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May 2013

 H. kingianaはかなりの稀種で、産地はほんの数か所しか知られていません。その代表的産地はGreat Brak Riverで、Maximaグループの最東端産地になります。


写真(1) H. kingiana  Great Brak River Station 1985.3
写真(1) H. kingiana  Great Brak River Station 1985.3


Great Brak River駅の裏山に大きな群落があったのですが(写真1)、高速道路がそこに作られたので、大部分は工事で削られて無くなってしまいました。


 最近その近くのKlein-Brakrivierで新たな群落が見つかりましたが、Great Brak Riverの群落とほぼ同じ形態です(写真2)。写真(3)はそのうちの1個体です。なお、この群落のすぐ近くにはH. parksianaH. denticuliferaも生えています。


写真(2) H. kingiana Rooiheuwel, Klein-Brakrivier  2003.5
写真(2) H. kingiana Rooiheuwel, Klein-Brakrivier  2003.5


写真(3) H. kingiana Rooiheuwel MH 03-253-1 D=9.5
写真(3) H. kingiana Rooiheuwel MH 03-253-1 D=9.5


 さてSheilamの記事でも少し触れましたが、南アフリカのde Vriesから2006年に10本ほどH. kingiana Great Brak River VdV 138 の実生小苗を買ったのですが、大きくしてみたらどうも様子が変です。


写真(4) H.  kingiana hyb. MH 06-322-1 D=8

写真(4) H.  kingiana hyb. MH 06-322-1 D=8


写真(5) H. kingiana hyb. MH  06-322-2 D=9

写真(5) H. kingiana hyb. MH  06-322-2 D=9


写真(6) H. kingiana hyb. MH 06-322-3 D=8

写真(6) H. kingiana hyb. MH 06-322-3 D=8


写真(7) H. kingiana hyb. MH 06-322-4 D=9
写真(7) H. kingiana hyb. MH 06-322-4 D=9


 写真(4)はそれらのうち最もH. kingianaらしいもので、1本だけ注文してこれが来れば何の疑問も起こらなかったでしょう。ところが大きくした苗の中には写真(5)(6)のようにH. marginataH. albicans)ないしH. carinata n.n.Ashton)そっくりのものがあり、さらにはH. minimaそっくりな個体(写真7)も出てきました。他の個体も同じで、H. kingianaにしてはどうも変な形態のものばかりです。


 これはおかしいと思ってde Vriesに問い合わせたところ、 雑交したらしいとのことです。南アフリカでは相当注意しないと虫が勝手に交配してしまいますから、本人は雑交してないつもりでも実際には雑交してしまい、実生苗をある程度の大きさまで育ててみて初めてそれに気がつくということがしばしばあります。これはSheilamの苗(Bayerの実生苗)でも同じですから、注意する必要があります。


 そこで問題はSTCH. kingiana(写真 8は斑入り) ですが、これもde Vriesからの苗です。


写真(8) H. kingiana hyb. variegated D=8.5
写真(8) H. kingiana hyb. variegated D=8.5


STCの親植物の写真を見ると葉型はもう少し幅広になるようですが、H. kingianaにしては葉裏の白点が少なく、やや白肌なので、おそらく上記de Vriesの交雑苗の一つだろうと推定しています。細葉キンギアナとでも言うべきH. subkingiana n.n. (写真9)は大変稀種ですから、おそらくこれではないでしょう。

 

写真(9) H. subkingiana n.n. MBB 7868 Herbertsdale
写真(9) H. subkingiana n.n. MBB 7868 Herbertsdale, Alsterworthia Int. 11-8


 なお余談ですが、Sheilamの記事中、Sheilamは本来ブドウ農園だと書いたのですが、そこで採れたブドウはKWVという協同組合に集められ、ワインになります。KWVは南アフリカ最大の取扱量を誇るワイナリーで、品評会でもしばしば優勝している有名ブランドです。日本にも輸入されていますので、KWVのワインを飲むときはSheilamで採れたブドウが入っているかも、などと想像しながら飲むのも悪くないでしょう。

 

Dr. M. Hayashi



Sheilamで売られていた植物で、データの間違っていたもの2例を紹介します。同じころに同じものを買われた方は、植物をよくみて確認してください。

 

