日本ハオルシア協会 Official Blog

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 多肉植物の販売は1960年代ころまではほとんどが専門業者の店頭販売かカタログ販売であった。それが次第に日本多肉植物の会など、愛好家団体の集会における交換会(セリ会)に移行し、専門業者ではなく、一般愛好家が売買の中心になってきた。

 

 これら一般愛好家の販売は一人当たりの販売額は小さいが、人数が多いので流通量()全体としてはおそらく専門業者のそれより大きいのではないかと推定される。

 

 さらに最近ではハオルシアを含む多肉植物の売買の大部分がヤフオクやメルカリなどのネットオ-クション、あるいはヤフーショッピングや楽天市場などに移行している。ここで売買しているのは大部分が一般の愛好家で、中には業者顔負けの量を販売するセミプロと呼ばれる人もいる。

 

 また多肉植物以外の一般的商品、バッグや小物、電化製品、パソコン関係の機器などでは海外、特に中国のアリババなどで格安に仕入れてアマゾンで売る、という商売が盛んであるが、ハオルシアではアリババで仕入れてヤフオクで売るというルートが中心である。

 

 ところがそのような人たちの大部分はハオルシアのことはほとんど知らないのに、単に儲かりそうだからという理由で参入した全くの素人達である。全くの素人なので園芸的な知識がほとんどなく、基本的な概念も学習していないので、とんでもない名前で売られる商品も多い。

 

 そこでここでは園芸におけるもっとも基本的な概念である「品種」について改めて解説する。

 

 品種(cultivar)とは種の園芸的な下位区分で、分類学的な区分ではおおむね"forma”に相当する。自然界に存在する変異個体群でも、園芸的に扱う時は品種として扱う。

 

品種とはどんなものかは世界的に共通の認識が確立している。すなわち品種とは何らかの特性を共有する種内変異群で、その特性が明瞭で、均一で、安定している集合とされる(国際栽培植物命名規約 2 定義 22.2)。

 

また日本の種苗法でも品種登録の要件として第3条で、

1 品種登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること(区別性 distinction)、

2 同一の繁殖の段階に属する植物体のすべてが特性の全部において十分に類似していること(均一性 uniformity)、

3 繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと(安定性 stability)、 と規定している(DUS基準)

 

もう少し詳しく説明すると、

1 特性が明瞭とは類似の他の集合(品種)や個体と何らかの特性により明瞭に区別できることであり、区別できる基準は一般人である。つまり顕微鏡やDNA鑑定でしか区別できないものはこの基準に当てはまらない。

 

2 均一性とはその集団のすべての個体が上記1の特性において十分に類似していることである。

 

3 安定性とは繁殖後でも上記1の特性が維持されることである。斑入り品種において繁殖苗に斑抜け個体が出現しても、斑入り個体も繁殖可能ならこの要件は満たされる。

 

以上のように品種の要件として最も基本的なものは、類似の他品斑や他個体から明瞭に区別できるかという点である。そしてこの点に関してもっとも簡潔明瞭な基準はラベルなしでも区別(識別)できるかということである。

 

たとえば「阿房宮」と「光鳳」は非常によく似ているが、互いに交配できるので別個体である(ハオルシアは自家不和合性なので同一個体(クロン)間では交配できない)。しかし一般人には全く識別できないので品種的には同一品種である。この場合、「光鳳」はクロン名(個体名)となる。

 

クロン名は品種の下位区分名で品種内の遺伝的系統を示し、ランのグレックス“Grex”に似た概念である。組織培養ではさらに同一クロン内の細胞系統を示す〝Cell Line(細胞系)という概念もある。

 

また例えば「紫オブト」ではさまざまな名前が付けられているが、そのほとんどはラベルなしでは識別不能なので品種とは言えず、これらの名前もクロン名である。識別可能なのは大粒の「仏頭玉」や非常に大型の「天涯オブト」などの個体と、黒肌で硬質透明な窓の「恋紫」(金子特黒オブト)くらいである。

 

さらにオブト錦には様々な名前の商品が売られているが、「花水晶」など非常に特徴のある個体や、「白蛇伝」「白銀の露」などのノリ斑を除くとほとんどの商品はラベルなしでは区別がつかない。つまり様々な名前で売られているオブト錦は品種的にはほとんどが「オブト錦」という同一品種であり、現在売られている名前は品種名ではなくクロン名である。

 

クロン名は遺伝的系統を示すので交配時には有用であり、現在付けられている商品名(クロン名)を廃棄する必要はない。しかし販売時には「オブト錦」という一般人が区別できる品種名をクロン名に併記しないと消費者の誤認を招く可能性がある。

 

