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H. margnataは白肌で結節や斑紋も全くない、よく目立つ大型植物のため、産地も良く知られている。Haworthia Revisited (1999) Bayerは白肌で結節や斑紋も全くない大型硬葉植物をすべてまとめてH. marginataとしたが、外見の類似性だけでまとめてしまう乱暴な分類は現代的な分類学の基準とはもちろん相いれない。遺伝子プールの共有を基礎とした現代的分類に改める必要がある。

ここでは最近発見、発表され、人気になりそうないくつかの新種を手短かに紹介する。

 

H. carinata n.n. Hayashi AshtonにあるH. maximaH. marginataとの雑種起源の種だが、太くて白い隈取りと大きな結節のある硬葉系最美種の一つである。結節の全くないものはH. marginataと混同されるが、隈取りの太さで見分けられる。

写真1,2はH. carinata の内、特に隈取りが太く白い特優個体である。おそらく硬葉系全体でも最美個体の一つであろう。これらを実生していけばさらに太くて白い隈取りを持った美個体が育成できると期待される。


写真1  carinata 1

写真1 H. carinata 特優個体1

写真2 carinata 2
 写真2 H. carinata 特優個体2 


 なお、
H. carinata H. marginata の群落にH. maximaの遺伝子が浸透し、群落全体に広がって形質が一定の枠内に安定しているので独立種としたものである。H. marginata の群落は一般に小さいので浸透した遺伝的形質が群落内全体の広がるのは早いと推定される。

この反対のケース、すなわちH. maxima の群落にH. marginata が浸透交雑した例もあるが、H, maxima の群落は一般に非常に大きいので、群落全体にH. marginataの遺伝子が拡散するのは時間が掛かるので、今だ群落内の特異個体にとどまっている(また群落内に拡散する前に消失してしまう確率も大きい)。写真3がその例だが、いわば白肌のH. maximaである。きわめて美しい特異個体だが、これまでに発見されたのはわずか数個体だけらしい。


写真3 白肌maxima  (2)

写真3 H. maxima 白肌の特異個体
 

H. rotteria n.n. HayashiSwellendamの南、Rotterdamでわずか数年前に発見された群落で、一見 H. marginataだが(写真4)、春咲き(他のMarginata類はすべて夏咲き)で、しかも赤色がかった、H. opalinaに似た大花を咲かせる(写真5)という新種である。この種はH. carinataと同じく、美しく太い白隈取りを持つ(写真6、7)。

写真4 Rotterdam  (2)
 写真4 産地の H. rotteria n.n. Rotterdam  Photo by G. Marx

写真5 Rotterdam flowers (2)
 写真5 H. rotteria の花  Photo bu G. Marx

写真6 rotteria 1
写真6 H. rotteria 実生苗1 H. carinataに匹敵する太い隈取り。

写真7 rotteria 2
 写真7 H. rotteria  実生苗2 鮮明な白い隈取り。

 写真8H. rotteria 1個体だが、葉の表面にきわめて細かな繊毛を持ち、粉を吹いているように見える。この繊毛は手で触れたり水をかけると取れて(消えて)しまう。エケベリアなどにはこのような粉状のクチクラを纏う種がたくさんあるが、ハオルシアでは他に見たことがない。

ただしこの個体は例外的に非常に弱く、輸入してからまともに成長したことがない。繊毛は新葉の時しか見れないが(時間がたつと水やりで消えてしまう)写真8の新葉の一部に繊毛状のクチクラが確認できる。

写真8 粉吹rotteria
写真8 H. rotteria  微細な繊毛状クチクラを持つ特異個体。新葉の一部に繊毛が残っている。
 
 この個体が特異個体であることは確かだが、群落内にはこのようなクチクラを発達させる遺伝子があるわけだから、その他の個体同士でも実生していけばこのような特異個体が再出現する可能性は十分あると見ている。

 

H. stevenii n.n. Hayashi (写真9,10) はほんの数年前にMr. Steven Molteno氏によりMossel Bayの西の山地で発見された(Molteno氏は銀角の原種であるAstroloba moltenoi の発見者)。