H. arachnoidea var. arachnoidea  Advice  JDV 93-23 

   2007123本輸入----H. cooperi 様植物

   2008 2 3本輸入----同上

   2008126本輸入----同上

   2010 1 5本輸入----H. tretyrensis 様植物  

 

2007年~2008年にかけて輸入したものは名前(H. arachnoidea)と現物(ほとんどH. cooperi)とがあまりに違うため、疑問に思って輸入するたびに追加で買っていたものですが、いずれも同じ植物でした。

2010年に再びリストに出てきたので、改めて買ってみたところ、今度はH. tretyrensis のような植物が送られてきました。産地(Stytlervilleの東)や表示名 (H. arachnoidea var. arachnoidea) から考えると、これが正しいJDV 93-23だと考えられます。

しかしそうだとすると、2007~2008年に輸入した植物はデータ間違いということで、原種のコレクションとしては全く無価値になってしまいます。廃棄するしかありません。

 

H. decipiens var. minor Palmietrivier  JDV 97-20

 この名で2003年に売られていたものは実際にはH. ianthina  Vetvlei (N. Uniondale) MBB 6937 との混合です。大型で窓が大きく、透明なものはMBB 6937で、やや小型で窓は小さく、鋸歯の多い型はJDV 97-20です。 中間型はほとんどなく、明瞭にどちらかに区別できますから、雑種ではなく、苗(または種子)が混ざったと考えられます。

 

Sheilamに限らず、原種の輸入時には必ず複数本(最低3本、できれば5~10)注文して、名前や産地から考えて不審な形態でないか、あるいは形態に極端なばらつきがないか、等を確認する必要があります。形態のばらつきが大きくてはっきりと2型に分けられるときは2種の混ざっている可能性があります。交配時に雑交したのなら中間型があって形態は連続的になる場合が多いです。

 

Sheilamではないですが、de Vriesから2006年に売られたH. kingiana VdV 138, Great Brak)の実生も10本ほど買って大きくしてみたらどうも様子がおかしいので問い合わせたら、やはりH. minimaとの雑種だった、ということがありました。この場合はそれまで知っているH. kingianaの形態からは連続的にかつ大きく変化しているので、不審に思ったわけです。H. kingianaに近いものもありますが、全く違う形態のものも出てきます。


なおオランダの
STCで売られているH. kingianade Vriesから入手したものなので、あるいはこの雑種である可能性があります。

 

原種の系統や分類を議論する場合は、議論する対象材料が正しいものかどうかを十分吟味する必要があります。例えばHarry Mak(英国在住の香港系中国人)がH. zenigataH. minimaと同じだと言う論文を発表したことがありますが(Alsterworthia Int. Vol. 3: 32003)、掲載されている写真がどう見てもH. zanigataに見えないし、さらにこの植物は仔吹性だと書いています。論文にはこの植物は日本の大森緋可子氏から入手したとあるので大森氏に問い合わせしたところ、どこかのセリ会で入手し、ラベルにH. zenigataとあったのでそのまま送った、ということでした。


当時大森氏は日本多肉植物の会の編集長でしたが、失礼ながらHaworthiaの種名の正しい同定が出来るとはご本人も思っていらっしゃらないでしょう。電話での問い合わせに対し、「自分はわからないが、そうラベルにあったので、そのままそのラベルを付けて送った。」とのことでした。しかしHarry Makいわく、日本の専門的クラブの編集長が送ってきたのだから正しいもののはずである。(H. Makはどこかでそう書いているのですが、どこでそう書いているか、ちょっと思い出せません。)


この問題は大森氏に責任があるわけではないでしょう。彼女はおそらく善意で材料を送ったのでしょうが、問題はHarry Makが送られてきた材料が正しい名前のものかどうか確認せずに、頭から正しいとして議論し、それも批判論文を書いたことにあります。

しかし仔吹性のH. zenigataなど見たことも聞いたこともありません。おそらく大森氏が送ったのはH. minima1タイプかH. minimaの雑種なのでしょう。私はその後Harry Makに正しいH. zenigataを送ってやり、H. minimaと比較するように伝えました。今日ではH. zenigataH. minimaH. kingianaとは異なる、全くの別種であることは広く認められています。H. zenigataに関するHarry Makのこの論文は不正確な材料を基にした誤った議論の典型として長く戒めの見本になることでしょう。

