「シンビ系とオブト系の色変わり品種」  林雅彦

色変わり品種の代表は斑入りだが、最近は薬をかけて斑入りを作る技術が普及して、多くの品種で斑入りが作られるようになってきた。
組織培養でも斑入りがしばしばできるが、薬をかけて作る方がはるかに効率良く斑ができるので、斑入りの価格は以前の1/10以下になっている。今後もさらに価格低下は進むと思われる。

 ‘赤い鳥’などは薬をかけて生産されているわけではないので、繁殖スピードは遅いが、一方で高価であればあるほど、多くの人が熱心に繁殖するので、これもいずれ価格は低下していく。

例外はノリ斑で、ノリ斑は培養でも薬品でも作るのが難しく、さらに葉挿しや胴切りでも繁殖不能なので、今後も品不足は解消されないと見込まれる。

‘白蛇伝’などは大型で非常にきれいなノリ斑品種だが、自然仔吹でもよい斑の小苗はなかなか取れない。以前は良斑の大苗でも3~4万円で買えたものが、現在では10万円を超えることが多く、以前より高価になっている。

ノリ斑新品種の‘白狐伝’も最初の取引(昨年のハオフェス)では4万円だったが、今では同程度の大きさの苗(中苗)で10万円以上する。これも当面価格低下は見込めない。

ただし、‘ミルキークラウド’(異名:白水晶、ピリフェラ錦、孔雀オブツーサ錦、アイススプライト、他)や‘仙女香’など、仔吹のよいものはノリ斑でもよく殖えて普及している。

ここで、斑のでき方を整理すると、実生や枝変わりなど、自然にできた斑入りの「自然斑」、培養でできた斑入りの「培養斑」、薬品処理でできた斑の「薬物斑」の3タイプに分けられる。培養斑や薬物斑は「自然斑」に対して「人工斑」とまとめられる。

人工斑は自然斑より消滅してしまう確率が高いようで、8割以上は5年ほどで斑抜けとなり、または全斑となって枯死してしまう。薬物斑はもともと薬害による後遺症なので、一見見事な斑入りでも時間がたてば症状が回復する(つまり斑抜けになる)確率はかなり高いと思われる。

ただし人工斑でも中には安定した斑入りとなって成長を続ける個体もあるので、斑が抜けやすいということを覚悟した上で、かつ、あまり高価でなければ挑戦してもよいかもしれない。

さて、色変わり品種というのは基本的に葉緑素が少ないので、原品種より弱いのは仕方ない。しかしシンビ系やオブト系の中には丈夫な色変わり個体や、繁殖のよい、きれいな赤系の斑入りがある。ここではそのいくつかを紹介する。

① キョンシー1  D=9
 写真① キョンシー1 D=9

写真①はシンビ交配実生のキサンタだが、非常に淡色で、一見死んでいるのではないかと思わせるので、‘キョンシー’と名付けられた。50%寒冷紗3枚(遮光率87.5%)の条件で栽培しているので日焼けということでもない。見かけがあまりに淡い色なので葉が細菌に侵されて死にかけているように見えるが、葉はしっかりしており、植物体を触っても根は全くぐらつかない。

これまでのところ非常に丈夫であることは確かだが、このまま成長するかどうはもう少し様子見が必要と思われる。これまでのところ仔吹はなく、葉挿しも胴切りもしたことはないが、あまりに葉緑が少ないので、はたして繁殖に成功するかどうかはわからない。

② 半夏生  D=10
 写真② ’半夏生’ D=10

写真②は‘半夏生’で‘キョンシー’の兄弟である。‘キョンシー’ほどではないが、やはりかなり淡色で全体が半透明。‘キョンシー’より大型幅広葉で葉先には多数の小窓がある。外葉はやや淡紅色を帯びる。この個体もこれまでのところ仔吹しないが、片親がシンビであることは確かなので、大きくなれば仔吹するかもしれない。

③ トランシエンス キサンタ   D=4.5
 写真③ トランシエンス キサンタ D=4.5

写真③はトランシエンスのキサンタと思われる個体で、全体が非常に透明な薄黄色である。トランシエンスには他にも何個体かこのような色になるクローンがある。このような色になる現象は‘福美人’(H. rotunda hyb.)やH. hogsiaの小苗の時にもしばしば見られるが、これらの品種や種では大きくなると普通の色(薄緑)に戻ってしまう。
一方、③個体などトランシエンスの場合はこの色調がずっと維持される。写真は8月に撮ったので、休眠状態であまりみずみずしさがないが、春の成長期は大きな透明窓と相まって非常にきれい。