写真9 stevenii1
写真9 H. stevenii n.n.  標準的個体 W Mosselbay  Photo by de Vries

写真10 stevenii 2
写真10  H. stevenii n.n. 無白点個体 W. Mosselbay Photo by de Vries

 黄色がかった肌色と小さな白結節は
H. kingianaの遺伝子浸透を表している。実生個体には結節の全くないものや白点の多いものが混在しており(写真1112)、この群落がおそらくH. uitewaalianaを経由したH. marginataの末裔で、H. kingianaと交雑した種であることを物語っている。


写真11 stevenii 3
 写真11  H. stevenii n.n.  実生苗1 無白点個体。

写真12 stevenii 4
写真12  H. stevenii n.n. 実生苗2 やや白点の多い個体。

 ただしH. stevenii の産地はH. kingiana にかなり近く、また周辺にはH. andriesii n.n.H. subkingiana n.n.といったH. kingianaの近縁種がいくつもある点などを考慮すると、全体としては Kingiana 種群の1種とした方が妥当と思われる。

ハオルシアで一番面白いのは何といっても品種改良です。


ハオルシアには現在識別されているものだけでも
500種以上ありますが、未発見、あるいは見落とされているものまで含めるとおそらく1000種程度の種があると推定しています。

 

それらの内で園芸的に評価されて育種されているものは玉扇、万象、ピクタ、コレクタ、あるいは十二の巻や冬の星座の仲間など、せいぜい100種程度にすぎません。まだ全く試されていない交配組み合わせの方がはるかに多いでしょう。

 

ヤフオクなどには様々な組み合わせの交配実生が出品されています。また原種でも変わった、あるいはきれいな形状の個体もたくさん出品されており、非常に参考になります。

 

そのような出品物を見ていくと交配組み合わせに関して一定の傾向が浮かび上がってきます。ここではその傾向について現時点で判明した点をまとめてみました。

 

 

まず現在おそらくもっとも盛んに育種が行われているのがオブツーサの仲間、特にその斑入りでしょう。交配や培養により非常にたくさんのオブツーサ(ベヌスタを含む)やオブト錦が作出されていますが、端的に言って、ほとんど区別できないものが大部分です。

 

古い例では紫オブトが典型ですが、様々な名前の紫オブトが流通していますが、大部分はラベルなしでは区別できません。学者や専門家ではなく、一般の愛好家が区別できなければそれは同じ品種ということになります。これは国際的な基準でもそうですし、日本の農水省でも同じ基準です。

 

ドドソン紫(OB-1)や林ブルー、サカイなどの名前は品種名ではなく、クロン名(個体名)です。クロン名は交配する時には重要ですから現在の名前を廃棄する必要はないですが、品種としては同じ紫オブトということになります。表示としては'紫オブト’ (ドドソン紫)などとするのが適切です。

 

オブト錦も同様で、昔の“残雪オブト錦‘ や'弁天錦’(別系オブト錦)などは多くの交配類似品種が作出されて今では全く識別できませんからすべて同じ‛オブト錦‘で、‛オブト錦` (弁天錦)などと表示するのが適切です。

またマリンや京の花火(花火)も今では交配が進んで一般的なオブト錦と区別ができなくなっていますからやはり‛オブト錦` (マリン)などと表示するのが適切です。

 

オブツーサ類はこれを大型化させようとレツサ類との交配がしばしば行われていますが、ほとんどがオラソニー類似で、全く特徴がありません。‘桃太郎’(写真1) など特別に大型のもの以外は小沢氏の“キューピッド”も含めて完全に失敗作でしょう。

IMGP8578 桃太郎 D=10.5 LW=3.5  (2)
写真1 オブト交配 ‛桃太郎’葉幅3.5cm
 

 

かつてハオルシア園芸の主流だった玉扇万象は育種のピークを過ぎて新しい優良品種が出にくくなっています。これは玉扇万象類の原種が非常に少なく、交配によって新しい形質を入れることが難しいこと、および他の例えばレツサ類と交配しても変わったものはできるが美しいと評価できるものがほとんどないことによります。

 

玉扇には玄武や篤盛など黒島模様の傑作があり、その子孫にもかなりの優良品種ができていますが、これを万象と交配して万象に黒島模様を入れる試みは可能性が高いと思われますが、まだ誰も成功してないようです。1次の交配では無理でも2次、3次と戻し交配を繰り返していけば十分可能性はあるでしょう。