 

分類的議論をする際には正しい材料を入手することは大前提です。正確を期すには1個体だけではなく、産地別にそれぞれ複数個体入手し、群落ごとの変異の幅も把握する必要があります。国内業者からたまたま入手した1 2個体を基に分類論議する人もいますが、『変異の幅』という概念を頭に入れておかないと見当違いの議論になってしまいます。外国から原種を輸入する時も同じで、複数個体輸入して変異の幅を把握するようにしてください。


* * * * * * *


なお記事とはあまり関係ないですが、写真がないとさみしいのでいくつか。


H. cineraria n.n. Apieskloof 青緑色の美しい植物。H. inconfluens等の祖先らしい。


写真1 H. cineraria 04-26-1  D=6 Apieskloof JDV 91-81

写真1 H. cineraria 04-26-1  D=6 Apieskloof JDV 91-81


写真2 H. cineraria 04-122-2  D=6 Apieskloof JDV 91-81

写真2 H. cineraria 04-122-2  D=6 Apieskloof JDV 91-81

写真3 H. cineraria 07-25-2  D=6 Apieskloof  JDV 91-81

写真3 H. cineraria 07-25-2  D=6 Apieskloof  JDV 91-81


数年にわたり複数個体を3回輸入し(MH番号参照)、おおむねこのような形態で安定しているので、これがこの植物の標準的形態だろうと考えられます。

ただしより鋸歯の多い個体もあるようです。(空中庭園ブログ参照)

 


H. caerulea Helspoort


写真4 H. caerulea 04-27-1  D=5 Helspoort MBB 6614
写真4 H. caerulea 04-27-1  D=5 Helspoort MBB 6614


植物自体は珍しくもないが、中には写真のように非常に窓の透明な、美しい個体があります。


Dr. M. Hayashi



シェーラムナーセリーは南アフリカの老舗サボテン園で、ロバートソンという小さな町の郊外にあります。ケープタウンから車で2時間ほどの距離です。


Sheilam Nursery

写真のように広いサボテン畑に金シャチなどが地植えされており、ハオルシアは大部分が温室内に鉢植えですが、硬葉系など一部は地植えになっています。


シェーラムナーセリーというとサボテン園のイメージが強いですが、ここは元来は良質なワイン用ブドウ園で、サボテン園は面積的にも売り上げでもそのほんの一部にすぎません。つまりシュベーグマン一家(Schwegman シェーラムナーセリー経営者の名字)の本業はブドウ園経営で、サボテン園は副業というわけです。


先代の名物女主人(Mrs. Winny Schwegman)はしばらく前に亡くなり、後を息子夫妻が継いでいます。息子さんはブドウ園経営に専念されているようで、サボテン園はもっぱら奥さんのMrs. Minetteさんが切り盛りしています。ブドウ農場にはたくさんの労働者が住み込みで働いていますが、その奥さん連中の一部はサボテン園でも働いています。

 

ハオルシア専用温室は30坪程度のものが4~5棟あり、実生苗などがロットごとに浅い角鉢に植えられています。各鉢には採集番号などのラベルが立てられており、注文があるとMinetteさんが注文票を見ながら苗を抜いて小さな紙箱に1種1箱づつに入れていきます。苗を抜き終わるとそれを入れた箱を作業室にもっていき、そこで前記の女性労働者が包装し、箱詰めするわけです。


問題は包装作業で、紙につつむ際に落としたりすると、下にある箱のどれかに入ってしまい、少し似た種だと分からなくなってしまいます。そこでそれらしい苗を適当に選んで他の苗と一緒に包むわけですが、もしそれが違っていたら、ちょうど1本づつ入れ替わることになります。

複数本づつ注文するとどうもこのようにして入れ替わったのではないかというケースがしばしばありますから、要注意です。


また先代のWinnyさんも今のMinetteさんもハオルシアの分類に詳しいというわけではなく、名前(ラベル)の管理はBayerが時々来て行っています。したがって植え替えなどでラベルを間違ってもBayerがそれに気がつかなければそのまま売られてしまいます。