オブト錦では交配によりさまざまな斑入りが作出されており、識別が難しくなっている。クロンが少ないときは一定の特徴で識別できても、交配が進んで中間型が多数作られると識別不能となり、すべて「オブト錦」となってしまう。

 

例えばオブト類の斑入りが非常に少ない時に発表された「残雪オブト錦」はその時点では、類似個体がなかったので品種名であったが、その後非常に多くの類似のオブト錦が発表され、現在ではラベルなしでこれを他のオブト錦と識別することは不可能である。

 

つまり当初は品種名であっても類似個体が多数作出されてそれらと識別不可能となるとクロン名となってしまい、品種としては類似個体全体が「オブト錦」ということになる。

 

オブト錦の中で現時点で一般的な「オブト錦」と識別可能なのはマリンや京の花火(花火)など表皮が薄く、鋸歯の少ないグループと、安定した赤斑のグループで、それぞれ「マリン」、「オブト錦赤斑」と言う品種名が付けられる。他の大部分は品種としては単に「オブト錦」である。ただし「マリン」は今後さらに「オブト錦」と交配が進み、最終的には「オブト錦」に吸収されてしまうと見られる。

 

また「桜水晶錦」(エメラルドLED錦) と「翠雲錦」はともに葉や表皮が非常に薄く、鋸歯も多い点などから「オブト錦」とは識別可能で別品種と見られる。ただし「桜水晶錦」と「翠雲錦」は識別が難しく、同一品種の可能性がある。

 

先に述べたように一般人にはクロン名だけでは商品を識別することは不可能なので、販売時には一般人にも識別できる名前である品種名を併記しないと消費者が商品の品質を誤認する危険性がある。

 

例えば弁天錦(広瀬オブト錦、別系オブト錦)の場合は「オブト錦(弁天錦)」、あるいは 弁天錦「オブト錦」 などと表示すればこの商品が「オブト錦」の1型(クロン)であることが明示される。

 

品種名は本来一重引用符(‘)で前後を囲む規定だが、日本語では一重引用符はなじみが薄く、見落とし易いので代わりにカギ括弧で囲むことを推奨する。

 

品種名は類似他品種などと識別可能なので、それが併記してあればなじみのない、あるいは新しいクロン名の商品でも消費者はカギ括弧内の品種名を頼りに購入の是非を検討できる。逆にクロン名だけで販売すると不正競争防止法の誤認惹起に問われる可能性があるので注意していただきたい。


 

ネコ苗にご注意   林 雅彦

 

最近中国から輸入され、非常に安価にかつ大量に販売されている優良品種(?)の苗があります。これらの苗はこれら優良品種の国内繁殖苗が数千円するところを数百円という激安価格で売っているのですが、名前が全く信用できないことの他、根が出にくい、あるいは根が出るまでに非常に時間が掛かるという問題があります。

これらの苗は培養苗ですから中国での販売原価は100円以下、多くは5060円と見られます。培養苗は品種にかかわらず、培養容器から出した時点で原価は2030円です(イチゴなど大量繁殖苗では10円以下)。ただし容器の中は湿度100%ですから光を十分当てていても苗の組織は非常に軟弱です。これを普通の温室の環境条件下で1年間ほど養生し、組織を締めた苗にしないと、普通の温室条件下ではうまく育ちません。いじけて枯死したり、腐死してしまいます。

 

つまり上記中国苗は価格の安さや根が非常に出にくいことから、必要な養生をせずに、あるいはせいぜい1、2か月程度の養生で輸出しているのではないかということです。このような養生不十分な状態で販売される苗をネコ苗(寝子=なかなか目が覚めない)と呼んでいますが、特に夏季は腐死や枯死が多くなるので要注意です。湿度、温度を十分コントロールできる設備を持たない場合は、ネコ苗は涼しくなるまで購入を控えた方が安全です。

今年初めにやはり大量に販売された韓国苗らしい培養苗は、最近のネコ苗より大きめでかなりしっかりした苗でしたから、少なくとも1年程度は養生してあったようです。

 

また中国産培養苗でも信用を重んじる業者は輸入してから十分管理された施設で養生し、根をしっかり出させた後で少量づつ販売しています。輸入してから販売するまで半年以上は養生するわけですから、価格はネコ苗より高くなりますが、名前の正確性や苗の状態でははるかに安心して購入できます。ただし養生中は大量の在庫を抱えることになるので、十分な資金が必要になります。

一方、ネコ苗の安売り業者は単に儲かりそうだということで新規参入した素人で、資金がないので自分で時間をかけて養生する余裕がありません。そこで輸入したら大量に安売りをして資金を回収し、次の輸入に充てるという自転車操業を繰り返していると見られます。

 