④ ピンク肌トランシエンス  D=4
 写真④ ピンク肌トランシエンス D=4

写真④はピンク色のトランシエンスで複数個体あり、いずれもこの色調が一年中維持される。写真③と同じく、8月の撮影なので休眠状態で色も褪せてくすんだ感じだが、春の成長期には非常に美しいピンク色をしている。外葉がややピンクになる個体はシンビ系で時々あるが、H. roseaを除けばこの個体が最も濃いピンク色で、しかも葉先が透明で全体も半透明なので、非常に美しい。

⑤ 赤斑マリン D=5
 写真⑤ 赤斑マリン D=5

⑥ 里の秋(京の花火赤斑)D=9
 写真⑥ ’里の秋' (’京の花火’赤斑) D=9

⑦ 桃色オブト錦 D=7
 写真⑦ 桃色オブト錦 D=7

写真⑤、⑥、⑦の株はいずれも遮光率87.5%で栽培されているオブト系赤斑だが、より強光下で栽培すればさらに濃色になる。赤斑はこれまで少なかったこともあり、また派手できれいなので、今後の主要な育種目標である。

写真⑤はマリンの枝変わりで、斑色が橙紅色になるものである。かなり濃い、きれいな赤斑である。しかしこの個体以外にもマリンの枝変わりや実生苗から赤斑が結構出現しているのではないかと推定される。オブツーサより繁殖はずっと良いので、オブツーサの赤斑より安価に流通するものと思われる。
マリンでも斑性のよいものはオブツーサ錦に負けず劣らずきれいだし、加えてより丈夫だから、一般愛好家にはむしろマリンの方がおすすめである。(私見では、マリンの良斑はオブト錦より透明感が高くて観賞価値が高い。)

なお、この株はマリンとして入手したが、葉がやや不透明なのでマリンというより正しくはキリンであろう。ただ両者とも宝草錦x紫オブトの実生兄弟であり、戻し交配やマリンxキリンなどが多数作られているので、中間型も非常に多く、今日では両者を区別するのはかなりのベテランでも難しい。そうすると品種としては両者は融合してしまい、先に命名されたマリンが全体のグループ名になる。(グループ名なので引用符‘ ’は付けない)

写真⑥は‘里の秋’(‘京の花火’の赤斑)で、ハオルシア研究32号13頁の個体とは別個体である。ハオ研誌の個体より赤色はやや薄いが、やはり非常にきれいな斑入りである。‘京の花火’は‘京の華錦’に紫オブトをかけたもので、多くの実生が作られているから中にはこのような赤斑が出現してもおかしくない。あるいは普通の紫オブトではなく、より濃色の‘恋紫’やブラックオブトをかければ相当な確率で赤斑が出現するであろう。

写真⑦はオブト錦のピンク斑である。写真ではあまりきれいに発色していないが、実物はきれいなピンク色をしている。

オブト錦もマリンや‘京の花火’と同じで、同じ又は類似の組み合わせで繰り返し交配され、実生されているので、その中には赤色素の濃い個体も当然ある。‘黒肌オブト錦’(赤斑)や‘赤い鳥’は花水晶が祖先と思われ、葉先は尖るが、葉先の丸い紫オブト型の赤斑はまだかなり少ない。しかし⑤や⑥のような赤い色素を持ったマリンや里の秋に丸頭の紫オブトや‘恋紫’をかけていけば丸頭の透明感のある赤斑ができると見ている。

紫オブトそのものの斑(=花紫)は非常に透明感があってきれいだが、やや弱く、かつ全斑になりやすい。マリンや里の秋から作られた赤斑なら、それと同等にきれいでかつ丈夫で繁殖容易であることが期待される。

シンビ系(レンゲ系)は丈夫なので一般愛好家向きだが、色に変化が少ないのが欠点であった。白や黄色、特に赤色系などの品種が育成できれば、ハオルシアの一般園芸化に大きく寄与するであろうと期待している。

一方、オブト系の斑入りもマリンや‘京の花火’も含め、斑入り同士や紫オブトなどとの戻し交配などで非常にたくさんの実生斑入りが作られている。それらは互いによく似ており、ほとんどの個体はラベルなしでは識別できない。つまり品種ではない。

しかしこれら識別困難な実生個体に、名前を付ければ売れるからと片端から名前を付けて売り出す悪質な業者が複数いるので、注意した方がよい。それらの名前は別クローンであることを示す単なる記号であり、品種名ではない。

以前にも指摘したことだが、玉扇や万象、コレクサなどでは有名品種そのものの斑入り以外は‘大海原’などごく少数の例外を除けばすべて単に玉扇錦、万象錦、コレクサ錦(ベイヤリー錦)で流通しており、それで何の不便も混乱も生じていない。