名前はセタタ系なのに、注文したらまったくクーペリーみたいな苗が来たという場合もしばしばあり、そのようなときは何年かおいて複数回同じ採集番号のものを注文してみないと本当にその番号の植物かどうか確認できないということもあります。


さらにBayer自身が実生のときに種子を混ぜてしまったか、小苗の植え替え時に誤って一緒にしてしまったか、同じ採集番号なのに明らかに別種がミックスされて売られていたケースもありました。


このような問題はシェーラムに限りませんが、原種の輸入にあたってはその苗の採集番号が本当に正しいか、十分注意してください。


Dr. M. Hayashi


2013年度の年会費は29号分だけの3000円です。30号は写真集(約300ページ)の予定で、別料金となります(会員割引あり)


すでに5000円を送金された方は2000円分を2014年度の会費の一部に充当させていただきます。

送金は28号に同封する振込用紙でお送りください。


なお、28号は最終仕上げの段階ですが、発送までには少々時間がかかります。もうしばらくお待ちください。




H. joubertiiの産地はLaingsburg の東南約40 kmのVleilandやその周辺で、大カルーと小カルーの境目にあたります。群落は非常に小さく、10~20 m四方の中におおよそ50個体ほどがまばらに生えており(現地写真)、このような群落が5~10 km程度ずつ離れて3ヶ所ほど確認されています。ただし探せばそれらの中間にも小さな群落の有る可能性はあるでしょう。

現地写真 H. joubertii MH 03-300 Vleiland
現地写真 H. joubertii 03-300-3  Vleiland


レース系の中でも最も美しい種の一つですが、同時に最も変異の大きな種です。ハオルシア研究25号に紹介されたような変異はすべて同じ群落(Vleiland)からの実生苗ですから、種内変異というより群落内変異が大きいと言えます。

これはこの種がおそらくH. limbataとH. albispina(またはH. scabrispina)などの雑種起源の種で、種が成立してから日が浅く、まだ群落内 (種内) が遺伝的に均質になっていない、つまり祖先種の遺伝子が群落内でまだ十分混ざり合っていない、ことを示しているものと思われます。

したがって実生するとH. albispinaのような強刺でやや白肌の個体から、H. limbata のように黒肌で気泡紋のある個体、およびそれらの形質がさまざまに混じり合った個体などが出現するわけです。

 

このような種は遺伝的に必ずしも安定ではないので、培養すると同一クローンでもさまざまな培養変異が出現します。

写真01 H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真02 H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真01                       写真02

写真03 H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真04 H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真03                       写真04

写真05 H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真06  H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真05                       写真06

写真07  H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真08 H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真07                       写真08

写真09 H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真10  H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真09                       写真10

写真11 H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真12 H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真11                       写真12

写真13 H. joubertii  03-300-3  Vleiland写真14 H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真13                       写真14

写真15 H. joubertii  03-300-3  Vleiland
写真15

写真1~15はH. joubertii Vleiland  MH 03-300-3 の培養苗です。これらの写真は特に変異の大きな株を集めたものではなく、たまたま1カゴ(24鉢入り)に入っていた株を適当に写したものです。すべて同一クロ-ン(ラメート)ですが、写真で見る通り、非常にさまざまな変異が確認できます。

例えば写真1, 5, 7, 9 などは標準株(親株)よりかなり短葉で、そのうち写真5、9 は刺も短くなっています。反対に写真3や15はかなり長刺です。一方、写真10や13のように非常に弱い刺の株も出現します。さらに写真5, 8, 11, 12, 13 は標準の明緑色ではなく、暗紫色の葉色をしています。

このような培養変異がどの程度安定しているかですが、これまでの培養例からするとかなり安定した変異だと考えられます。また同一クローンでも変異した株の間では交配可能だという報告もあり、今後確認する予定です。

なお、これらの写真はUPで撮っているので、H. joubertiiがH. setataやH. albispina、H. limbata、H. phelemanniae 等、周辺のどの種とも異なる特徴をもった独立種であることが明瞭に理解できることと思います。

Dr. M. Hayashi

 

 

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