ネコ苗をそのまま大量に売りさばく転売業者は資金繰りが忙しいので次から次へと同じ商品を大量に販売します。したがって初め高かった苗もあっという間に価格暴落を起します。そうなると初めに高値で買った人は大損をします。

ネコ苗の輸入原価は運賃や関税、手数料などを含めて100円からせいぜい200300円ですから、養生せずにそのまま販売するなら適正価格は500円程度でしょう。彼らは資金繰りが忙しくて売らざるを得ない状況ですから、買い手が手控えれば半年以内に500円程度以下になると見ています。実際初め数千円以上していた苗でもこの半年で500円以下になっている例がたくさんあります。培養苗は大量に生産されているわけですから、焦って高値で買う必要は全くありません。

 

またネコ苗業者は信用などまったく気にしていないので、名前(品種名)の混乱やごまかしもひどいものです。有名品種を想定させるような名前で、あるいはそれらしい中国名でまがい物を売るのは日常茶飯事です。

この場合、買って育ててみたら偽物だったとしても文句のつけ様がありません。そのような名前から想定される有名品種であるとは言っていないからです。だから「写真で判断してください」としか言わず、何の商品説明もしないのです。質問してもごまかすのが目的ですからまともな返事が来ることはありません。

ただしそのように名前をごまかして販売する行為は、商標登録の有無にかかわらず、不正競争ですから日本ハオルシア協会として裁判を準備しているところです。

 

さらにひどいのは、これらネコ苗業者はすでに市場が飽和してほとんど売れないような商品でも、名前を変えてごまかして売ろうとしていることです。例えばレイトニーは非常に仔吹が良いので、ただでもいらないという人が多いのですが、これに「紅水晶」とかいう名前を付けて売っています。説明もないので、「よく似ているが、別ものかもしれない」と思って買う人がいることを狙って、レイトニーではなく「紅水晶」という名で売るわけです。

 

同じことが「シルバニア」にもあります。ネコ苗業者は「シルバニア」によく似た苗に「銀亀」という名を付けて売っていますが、「シルバニア」はやはり市場が飽和していて、「シルバニア」という名では小苗は相当安くても売れません。しかしこれに「銀亀」という名を付けて売ればやはり「シルバニアによく似ているが、別ものかもしれない」と思って買う人がいることでしょう。

 

もちろん「銀亀」が「シルバニア」とは別クローンである可能性もありますが、再三指摘するようにラベルなしで識別できなければ別クローンでも同一品種です。そして仮に「銀亀」が「シルバニア」とは別クローンだとしても、「シルバニア」より明瞭に優れているようには見えません。そうなると「銀亀」は「シルバニアもどき」か「偽シルバニア」ということになってしまいます。同様の例は「太陽」などにもあり、今では見向きもされない「偽太陽」が一時「太陽」として出回ったことがあります。

 

このように、市場では飽和状態でもうほとんど売れないような品種に別名を付け、さも別品種であるかの如く装って売っている例は他にも、紫肌玉露(=紫オブト)、石井ピグマエアと雪姫(=雪の里)、エンジェルドロップ(=天使の涙)などたくさんあります。本当の「雪姫」は金子氏育成の「エンジェル」などの姉妹品種ですが、輸入転売業者が売っている「雪姫」はまったくの別物で、「雪の里」の類似個体です。

 

さらにどうもビッタタ系(ブラックバーデアナ系)の雑種らしい斑入りも「水晶宝草錦」とかいう名で売られていますが、斑の入り方から見て薬品で斑にしたような感じですから、斑の安定性はかなり疑問です。他にも多数の斑入り中国苗が売られていますが、培養と薬品を組み合わせて作られたような斑入り苗は、しばらくすると斑が消えてしまう可能性がかなり高いという点は留意してください。

 

これらネコ苗業者の商品名がいかにいい加減であるかの例をいくつかご紹介します。

写真は最近「ハオルチア スプリング」という名でヤフオクに出品されたものですが、おそらくH. springbokvlakensis ではなく、その雑種と見られます。「トロピカルナイト」(「日月潭」)も最初「ハオルチア スプリング」という名で売られていました。

① 7-31 スプリング
写真① 「ハオルチア スプリング」として売られていた苗。2021年7月31日のヤフオク画面より。

 

写真はやはりヤフオクに「大型寿」という名で出品されたものですが、あきらかにコンプト交配で、寿(H. retusa)ではありません。

② 7-31大型寿
写真②「大型寿」として売られていた苗。2021年7月31日のヤフオク画面より。

 

写真は「チカチカチュ」という名で出品されたバデア系の雑種と見られる苗です。何ら特徴のないバデア系雑種で、育種上本来は廃棄処分とすべき苗ですが、このような苗に適当な名前を付けて売りさばこうとする姿勢に、これらネコ苗業者の本性が現れています。

