Bayeri 林 雅彦
ひと昔前まではコレクタと言えばそのすべてが今日のH. bayeriでした。しかしコレクタの語源であるH. correctaのタイプ写真をよく見ると、その植物はH. bayeriではなく、明らかにH. picta (H. emelyae)の仲間であるとされています(この見解に若干疑問がありますが)。
そうするとそれまでH. correctaとされてきたUniondale産の植物には名前がないことになり、新たにH. bayeriと命名された次第です。ただそれまでコレクタという名はこの仲間の一般的名称として広く使われているので、園芸名(コレクタ類)として転用することにしたものです。
それまで知られていたコレクタ類でH. bayeri以外のものは、吉沢コレクタ、高橋コレクタ(ともにH. laeta)と小林ユニオン(H. hayashii)だけです。スコットコレクサは雑種です。有名な江隅ユニオンは典型的なH. bayeriで、佐藤ユニオンもH. bayeriです。
H. bayeri以外のコレクタ類がまとまって入ってきたのは特網コレクサと一緒に大量のH. laetaが入ったのが最初で、およそ30年ほど前のことです。その後H. hayashiiが紫コレクサとして輸入され、さらに最近になってH. jadeaやH. indigoa、H. truteriorumなどが発見されています。ただ輸入された数はごく限られています。
H. bayeriは暗緑色中小型で成長が遅いので、最近ではJupiterなど大型のH. laetaに押されて影が薄くなっています。しかし小苗の時から窓の折線模様が明瞭に表れ、サイズもおおむね3号鉢に収まるので手ごろです。ベランダや窓辺でハオルシアを楽しむ一般の趣味家には、直径12~13cm以上にならないと親の顔が出てこないH. laetaより手軽に窓模様を楽しめます。
H. bayeriの中には特に線が太くて明瞭なものがたくさんあります。そのほとんどは知られていませんが、ここではそのいくつかを紹介します。
写真①は「陽明」で、“L-1”とか“小林No. 1”とか呼ばれていた個体です。古い品種ですが、外側に折れる鮮明な折れ線模様が組み合わさって、典型的な”コレクタ模様”となります。
① 「陽明」 多肉植物写真種1-43 より引用 ② 「竜珠」 Uniondaleの丘にて
写真②は「竜珠」で、Uniondaleの丘で採集された時の写真です。非常に太い線が窓の端まできっちり入る特優品で、模様の他に、先端が丸く、中央部が盛り上がった窓の形に特徴があります。この形質は遺伝性が強く、実生苗には葉先が丸いダルマ葉で、窓中央が盛り上がった「真珠雲」などの非常に優良な品種が出ています。
写真③はそのような竜珠実生の一つ、「新竜珠」で、竜珠に非常によく似ていますがより大型で模様もより複雑です。
③ 「新竜珠」 D=14cm ④ 「竜華珠」 D=12.5cm
写真④も竜珠実生の「竜華珠」で、模様や線の太さは「竜珠」に非常によく似ており、また、葉型や窓の盛り上がり方もそっくりです。しかし竜珠よりはるかに大型になる特優絶品です。
写真⑤は「天狼コレクサ」で、葉形などは標準的なH. bayeriですが、線が特に太く鮮明で、かつより複雑になっています。写真①と比べてみてください。
⑤ 「天狼コレクサ」 D=11.5cm ⑥ 「輝琳」 D=13cm
写真⑥は「輝琳」(きりん)でH. bayeriとしては大型です。ただ大型と言っても「江隅ユニオン」と同じく、株の直径が大きくなるという意味で、葉幅は一般的なH. bayeriと同じです。
窓は明るくて艶があり、特に線が白くて一部の葉には白雲が出ます。「ジュピター」実生には白雲の出る個体がたくさんありますが、H. bayeriで白雲の出る個体は非常にまれです。
なお、写真①、②、⑤、⑥は野生株選抜品です。
写真⑦はH. bayeri実生の「マイウェイ」(My Way)です。小型ですが白線が極めて鮮明でかつ顕著な白雲が出ます。肌色が濃いので地と白線とのコントラストが非常に高く、模様が際立ちます。
⑦ 「マイウェイ」 D=9cm ⑧ 「トロイカ」 D=8.5cm
写真⑧、⑨はH. bayeri実生の「トロイカ」です。「マイウェイ」と反対に地色は薄いのですが、白線が極めて白くて太く、そこに大きく白雲が入ります。線の白さ、太さではおそらく全コレクタ類中一番でしょう。また白線の入り方、模様、雲の入り方は葉ごとに大きく異なり、葉1枚ごとに異なった「雪の白樺並木」を見ているようです。ここから「トロイカ」(ロシア民謡)と命名されました。
H. bayeriは中小型暗色で、地味な存在でしたが、白雲の出る品種が出現して変異の幅が大きく広がったことで、今後は必ずしもマニアではない、室内栽培やベランダ園芸などの一般的趣味家の方にも窓模様の変化を楽しんでいただけるようになると期待しています。