saikouon_dokoda/pages/608.html)のように、ほとんどの日本人歌手がうまく歌えないような超高音域や高音域を地声で楽々と歌いこなせます。
しかも単に歌いこなすというだけでなく、非常に見事に歌っています。「I will always love you」をWhitney Houstonと聞き比べて見ると全く遜色ないという気がします。また「Unchained Melody」をLeAnn Rimesと聞き比べても全く遜色なく、私的には島津亜矢の歌の方がメリハリが効いていて高評価です。Susan Boyle も「Unchained Melody」を歌っていますが、比べ物にならないくらい島津亜矢の方がうまいです。(なお、島津亜矢の「Unchained Melody」に関してはSinger 3収録歌唱よりもYoutubeの方が良いです。)

島津亜矢の周囲の作曲家が皆標準的な音域の中でしか作曲してくれないので、彼女は「望郷じょんがら」や北島演歌、三波春夫の歌謡浪曲、あるいは「熱き心に」や「花」など、高音のサビがたくさんあって彼女自身が気持ちよく歌える歌を探して歌うようになったのではないかと勝手に推測しています。
そしてその行きついた先が「I will always love you」や「Unchained Melody」などの洋楽というわけです。私の意見ではこれこそが島津亜矢の天才的なセイレーン力を生かせる分野であり、今後の主要目標にすべき分野ではないかと思います。
洋楽の分野には「I will always love you」や「Unchained Melody」などの高音でパワーが必要な名曲がたくさんあります。しかし大声量で美しい高音を歌いこなせる歌手は世界広しといえどもあまりいません。島津亜矢がこれらの歌をWhitney HoustonやLeAnn Rimesと互角以上に歌い、評価されているということはこの分野でも彼女が十分活躍できることの表れです。Mariah Careyへの挑戦などにも大変興味をそそられます。

島津亜矢の本分は演歌であり、彼女自身も演歌に強いこだわりがあるようです。そして日本のsoul music ともいえる演歌を世界に発信できるだけの歌唱力があるのは島津亜矢を置いていないでしょう。一方で演歌の歌詞は日本語ですから、これを彼女が外国で歌った時は私達が I will always love you を英語で聞くのと同じ現象が起こるでしょう。つまり歌声には感激するけど、歌詞の意味がわからないのでそれほど感動しない、ということです。
2015年2月3日にNHK歌謡コンサートで彼女がI will always love you を歌った後の亜矢ちゃんでツィッターに寄せられたコメント約260件の内、感動したというコメント割合は、大半のコメントが彼女の歌唱を絶賛した割には多くなくて7.7%でした。いくらセイレーン力があっても言葉(歌詞)の力が合わさってこそ大きな感動が生まれるということは否めません。したがって海外で評価されるためには、日本語の演歌とともに英語の名曲を多数歌いこなすことも必要です。海外では誰の持ち歌かではなく、純粋に誰が一番うまいかで評価されますから、この点で海外で英語の名曲を歌うことは島津亜矢にとって好都合です。

島津亜矢はこれから英語を本格的に勉強するということですから、おそらく世界の舞台を視野に入れているのだろうと思います。私もそれが正しい方向だろうと思いますし、ファンも期待していることでしょう。したがって彼女なら十分歌いこなせるであろう、高音で美しい英語の名曲をどんどん自分の歌として取り入れていくことが必要です。それと同時に日本語でも彼女の広い音域を生かした、高音部の多い作曲を海外も含めた作曲家に依頼して持ち歌とし、できればヒット曲としていく必要も当然あります。
島津亜矢ももう45歳ですから、ほとんど目立たないとはいえ、歌唱力はピークアウトしています(表現力はまだ向上するでしょうが)。世界の舞台で活躍するために残された時間は必ずしも十分ではないと自覚する必要があります。そして世界で活躍するだけの準備はほぼできており、足りないのは英語の発音と英語で歌いこなせる曲数だけでしょう。
もはやNHKも紅白も美空ひばりも気にせずに、世界の舞台で活躍する準備に集中すべきです。もともと美空ひばりの歌は音域が狭くて島津亜矢の良さを十分引き出せません。歌霊を引き継ぐなどと美空ひばりにこだわりすぎると、島津亜矢の世界的にも稀有な才能を日本の狭い歌謡界に閉じ込めてしまうことになりかねないと危惧しています。

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