③ 7-17 チカチカチュ
写真③「チカチカチュ」という名で売られていた苗。2021年7月17日のヤフオク画面より。

 

写真は同じ業者から「天樹寿」という名でヤフオクに何回か出品された苗です。これは明らかにコンプトですが、名前を付けるような特徴があるとも見えません。写真の例と同じで、育種上本来は廃棄処分とすべき苗でも名前を付ければ売れるとばかりに適当な名前を付けるのでしょう。

④ 3-20 天樹寿
写真④「天樹寿」という名で売られていた苗。2021年3月20日のヤフオク画面より。


何度も指摘しているように、類似他品種からラベルなしで識別できる特徴が1つ以上なければ品種とは言えません。別クロンでも識別できなければ同一品種です。大手サボテン業者でも、特著のない雑種に適当な名前を付けて売りさばく悪名高い業者がいますから要注意です。

 

これらネコ苗業者はハオルシアにはまったくの素人で、品種名をほとんど知らないので、輸入時のいい加減な中国名をそのままか、あるいは自分で適当な名前を付けて売るわけです。もちろん既存の品種と同じかどうかの確認や調査はしないでしょう。

そして自分で名前を付ける際には消費者が誤認することを狙って、よく似た有名品種の名前をもじった名前で販売していると見られます。これは明らかに不正競争(混同惹起/周知表示冒用/誤認惹起)です。

また商標登録してある品種名なら商標法違反ですし、そのような苗を輸入することは関税法違反です。いずれも近く民事、刑事の責任を追及する予定です。




ヤフオクやメリカリを見ていると、多くの方が自分で交配したさまざまな実生苗を出品しています。熱心な趣味家の方が多いのですが、それらの出品苗を見ていると「これとこれを掛け合わせるとこんなものができるのか!!」と言った具合に、大変参考になります。またそれらの苗からグループごとの、あるいはグループ間の交配の一般的傾向がわかってきます。今回は透明窓ハオルシアを中心に、それら育種に関する話題をいくつかご紹介します。

 

透明窓ハオルシアの代表はオブト類(オブツーサ)で、非常に多くの実生苗が作られています。しかしこの仲間は窓に模様がないので基本的に変異に乏しく、ほとんどの場合実生苗は大同小異で、品種名をつけられるほど特徴のある個体はなかなか出てきません。

 

特に葉先に禾がなく完全丸頭の紫オブトは原種が1種(H. vista n.n.)しかなくて変異の幅が非常に小さいです。「紫オブト」には”OB-1”サカイ林ブルーなどの名前を付けて売られている個体が多いですが、それら同士の交配も多いため、そのほとんどはラベルなしでは識別できません。

これら識別困難な個体群は品種的にはすべて「ドドソン紫」で、”OB-1” 〝サカイなどの名前は品種名ではなく、クローンの個体記号です。

 

「紫オブト」は直径8cm以上になる完全無毛(無禾)、丸頭で、帯紫色のオブト類と定義されます。「紫オブト」には「ドドソン紫」の他、「恋紫」(金子特黒など。より暗色で窓もより透明)、「薄紫」(分類的には大型のH. ikraで、薄紫色)、径10㎝以上になる大型の「天涯オブト」、大粒の(葉が太い)「仏頭玉」(写真①。最大径は11cm)などがあります。

① H. vista n.n. (紫オブト)「仏頭玉」 D=8.5cm LW=2.6cm

① H. vista n.n. (紫オブト)「仏頭玉」 D=8.5cm LW=2.6cm
 

完全無毛(無禾)、丸頭、帯紫色のオブト類でも径5㎝程度にしかならない、仔吹性のものは「紫オブト」ではなく、H. ikraH. kubusie, H. boloniaなどのイクラ類です。以前はH. obtusa v. truncataと呼ばれ、今は雫石などと呼ばれている仲間です。この仲間は産地データなしでは識別しがたく、産地データ付きの原種扱いとすべきものです。

これら小型で丸頭のオブト類は明治以来「玉露」と呼ばれていました。最近ではこの名前をオブト類全体に拡大適用して使う業者らがいますが、広く使われていた名前を勝手に変えると消費者が誤認する恐れがあり、不正競争防止法違反の可能性が高いです。

 

葉先が尖ったオブト類はほとんどがH. obtusaです。無禾で葉先が丸いものはオブツーサ、葉先が尖ったものはクーペリーだと誤認している人もいますが、正しくは無禾で葉先が丸い大型個体は紫オブト(H. vista)、葉先の丸い小型個体はイクラ類(玉露)、葉先のとがったものはオブツーサ(H. obtusa他)です。

 