反対にこれら非常にたくさん実生されている玉扇錦、万象錦、コレクサ錦に、別クローンだからと言って片端から名前を付けて売り出したら、消費者は大迷惑だし、混乱する。新品種だと思って買ったら、その後、類似個体がたくさん売り出されてラベルなしでは区別できない、つまり品種ではなかったとなったら、がっかりするし、多大な損でもある。

マリンでも宝草錦に近いものからオブト錦に近いものまで、非常にたくさんの実生苗が作られているが、すべてマリンで流通している。購入者は写真で商品(マリン)の斑まわりや斑性を見て購入を判断しており、それで何の混乱も起きていない。

オブト系斑入り個体でも類似個体群は玉扇錦、万象錦、コレクサ錦と同じく単にオブト錦として扱われるべきものである。斑入りの場合は名前(クローン)の違いよりも、その個体(商品)の斑まわりや斑性を見て購入を判断すべきことは玉扇錦、万象錦、コレクサ錦などの場合と同じである。「新品種」や「実生選抜」などという表示にだまされて識別困難な類似個体に飛びつかないよう注意した方がよい。

なお余談だが、最近海外から輸入されるハオルシアには名前がいい加減なものが多い。最近気が付いたものを一つ挙げると、“巨人兵”や“ブラックオルペウス”と呼ばれる‘オラソニー’似の個体は‘キューピット’と同一個体と思われる。つまりこれらの正名は‘キューピット’であろう。

「リビダのタイプ」へのコメントへの回答

「リビダのタイプ」の記事(→リンク)へ質問コメントを頂きましたので、こちらで回答します。


コメント:
「MH管理番号は同採集番号でも違う管理番号とされているのですね。MH管理番号から採集番号及び産地を検索できるものはありますでしょうか。

昔ハオフェスで私の持っているMH番号の苗の出自をお伺いしましたが「わからない」と言われてしまい原種好きの趣味家としては採集番号を変えて別名販売されている様に感じてしまいました。」


回答:
MH番号では同一採集番号の輸入苗でも、輸入毎に別のMH番号を付けています。これは私(林)に限らず、BayerでもBreuerでも同じです。
例えばMBB番号の付いたものはすべてBayerの採集品というわけではありません。MBB番号でもその中にはMarxが採集したもの(したがって別のGM番号がある)やVenterが採集したもの(同)、Jaarsveldが採集したもの(同)等が相当数含まれています。


同じく、IB番号の付いたものの中にも、Bayerの採集品やMarxの採集品、Cummingの採集品など相当数含まれています。

私はBayerの採集データ一覧表、Venterのデータ一覧表、Breuerのデータ一覧表を持っていますから、例えばBayerのxxx番の苗はVenterのyyy番の苗と同一であり、それらはそもそもJaarsveldが最初に採集したzzz番の苗である、などということを調べられます。

しかしこれら採集データ一覧表は採集者にとって極めて大事な資料ですから、よほど親しい人でない限り入手できませんし、入手の際には誰にも開示しないことなどの条件が付きます。

そのような次第で、一般的に写真などで植物を紹介する際には、自分の整理番号(採集番号)だけを表示します。もちろんその番号の苗が自分の採集品なのか、誰かの何番の採集品なのかはデータとして記録してありますから、調べればすぐわかります。

したがってMH番号がわかれば原データや産地は原則すべてわかります。しかし中には原データのないものや産地名のないものなどもまれにあります。これはMH番号に限らず、MBB番号でもJDV番号でも同じで、原データや産地名がなくても重要なサンプルだと思えるものには自分の番号を付けて管理するのが一般的です。

今回のブログ写真では説明に必要だったので元データを表示しました。説明上その方がわかりやすいからですが、必ず原データを表示しなければならないわけではありませんし、そうしなかったからと言って非難されるいわれもありません。

まして私はリビダを売っているわけでもなく、商品の宣伝をしているわけでもないのですから、別名販売うんぬんは全く失礼です。

MH番号の苗の出自に関しては出自が全く分からない(データがない)のか、調べればわかるのかは、自宅パソコンで検索して初めてわかることです。

したがってハオフェスの会場で検索もしないで「わからない」(データがない)などという返事をするはずがありません。おそらく「今この場所ではわからない」という返事をそのように誤解されたのでしょう。

リビダのタイプ

 リビダは非常に人気のある品種群ですが、いろいろ集めてみると窓の状態などにより、どうも次のように斑紋型、網紋型、カメオ型の3タイプがありそうです。

斑紋型
 リビダとして日本で見られるものの大部分はこれで、小型短葉、葉はおおむね展開性(横に広がる)です(写真1~4)。窓は小さな斑紋状で互いに連結しない個体が多いですが、中には斑紋が大きくて葉脈が格子状に残る個体(写真3、4。2018年7月のブログの写真1、2と同一個体)もあります。ただこの場合でも斑紋はほとんど連結しません。