 

ピクタやスプレンデンス、ピグマエアなど、点模様の種は玉扇・万象、コレクタなど線模様の種より変異の幅が小さいので、育種のピークの来るのが早く、ピクタやピグマエアはすでに頭打ち状態です。しかし大型でダルマ葉の品種はまだ非常に少ないので、これに太い黒線などが入ればまだまだ改良の余地はあります。

 

スプレンデンスはピクタやピグマエアほど育種が進んでいないのですが、すでにタージマハルやMoonga(写真2)などに品種改良のピークが見えています。これらトップクラス以外の品種を交配に使ってもタージマハルやMoonga、あるいはそれらの実生には全く歯が立たないだろうと見ています。今後はこれらトップクラスの品種の実生が中心になるでしょう。

10 splendens moonga original color  resized  (2)
 写真2 H. splendens  ’Moonga’


玉扇・万象と並び、多彩な線模様を持つ品種群としてコレクタはハオルシアの御三家と称されてきました。コレクタにはコンプトを始め近縁種が多く、またそれらと交配しても形が変になることがなくて多くの美品種が作られています。

 

コレクタの優良品種の多くはH. laeta の特優品種であるジュピターの実生です。それらの中ではアロワナ(写真3)が抜き出たトップで、同じ趣向ではこれを超えるのは難しいと見ています。これを超えるには別の趣向が必要ですが、その一つがスコット模様のコレクタです。

稲妻コレクサや清涼界(Wスコット)、マジンガーZ、水煙樹(写真4)などの他、コンプトそのものでも天竜(写真5)のように見事なスコット模様の品種もあります。今後はこれらスコット系の品種を使った優良コレクタの育種が人気になると見ています。

アロワナ D=13.5 LW=3 (1).JPG
写真3 コレクタ ‛アロワナ’

水煙樹 D=13  IMGP7518 (3)
写真4 コレクタ ‛水煙樹’

4 IMGP1184 (2)
写真5 コンプト ‛天竜’

 


最近は原種が人気になっています。確かに原種の中にはこれまで知られていない美種や美個体が多数あり、それに気づいた多くの人が原種ブームを盛り上げています。また一部のサボテン業者もこれに便乗しようと原種の扱いを増やしているようです。

 

しかし原種は数が非常に多く、原則的に産地で区別されているために産地データがないものは価値がかなり下がります。形態的特徴も微細な違いのものが多いため。相当な知識がないと扱えません。正直今のサボテン業界で原種を扱うだけの知識を持った業者はいません。原種を収集している愛好家の方がはるかに詳しい知識を持っています。

輸入原種でもラベルの間違っている場合が多々ありますが、日本のサボテン業者の中でそれを直す、あるいは輸出元に問いただすだけの力のある者はいません。輸入苗の手書きラベルの採集番号を正しく読み取れないようでは原種を扱う資格はないでしょう。

 

さて原種、特に軟質葉グループの育種では玉扇・万象やレツサ系とは違った注意が必要です。


原種は基本的に産地で識別されるために形態的には類似していて非常に区別しにくい種が多くあります。これらを交配するとどちらの種とすべきか判別できず、単に
○○△実生といった苗にしかなりません。つまりよほど特徴的な特異個体でない限り単なる雑種となってしまいます。育種的効率は非常に低いです。

 

原種を交配するなら同種同士、できれば同じ産地同士の個体間で採種するのが望ましいです。そうすれば実生苗も種名あるいは産地付きで販売できます。

 

育種というのは本来非常に効率が悪いものです。多くの実生苗を育てても兄弟個体や類似他品種と明瞭に区別でき、品種として名前を付けられる優良個体は極めて少数で、おおむね1%以下です。それ以外の選抜漏れ個体は基本的に捨てられるべきものです。

 

しかしこれら本来捨てられるべき選抜漏れ個体を親個体の名前で○○x△△実生として販売するケースがかなり見受けられます。交配実生をしたことのある方ならわかりますが、数百の種子をまいても残したいと思える個体は1本か2本だけです。残りの個体を買ってもその中から名前を付けられるような優良個体が出ることはまずないと見てよいです。

 


以下現在私が取り組んでいる軟質葉グループの育種で、これから人気になりそうなものを育成途上ですがご紹介します。

 