H. cooperiはオブト類ではなく、無鋸歯のH. specksiiです。これはH. cooperiの発見者、Thomas Cooperの採集記録から明らかです。Cooperは同時に記載されたH. pilifera (小型で鋸歯の多いオブト類。今日のH. luriまたはH. salina) 以外のオブト類の産地には全く足を踏み入れていませんので、H. cooperiがオブト類の一つと言う可能性は皆無です。

 

初めに書いたように、オブト類は変異の幅が小さいためにそれら同士をかけてもなかなか特徴のある実生は出てきません。そこでオブト類とレツサ類とを掛けることがしばしば行われていますが、これもまた大同小異で、ほとんどがオラソニー類似です。名前はいろいろ付けられていますが、これと言った品種はまず見当たりません。超大型の「桃太郎」(写真)など、特徴のある個体はかなり稀です。

 

② H. obtusa hyb. 「桃太郎」 D=10.5 LW=3.5

② H. obtusa hyb. 「桃太郎」 D=10.5cm LW=3.5cm

オブト類の特徴は透明な窓ですから、例えば葉の半分くらいが透明な窓とか、窓に模様があるとかの方向が進むべき育種の方向性ではないかと思います。そのような育種例の一つが「山紫」(写真)で、H. transiensの交配です。H. transiensは狭義のオブト類ではありませんが、窓が非常に透明なので良い育種材料です。「山紫」はやや小型ですが葉のほとんど全部が透明な格子模様の窓になります。同じH. transiens交配で大型の「水明」(写真)と掛け合わせると面白いものが出来そうです。

③ H. transiens hyb 「山紫」 D=6.5cm  (2)  ④ H. transiens hyb. 「水明」 D=12cm LW=2.5cm
③ H. transiens hyb 「山紫」 D=6.5cm         ④ H. transiens hyb.「水明」D=12cm LW=2.5cm
  
 

オブト類育種の利点の一つが、宝草錦や京華錦など、近縁の斑入り品種が非常に大量にあるということです。実際、これらを使ってマリンとか京の花火とか、美しい斑入り品種が大量に作られ、またそれら同士、あるいはそれらとオブト類との戻し交配により、さらにオブツーサに近いきれいな斑入り品種が大量に作出されています。

しかしこうなるとどこまでがマリンで、どこからがオブト錦なのか、線引きができず、実際多くの中間型交配斑入りが「オブト錦」(オブツーサ錦)の名前で売られています。この傾向は今後さらに進んでいくでしょうから、マリンや京の花火も含め、品種的にはすべてが「オブト錦」類となり、これまでの品種名はクローンを表す個体記号ということになります。

 

ただし識別不能な類似個体がほとんどなく、ラベルなしでも識別できる個体は独立した品種です。例えば花水晶や白蛇伝がそうです。他にも特徴が明瞭で独立した品種と見られる個体はいくつもありますが、名前だけ違っていても、あるいは新しい名前が付けられていても、類似他個体や他品種との識別が困難なものは単に「オブト錦」です。

 

新しい名前の苗は商品説明に類似他個体や他品種との識別点が必要です。そのような商品説明を全くしない、あるいは単に「実生オリジナル」と言うだけの商品は識別性がないことを自認しているような商品ですから、要注意です。

 

オブト類には紫オブトや玉露類の他、非常に多くの種があります。またH. paraiba n.n.Edendale)やH. glaucina n.n.(W. Fort Brown)H. turcosa n.n.H. byssina n.n.などのようにほとんど知られていない、美しい蒼緑色の種もあります。これら原種系オブト類も一部で選抜育種や実生が始まっていますので今後が楽しみです。

 

 

オブト類は窓に模様がないので変異の幅が小さいですが、レツサ類には窓に模様のある種が多く、それらを掛け合わせてよりきれいな模様の品種が多数作出されています。

 

ピクタは最も古くから育種が進められた種群ですが、今でもスプレンデンスと並ぶ人気種群です。ただピクタ、スプレンデンス、ピグマエアなど、点紋系の品種はコレクタやコンプトなど、線紋系の品種より変異の幅が小さいので、育種が一定のレベルに達するとそれ以上のものはなかなか作出できないという問題があります。

また白点模様の中に線模様を入れるべく、様々な交配がされていますが、ピクタ「前人未踏」など、確かに線は太いですが、あまり美しくありません。ハオルシアの美しさの多くは透明な窓によるところが大きいのですが、これら線模様が入った品種のほとんどは窓に透明感がなく、あまり美的ではありません。今後の大きな課題です。

さらに最近は赤系統のピクタに人気があるようですが、これも線模様のあるピクタと同じく、これまでの赤系品種には窓に透明感がなく、あまり美的ではありません。

窓に透明感のあるピクタはかなり希少ですが、「モルダウ」(写真)のような個体もあります。太線系でも赤系でもこのような個体を使って、透明感のある品種を作出することが今後の目標となるでしょう。