(1) MH 10-164 (寺町輸入)D=7.5
 写真1 MH10-164(寺町輸入)D=7.5

(2) MH 14-137 = JDV 88-31  D=6
 写真2 MH14-137(=JDV88-31) D=6

(3) MH 17-37 = JDV 88-31  D=4.5
 写真3 MH17-37(=JDV88-31) D=4.5

(4) MH 16-140 = JDV 88-31 D=6
 写真4 MH16-140(=JDV88-31) D=6


網紋型
 写真5~7は日本(おそらく他国でも)ではほとんど見られないタイプで、葉はやや細く長く、立性(葉は直立する)です。特筆すべきは非常に大きな斑紋で、多くの部分で連結して格子状の窓を形成し、斑紋というより網紋という方が適当です。窓の透明部分が大きいため、葉全体が透けたように見え、さらに葉が長くて立ち性なことも窓を鑑賞するうえで非常に好都合です。

(5) MH 17-35 = JDV 88-31  D=6
 写真5 MH17-35(JDV88-31) D=6

(6) MH 17-36 = JDV 88-31  D=6
 写真6 MH17-36(=JDV88-31) D=6

(7) MH 14-40  Marx 実生 D=6
 写真7 MH15-40 Marx実生 D=6


カメオ型
 写真8はカメオと名付けられた個体で、この写真は協会ホームページの冒頭にも使われているので多くの方がご覧になっていることと思います。おそらくもっとも初期に日本に来た個体ですが、タイプ的には非常に稀なタイプです。大型太葉で斑紋が大きく、時に連結しますが、あくまで斑紋で、格子状窓にはなりません。
 このタイプに属するのはカメオの他には私の知る限り、Battistaの個体(写真9)がいくつかあるだけです。

(8) H. livida ’カメオ’
 写真8 H. livida ’カメオ’

(9) MH 14-33  Battista-3  D=5.5
 写真9 MH14-33 Battista-3 D=5.5

 写真10はリビダ系交配種で、大型で非常に大きな斑紋が葉の表裏全面にある個体です。写真4の個体に似ていますが、斑紋に稀に肉芽があることから交配相手はゴジラ(大型強刺パリダ)ではないかと疑われます。ただリビダとパリダは通常は花期が合いませんので、別組み合わせの可能性もあります。

(10) リビダ系交配 D=8
 写真10 リビダ系交配 D=8

ところで写真2から6までの5個体は2014年から2017年にかけてJDV 88-31として輸入した個体です。つまりJ. D. Venterが1988年に同一群落から採集した個体、またはその繁殖品です。

そうすると斑紋型と網紋型は同一群落に生えていたことになるわけですから、日本国内に出回っているリビダの大部分が斑紋型だとしても、それら同士の交配実生苗の中からでも網紋型が出現する可能性はかなりあるはずです。観賞上(園芸上)、網紋型の方が高く評価されるでしょうが、リビダの実生がたくさん作られれば、その中の網紋型リビダもいずれ市場に出回るようになると期待されます。

 リビダは人気品種のため、まだかなり高価ですが、葉挿しは意外と容易で、また結実性もそれほど高くはないですが紫オブトやベヌスタよりはずっと良く結実します。したがって斑紋型はもちろん、網紋型もいずれ繁殖されて価格は低下していくはずです。

カメオ型は親個体が非常に少ないので、急速な繁殖は難しそうですが、結実性は非常に良いので、これも時間がたてば繁殖されていくでしょう。

 なおリビダの祖先はプベセンスと見られますが、プベセンスの中には写真11のように表皮が非常に薄くなり、表皮の一部が不明瞭ながら斑紋状の窓になっている特異個体があります。この斑紋状の部分が発達してリビダになったのではないかと思われます。

(11) H. pubescens MH 16-142  D=4.5
 写真11 H. pubescens MH16-142 D=4.5

 写真11の個体は2018年7月のブログの写真3で、「プベセンスとして輸入したが、斑紋状の窓が出てきたのでどうもリビダらしい」と紹介した個体です。それからちょうど1年後の写真というわけですが、プベセンスの特徴である細かな繊毛が非常に顕著になっており、やはりこれは輸入時の名前の通りプベセンスと見るのが妥当なようです。

 産地的にはプベセンスとリビダは同じ丘に生えており、混生はしていないようですが、このような中間型個体がどの程度あるのか、種、あるいは群落としてどの程度分離されているかなどは今後の調査が必要です。

☆コメントは承認後に公開されます。
☆品種等の質問はハオルシア協会会員に限定します。

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