まだら系では棒状葉のリビダ系やその大型種のネオリビダ、鬼まだらなどがあり、パトリシア(写真6)が完成形に近いものです。葉のほぼ根元からまだら窓が広がり、非常にきれいです。まだら窓の広がりと鮮明さではリビダやネオリビダをはるかに超えます。

パトリシアにはよく似た姉妹があり(写真7)、葉の透明感と斑紋の大きさではパトリシアを超えるかもしれません。

パトリシア 4 D=8  (4)
写真6 まだら系 ‛パトリシア’

B IMGP1166 (2)
写真7 パトリシア類似実生
 

まだら窓が葉先で融合して透明窓になるものとしてナイルの一滴があります。人気品種ですが、この品種の葉先透明窓の発現は不安定で栽培環境によっては透明窓にならず、まだら窓しか出ない場合もかなりあるようです。

 

まだら系でもう一つの目標は棒状葉ではなく、幅広薄葉にまだら窓を入れることです。柄紗(ガラシャ 写真8)がこれに最も近いですが、まだまだら窓の範囲は葉の半分以下です。パトリシアの様に葉の大部分をまだら窓とすることが目標です。

 柄紗 P1126 (2)
写真8 セミビバxグロボシフロラ ’柄紗’ (ガラシャ)

幅広薄葉と言えばシンビフォルミスで、これにまだら系をかけてまだら窓を入れようとしていますが、葉が細くなり(写真9)なかなか思うようにいきません。

G1 IMGP1189 (3)

 写真9 パリダ (ゴジパリ)x シンビフォルミス 

軟質葉グループの育種でもう一つの目標は赤系のシンビ育種です。さくら貝(写真10)は非常にきれいですが、発色が安定せず、葉型も細くなりがちです。ロゼアなどと交配して安定してきれいな桃色葉や赤色葉になる品種が目標ですが、シンビ系の葉色はかなり安定しているらしく、まだ成果が出ていません。


さくら貝 05-151-1 D=5.5 (4)

 写真10 シンビ系 ‛さくら貝’

その他の軟質葉グループではオブツーサ類の育種があります。紫オブトなど、狭義のオブツーサ類は遺伝的にかなり安定していて、特徴的な品種を育成するのはかなり難しそうです。

しかしトランシエンスを含む広義のオブト類ではかなり特徴的な個体が出来そうです。

 

写真11は夕霧楼の実生ですが、より丸葉で大窓の品種ができそうです。また写真12は星の王子の実生ですが、オブツーサと掛かったらしく、丸葉透明窓に鮮明格子模様が入っています。将来どんな姿になるか楽しみです。

夕霧1 IMGP1198 (2)
写真11 オブト系 ‛夕霧楼’交配


星1 IMGP1195 (2)

写真12 ‛星の王子’交配

ハオルシアは葉に様々な紋様や突起物のあることが特徴で、葉にこれほど多様な紋様や突起物があって種ごとの形態に大きな変化のある植物は他にない。さらにその紋様などが種ごとに大きく異なるだけでなく、同じ種でも個体ごとに大きく異なり、究極的には同じ個体でも葉ごとに異なる紋様が出るという『芸』をする品種が多数ある。

 

このような葉ごとの紋様等の変化を楽しむというのは、江戸期などにオモトやイワヒバなどで流行った『葉芸』園芸の伝統文化が、ハオルシアというまたとない良い素材を得て現代に花開いたものと言える。

 

最近では中国や台湾などでもかなり良い品種が作られているが、日本文化に底通する繊細な美的感性と職人気質の多数の育種家のおかげで、今でも育種のレベルでは日本が世界トップを走り続けている。ただしスプレンデンス系育種ではマルクス氏がトップと思われる。

 

ハオルシア園芸の醍醐味は何といっても育種の面白さにある。ハオルシアは交配や実生も楽で、成長は遅いが、34年で成果を得ることができる。また膨大な種や品種があり、全く組み合わせが試みられていない交配の方がはるかに多い。そして何より個体差が大きいので、同じ組み合わせでも実生するごとに異なった紋様の個体が出現する。

 