⑤ Picta  「モルダウ」 D=10cm LW=3cm
  ⑤ Picta  「モルダウ」 D=10cm LW=3cm
 

一方、ピクタでは「蛙玉」や「深海の女王」などの矮化変異がいくつか出ています (海皇もその一つ?)。これらは葉が寸詰まりで短葉(ダルマ型)になるので、人気がありますが、矮化変異なので年月が経っても株径は大きくなりません。実生苗がどうなるかわかりませんが、遺伝性があっても短葉のまま大型化することはないでしょう。

 

葉型をよりダルマ型にするのは多くのレツサ系品種に共通した目標ですが、その点では矮化変異より大型化変異の方がはるかに可能性があります。

大型化変異は培養苗でしばしば出現しますが、葉さしでも稀ではありません。大型化すると葉幅が大きくなるだけでなく、葉先も丸くなります。これまでに王日光(日光)、王ジュピターなど、また葉先が丸くなることは確認できませんが、翡翠龍(白妙)、玄武帝(玄武)など、玉扇・万象でもたくさん出現しています。

その他、「良子」(「ピンキーの大型化」)や「スーパースター」、「ムーランルージュ」、「銀河鉄道」、「白帝城」、「森の妖精」などにも大型化変異が出現しています。これらの中でも特筆すべきは「クイーンマリリン」大型化と思われる「キングマリリン」(写真⑥)で、「モルドール」との交配ではないかと思わせるようなダルマ葉型の個体です。


⑥ H. hybrid  「キングマリリン」 D=7cm LW=3cm

   ⑥ H. hybrid  「キングマリリン」 D=7cm LW=3cm

ピクタでも「ダルマ白銀」の大型化変異があり、「玉白銀」(写真⑦)と名付けられています。また「青木ピクサ」は伝説的な優良ピクタで、その実生から「踊り子」など、鮮明な黒点模様の品種や「大老」(PA-1)のような大型ダルマ葉品種が作出されています。「青木ピクサ」実生の中で最大型が「スターダスト」(写真⑧)ですが、今後これらをもとに大型でよりダルマ葉のピクタが育成されることを期待しています。

 
⑦ Picta 「玉白銀」 D=8.5cm LW=3cm     ⑧ Picta 「スターダスト」 D=10cm LW=3cm
 ⑦ Picta 「玉白銀」 D=8.5cm LW=3cm              ⑧ Picta 「スターダスト」 D=10cm LW=3cm 


スプレンデンスはピクタと並ぶ人気種群ですが、ピクタより窓に透明感があり、また白点に強い光沢があるので、全体的にはピクタよりきれいです。ただ線模様の入る品種は少なく、また白点の大きさや配置にピクタほどの変異がないので、平均的なスプレンデンス実生苗は全く大同小異で、このような標準的実生苗の人気はピクタよりむしろ低いです。

また白系、赤系、ゴリゴリ系とも、突出した優良品種が作出されており、これを超えることは当面相当難しいでしょう。しかし「タージマハル」などの特優品種を親にすれば一定レベル以上の実生苗はできるでしょうから、名前を付けられるほどの特徴はないとしても、十分楽しめます。これはピクタでも同じです。

 

一方、スプレンデンス交配には「紫金城」や「金斗雲」など、線模様の入った品種がたくさんあります。またそれらをもとに「Black Knight(写真)や「Green Sleeves(写真)、あるいは「インカローズ」、「ブラック&ホワイト」などの傑作も生まれています。

今後はこれらをスプレンデンスと戻し交配し、スプレンデンスのダルマ葉型でこれらの模様の入った品種を作出することが目標になるでしょう。


⑨ H. splendens hyb. 'Black Knight' D=6.5cm    ⑩ H. splendens hyb. 「グリーンスリーブズ」 D=7.5cm LW=2cm
⑨ H. splendens hyb. 'Black Knight' D=6.5cm      ⑩ H. splendens hyb. 「グリーンスリーブズ」
                                                                                        D=7.5cm LW=2cm 
 
レツサ系で線模様のある品種群としては、コレクタの他、コンプトやスプリングがありますが、種数は非常に少ないです。「酒呑童子」など、バデアの一部にも線模様がありますが、これはコレクタとの交配です。その他、線模様のあるレツサ系としてはムチカとピグマエアの一部にコレクタ模様を持つ個体があります。

グロエン(H. groenewaldii)は白点模様が主ですが、太い白線を持つ個体がかなりあり、白線と白点、あるいは緑の地模様とが混ざってかなり複雑な模様を作ります。今後線模様のある新しい品種群として大いに発展が期待されます。グロエンについては稿を改めて紹介します。

なお、白点のないグロエン苗に外国名の個体名を付けて売られているものを見かけますが、グロエンの群落の大部分は白点のない個体です。白点のない個体は特徴がなくて美的でもないので繁殖されず、結果的に流通量が少ないだけで、本来希少というわけではまったくありません。

 

窓模様には、点紋系、線紋系の他、まだら紋系があります。おおむねパリダやレテキュラータ系の表皮の厚いグループと、バリエガータの子孫である、表皮の薄いノルテリーなどのグループに分けられます。またヘロデアの子孫の、葉質の硬いクリスタリナなどもあります。

 

まだら系は斑紋がきれいな上に、個体ごとの斑紋の変化が大きな点が人気の理由です。まだら系で一番人気なのがリビダで、一時は非常に高値でしたが、今は実生苗や培養苗がかなり出回るようになり、価格も相当落ち着いています。またリビダの実生ではルビスタや夢二、虹児、「嵐が丘」(写真)などの優良品種が作出されています。ただリビダは全般にかなり小型なのが観賞上の欠点です。

その点では大型リビダともいえるH. neolivida n.n. (写真Robertson)の方がきれいで、育種上もポテンシャルが高いです。リビダを大型にしたような種ですが、窓もリビダより大きく、またリビダの産地とは約30Km離れていますので別種であることは確かでしょう。

 
 ⑪ H. livida 「嵐が丘」 D=6.5cm      ⑫ H. neolivida n.n.  MH 07-145-2  D=9cm
  ⑪ H. livida 「嵐が丘」 D=6.5cm                           ⑫ H. neolivida n.n.  MH 07-145-2  D=9cm

パリダにも斑紋のきれいな個体群があり、特に最大型である「ゴリラ」(旧ゴジラ。ゴジラは東宝の防護商標のため使えない。)の斑紋は見事です。パリダの斑紋は不透明ですが、これにリビダ系を掛けると「パトリシア」(写真)のように葉の半分以上に透明斑紋が広がる美しい品種ができます。サイズもリビダよりずっと大きく、ほぼ「ゴリラ」なみです。


⑬ H. pallida hyb. 「パトリシア」  D=8cm
  ⑬ H. pallida hyb. 「パトリシア」  D=8cm
 

ルプラ ニシフォームと呼ばれる個体はH. lupulaではなく、やや鋸歯のあるH. reticulate の一型で、「星の王子」と同一品種です。この品種の実生には「星の王子」とよく似た、不透明斑紋の中小型個体が多数ありますが、名前を付けるほどのものはありません。

 

まだら系でもう一つ人気なのがクリスタリナです。この種はH. heroldiaの子孫と見られ、葉質が硬くて窓の透明度が高いので非常に人気です。産地的にはH. rooibergensisの産地に非常に近く、当初はロイベルゲンシスと混同されていました。しかし軟質葉のロイベルゲンシスより明らかに葉が硬く、鋸歯も少ないので別種としたものです。

産地はロイベルゲンシスと近接していますが、産地では混生はせず、また中間型もありません。しかし花期が同じで一定の遺伝子交流はあるようなので、実生すると葉色や鋸歯の多さにばらつきが大きく、ロイベルゲンシスに近い中間型も出てきます。

クリスタリナの中には鋸歯がほとんどなく、窓の大きな特優個体が複数あり、「ナタデココ」と名付けられています(写真)


⑭  H. crystallina 「ナタデココ」  MH 05-175-4  D=8cm

    H. crystallina 「ナタデココ」  MH 05-175-4  D=8cm

 

一方、クリスタリナはサイズがやや小さく、また葉色が薄いので窓が引き立ちません。その点では祖先種のヘロデア(H. heroldia)の方が濃色で窓もきれいです。ヘロデアは一般に小型仔吹性ですが、中には「マリンブルー」(写真)のように単頭で3号鉢一杯くらいになり、かつ窓が大きな優良個体もあります。分頭性ですが、葉色が濃くて窓が引き立つので、育種親としてはクリスタリナより良いかもしれません。

なおH. notabilisMaraisiiグループとされていますが、おそらくヘロデアの子孫です。

⑮ H. heroldia n.n. 「マリンブルー」  D=8cm
  
⑮ H. heroldia n.n. 「マリンブルー」  D=8cm

 

しかしまだら系育種の中心はリビダやクリスタリナではなく、リンバータやノルテリーなどの交配種に移っています。より大型で、斑紋模様が鮮明で、かつ窓の割合が大きな品種が目標です。

その場合、葉は丸葉ではなく長葉の方が窓面積が大きくなり、あるいは展開性(葉が地面に平行)より、立ち性の葉の方が鑑賞上有利です。そのような点からは、特にリンバータの交配が多数作られており、多くの優良品種が生まれています。