そこで、今後育種に取り組もうとする人のためにハオルシアの紋様などについてどんな紋様のグループがあるかを以下に解説する。(玉扇、万象類を除く。玉扇、万象類の紋様についてはハオルシア品種名総覧の第4章を参照してください。)

次表は玉扇、万象類以外の軟葉系ハオルシアの紋様等の分類である。


キャプチャ

紋様のグループは大きく分けてまだら系、点紋系、線紋系、雲紋系に分けられる。それぞれどんな仲間かは代表例を示してあるのでそれを参照されたい。またこの分類は便宜的なもので、中間型や、H. lividaのように個体(品種)によって異なるグル-プに属するも場合もある。

 

(1)まだら系は小さな斑点が密生する種群で、不透明な斑点と透明な斑点のものとがある。透明斑点が大きくなって斑点間の葉脈しか残らない網目模様となるのが網まだら系で、H. lividaでも最良型となる。


パトリシア 4 D=8  (3)
 「パトリシア」網まだら系 網目状の透明まだら紋が葉全体に入る。


白まだら系の白斑紋が大きくなって、蛇やトカゲのような大まだら模様になるものが蛇紋系である。今のところゴジラ(強刺パリダ)の2個体にしか発見されていないが、葉ごとに変化があり(『芸』をする)、大変面白いものである。


キングコング

 ゴジラ「キングコング」1 半透明白斑紋が非常に大きくなってきた。

ゴリラ キングコング D=10.5
 
ゴジラ「キングコング」2 この個体も中心部の斑紋が非常に大きい。

蛇紋系はこれまで知られていなかった新しいタイプの紋様であり、例えばこれをピクタなどに導入できればきわめて面白い品種群ができると期待される。


(2)点紋系は繊毛や小突起、あるいは小斑紋が葉
(
)一面に密生するもので、おおむねザラザラとした窓になる。

 

微毛系と微突起系は厳密には紋様ではないが、系統関係と将来の可能性を示すうえでここに入れた。例えばH. bobiiが大型化した種がH. essieiであり、それがさらに大型化したのが正しいH. asperulaH. impexaRiversdaleである。

 

H. bobii には毛の長さや密度の他、地肌や毛の色に大きな変異があるが、H. essieiH. asperulaは緑一色である。そこでH. bobiiのこの変異をH. essieiH. asperulaに導入したらかなり面白い品種が期待できよう。

H. groenewaldii は非常に変わった種だが、その大きな特徴の一つが窓面の微小な複眼状突起である。白点の有無にかかわらず、ほぼすべての個体にあるが、この突起にも大きさに変異がある。もしこの突起の非常に大きな個体を育成できれば、窓面がレンズ状透明突起に覆われた、これまでにない品種ができる。これに白点が絡んできたらとんでもない美品種になるであろう。


13-214  D=6.5 雪ヤンマ)

 H. groenewaldii 「雪ヤンマ」 白点がつぶれて窓を覆う希少個体。

11-144  D=8   緑ヤンマ
 H. groenewaldii 「緑ヤンマ」 窓中央に大きな緑地が露出する。超希少。


H. mutica
はやや変異の少ない種だが、艶消し窓のしっとりとした感じが人気である。この窓のtexture(質感)はおそらくH. groenewaldii、特に「碧ヤンマ」、の微小突起がさらに小さくなった極小突起によるものだろうと推測している。したがってもしレンズ状透明突起が並んだような窓のH. groenewaldiiが育種できれば、それをH. muticaに導入することも不可能ではないであろう。ただし時間は相当掛かりそう。

点紋系は微毛や微小突起が密生するのが特徴だが、そこに太い縦線(葉脈)が入ると変異の幅が非常に大きくなる。これが点線系でピクタやスプレンデンス、H. groenewaldiiの一部がここに入る。変異の幅が大きいので葉ごとに斑紋が異なるが、紋様がやや細かいので葉ごとの変異は認識されにくい。しかし色彩的には最も華麗なグループである。


moonga resized

 H. splendens 'Moonga'  現時点でピクタも含めた点線系の最高傑作。マルクス氏写真(色補正なし)



(3)線紋系は点模様ではなく、線模様が個体ごとに異なるグループである。線模様は点模様より変化が大きく、そのためもっとも大きな変異のあるグループである。玉扇や万象も基本的に線模様だが、その他にはコレクタ類、スプリング、コンプト、ブリンジー、マルキシー、など数えるほどしかない。