 

しかしまだら窓に限らず、窓は葉の先端部分にありますから、葉全体が写真に写っていないと窓面積がどの程度なのかわかりません。そこで注意が必要なのが、商品写真に葉の根元まで写っているかどうかです。つまり苗を深植えして外葉の下部を隠してしまうと、中心部の葉は重なり合っているので下部が見えず、結果的に見えている部分は葉の先端部だけとなり、葉全部が窓のように見えます。

あるいは中心部の葉にまだら窓が出始めたときに、窓がまだ出ていない外葉を取ってしまうと、中心部の葉の下部は重なり合って見えていないことが多いので、やはり見えている葉の窓面積は非常に大きく見えます。

つまりまだら窓は写真の撮り方次第で窓面積の大きさをごまかされてしまう場合があることには注意が必要です。人気の「ナイルの一滴」も実際に栽培してみた人からは「たいしたことはない」という声をよく聞きます。ヤフオクの写真(写真)を見ると、実際の「ナイルの一滴」の窓は葉先の13程度ですから、特別に窓が大きいわけではないことが良くわかります。鬼武者を実生すると「ナイルの一滴」によく似た個体がたくさん出ます。

 
⑯ 「ナイルの一滴」 2021-1-17 のヤフオク画像より引用
⑯ 「ナイルの一滴」 2021-1-17 のヤフオク画像より引用

⑰ 「ナイルの一滴」 2021-2-14 のヤフオク画像より引用
 ⑰ 「ナイルの一滴」 2021-2-14 のヤフオク画像より引用

また実生苗は小苗から中苗に移行する大きさの時(青年期)が最もダルマ葉だという点にも注意が必要です。小苗から本葉が数枚出てきたころですが、このころに出てくる、急に大きくなった葉はすごいダルマ葉であることが多いです。しかしダルマ葉というのは幼形形質ですから、成長するにつれ、次第に葉が長くなり、ダルマ葉ではなくなってしまう場合が大半です。

もちろん中には成長してもダルマ葉のままの個体もあり、それが本当のダルマ葉品種です。しかし中苗時点では、その個体が将来ダルマ葉品種になるか、一時的なダルマ葉かを見分けるのは非常に困難です。親株の写真が示されていればわかりますが、実生未繁殖の中小苗は親株がないので、買う際にはその点にも留意してください。

おおむね、ピクタ、スプレンデンス、コンプトは中苗期が最もダルマ葉で見栄えがします。一方、コレクタ、玉扇、万象は大苗になればなるほど貫禄が出てきて見栄えがします。品種群ごとに観賞の最適期=売り時が異なりますから、押さえておくと良いです。

 

まだら系に近い品種群としてレース系があります。セタタやボルシーなど、鋸歯の発達した仲間ですが、系統的には非常に多様です。レース系には斑紋はありませんが、H. amethystaH. sapphaiaH. joubertiiH. violaceaなど、美しい青系統の葉色をしているものがたくさんあります。これらの育種はまだほとんど始まっていませんが、大きな可能性があると見ています。

 

ただ、レース系は非常に種数が多く、また似たものが多いので、よほど特徴のある個体でないと識別可能な品種にはなりません。特に交雑するとその多くは識別不能の単なる雑種となって最終的には捨てるしかなくなります。しかしそのような実生苗に適当な名前を付けて、いかにも 新品種であるかのように装って売る業者もいるので、注意が必要です。

 

これはレース系に限ったことではありません。例えばあるサボテン業者は斑入りを中心に実生していますが、斑が入った苗は斑入りとして高く売り、斑が入らなかった苗は似た顔の個体同士をまとめて適当な名前を付け、さも新品種のように装って売っています。

しかも同じ名前だと次第に新鮮味がなくなるので、ほとんど差がないのに次から次へと新しい名前を付けて売るということを繰り返しています。いったいいくつの名前を使っているのか、本人もわからないでしょうし、またそれらの苗の名前をラベルなしで判定することは本人もできないでしょう。

 

要するに例えば単にピクタとしたのでは売れないので、目新しい別名を付けて新品種の如く装って売っているのです。しかもピクタとは全く言わないので、それがピクタなのか、スプレンデンスなのか、あるいは雑種なのか全くわかりません。このような商売は消費者を誤認させる可能性が高いわけですから、不正競争防止法上の不正競争の疑いが濃厚です。

 

このような苗は名前が付いていたとしても、特徴のない単なる雑種か、ピクタでもまったく特徴のない個体ですから、本来は廃棄処分とすべきものです。買って繁殖してもほとんど見向きもされない上に、このような苗が販売されているということでハオルシア園芸全体の信用が低下することになります。安くても栽培場所や手間を浪費するだけですから、手を出さない方が賢明です。





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