 

ただしH. mutica やピグマエア類、ピクタ類の一部には折線又は網目模様の個体がある。またH. nortieriにも明瞭な網目模様や火炎模様を持つ個体がある。もっともH. nortieriの場合は線紋というより網まだらとも言える。

残照
 H. nortieri「残照」 Clan William 産。網まだら系又は火炎系。


火炎系は網目模様が乱れて火炎状になったもので、線が直線状ではなく曲線に近い。網目系と火炎系は線が多いので、葉ごとの変異、『芸』が識別しがたい。ただし線の太さや白さ、網目の細かさなどは非常に多様で、したがって個体ごとの変異も非常に大きい。



火炎太鼓 D=14, W=3
  コンプト「火炎太鼓」 火炎系 網目が崩れて火炎模様になるもの。

'巨人兵' D=15, LW=4.2 cm
 コレクタ「巨人兵」 火炎模様に白雲が入るタイプ。写真は韓国の朱氏。


電紋系は少数の曲線が窓内を電流(稲妻)のように走り、きわめて面白い模様となる。このような模様の植物はハオルシア以外にはほとんどない。スコットコレクサを起源とする品種が多いが、多くはコンプトとコレクタの交配である(スコットコレクサ自身もコンプトコレクタである)


メーテル
スコットコレクサ実生「メーテル」。透明窓と鮮明曲線模様の傑作。

水煙木  D=14.5  LW=3
コレクタ「水煙木」 やや複雑な電流紋。「水神」ほど細かくなると『芸』は認識しがたい。

 

電紋系の中でも「雨だれ」は非常に変わった模様の品種で、窓中央に一本の太い縦曲線が流れるが、その線が途中の所々で膨らんでやや島模様となる(「雨だれ」の名前の由来)。島模様を作る品種は玉扇でも「玄武」などかなり限られているが、私の知る限り、玉扇、コレクタ以外にはスプリングに数個体があるだけである。

014 雨だれ  D=14 (2)
コレクタ「雨だれ」 最も変わった電流模様のコレクタ。


「天竜」は最近見出した品種で「水晶コンプト」の枝変わりである。非常に太い曲線模様が窓内を走り、電紋系で最も鮮明な稲妻模様となる。初めは一時的な紋様かと思ったが、この紋様は新しい葉にも継続して出現し、安定した形質であることが分かった。

天竜1
コンプト「天竜」6 非常に太くて鮮明な電流紋が走る。


天竜2

コンプト「天竜」8 遊離点の出るタイプ。非常に珍しい。


ただし「天竜」かも知れないと思って購入した個体でもその後普通の水晶コンプトとあまり違わない模様となってしまったものもかなりあった。合計数百個体買った中から安定して電流紋の葉が出る個体を9個体選別し、これを「天竜」と命名した。

 

「天竜」は普通の水晶コンプトよりやや小型でかつ葉が硬い。また不稔ではないが結実性はかなり低い。普通の水晶コンプトはかなりよく結実するので、この点でも大きな違いがある。「天竜」は電紋系でも随一の線の太さと鮮明さがあるので、これをコレクタ系の優良品種と交配したら素晴らしい品種が作出できるのではないかと期待している。



(4)雲紋系は窓に白雲のかかる品種群で、窓全体に白雲がかかって線模様の目立たないのが白窓系、明瞭な線模様と共に白雲のかかるのが白雲系である。したがって線紋系の品種の多くは白雲系でもあるが、ここでは特に白雲が大きい品種を例示してある。


ロンバードスター (2)
H. sanekatae 「ロンバードスター」A 「ドリューホワイト」と「ホワイトウイドウ」の交配。



雪雲(JP-11)
コレクタ「雪雲」 白雲が特に顕著な品種。

真珠雲 (JP-60) D=12.5
コレクタ「真珠雲」 「竜珠」交配なので非常に葉型が良い。


夜光雲-3  D=13
コレクタ「夜光雲」 もっとも白雲の顕著なコレクタ。(この個体はその後腐死してしまった)


清涼界 (2)
コンプトコレクタ「清涼界」 明瞭な白雲の出るスコットコレクサ実生品種。

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